第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法18

Sun. Jun 1, 2014 9:30 AM - 10:20 AM ポスター会場 (神経)

座長:権藤要(星ヶ丘医療センターリハビリテーション部)

神経 ポスター

[1402] 拡散テンソル画像の理学療法における有用性

山本哲1, 岡本善敬1, 武下直樹1, 梅原裕樹1, 門馬正彦2, 河野豊3, 沼田憲治4 (1.茨城県立医療大学保健医療科学研究科, 2.茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科, 3.茨城県立医療大学付属病院神経内科, 4.茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:拡散テンソル画像, 再現性, 運動機能

【はじめに,目的】
拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging以下,DTI)は現時点で,生体内において非侵襲的に白質線維方向を表す唯一の方法であるとされる。近年リハビリテーションの領域においても,DTIを用いて大脳白質の構造的異常の評価を行った報告が増えている。脳梗塞患者にDTIを用いることで,錐体路のワーラー変性がより早期に判断できるとの報告がある(Thomalla et al, 2005)。また脳梗塞発症後8ヶ月時点の運動機能は,発症後2週時点の拡散異方性(Fractional Anisotoropy以下,FA)と相関する(Liu et al, 2012)ため,運動機能予後予測にFAは有用であると考えられる。
FAの値は原理的には撮像方法によって大きな差はない(青木,2005)と言われているが,実際のMRIの撮像パラメータや解析方法等により変化しうるため,DTIを使用する施設毎に値の検討が必要である。そこで本研究は,1)当院のDTI撮影環境および解析環境におけるFAの再現性について,健常例を対象として検討すること,2)症例データを用いて,DTIによるFA評価と運動機能障害が関連するかを検討することとした。
【方法】
健常例は,中枢神経に既往がない若年健常人20名(年齢30歳±11歳)とした。また症例は 1)大脳の疾患を有し,2)損傷領域は左放線冠を含む領域で右片麻痺を呈しており,3)発症から1年以上経過し,4)入院中にDTI撮影を行なうことができた患者3名(Case1,2,3)とした。年齢はそれぞれ(26,43,74)歳であった。
頭部MRI撮影にはTOSHIBA社製1.5テスラMRI装置を使用した。撮影パラメータは以下の通りである(フリップ角90°/180°,TR=10000,TE=100,マトリックス128×128,FOV 260mm×260mm,スライス厚3mm,スライス数45枚,加算回数4回,b値=1000,MPG6軸)。DTIの解析には東大放射線科開発のフリーウェア,dTVを使用した。左右の大脳脚中央部を関心領域に設定し,その部位のFA値を算出した。健常群はさらにFAの平均値および標準偏差を算出した。
患者の運動機能評価はBrunnstrom stage(BRS)上肢-手指-下肢スコアにおいて最も低いものとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を施行するにあたって,全ての対象者にヘルシンキ宣言の理念に則った研究説明を行い,文書を以て同意を得た。また本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
健常群のFA(右/左)は(0.80±0.04/0.80±0.04)であった。患者のFA(右/左)は,Case1(0.69/0.34),Case2(0.72/0.40),Case3(0.67/0.50)と,障害側大脳脚のFAは非障害側と比較し減少していた。Case(1,2,3)のBRSはそれぞれ(I,II,III)であった。
【考察】
DTIのパラメータであるFAは,白質が密な部位はFAが1に近く,白質が疎な部位は0に近くなる値である。ワーラー変性などによりFAは低下すると報告されている(Wieshmann et al, 1999)。
本研究の結果において,健常群のFAは安定して高値をとっていた。この結果から,当院の撮影環境および解析環境において,FAは若年健常者の代表値として用い得ることが示唆された。また患者の障害側大脳脚のFAは,非障害側と比較し減少していたため,障害側の錐体路はワーラー変性を来たし,神経障害を受けていると推察される。また患者のBRSはIII以下であり,運動障害は重度であったため,FAは運動機能障害を表す指標となる可能性が示唆された。
今後の研究の展望として,1)症例数を増やして検討を行う,2)入院時と退院時の2点においてDTI撮影を行い,運動機能障害との相関を調べたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
本手法は,関心領域を損傷領域ではなく大脳脚とするため,錐体路障害の評価において,損傷領域のみの評価ではなく,経路としての評価が可能となる。理学療法における錐体路障害の評価および予後予測を行う上で有用であると思われる。