[1408] 跨ぎ動作による障害物回避計画時の脳活動
Keywords:跨ぎ動作, 運動計画, 脳活動
【はじめに,目的】
跨ぎ動作に関する研究として,障害物の2~3歩前から歩幅修正が生じる(Moraes,2004)ことや,障害物を跨ぐ4歩手前から視覚情報を遮断しても障害物接触回数は増加しない(Mohagheghi,2004)ことが明らかにされている。従って,障害物を跨ぐ以前から運動戦略の変化が起こり,さらに運動戦略の変化が起こる前の視覚情報を用いて跨ぎ動作の運動計画を修正していることが考えられる。この運動計画の修正は大脳皮質機能と想定されるが,跨ぎ動作に関する大脳皮質活動を調べた研究は,ヒトが跨ぎ動作をイメージした際の活動(Wang,2009)や,ネコが障害物を跨ぐために前足をあげる直前の活動(Drew,2010)などが調べられたのみで,ヒトの跨ぎ動作の運動計画時の脳活動を調べた報告はない。そこで本研究の目的は,跨ぎ動作での障害物回避計画時の脳活動を明らかにすることとした。
【方法】
対象は健常成人8名(男性6名,年齢26.7±3.5歳)とした。課題は,障害物設置位置の要因[歩行開始地点から4歩目(near条件)と8歩目(far条件)]と障害物の高さの要因(障害物なし,高さ1cm,高さ20cm)を組み合わせた計6条件とし,それらをランダムに実施した。各条件とも,閉眼立位10秒後に開眼し,その6秒後に歩行を開始し,障害物を跨いだ後3歩までは歩行を継続するよう設定した。脳波の測定には高機能デジタル脳波計Active Two System(BioSemi社製)を用い,64チャンネル,サンプリング周波数1024Hzで記録した。さらに,歩行中の歩幅の測定には床反力計WinFIM(zebris社製)を用い,サンプリング周波数は100Hzで記録した。脳波データの解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社製)を使用した。閉眼時から歩行開始までの12秒間(安静時として閉眼時の6秒間,運動計画時として開眼してから歩行開始までの6秒間)の範囲において,パワースペクトラム解析を実施した。解析チャンネルはFCz(運動前野領域),Fz(補足運動野領域),P3(左頭頂葉領域),P4(右頭頂葉領域)とした。また,被験者毎の波形データから選択したチャンネルのα波(8~13Hz),β波(13~30Hz),γ波(30~70Hz)の各々において抽出したパワー値からEvent-Related Desynchronization(ERD)を算出した(Percio,2007)。ERDはERD=(E-R)/R×100の式を用いて処理した。なお,Eに開眼時のパワー値をRに閉眼時のパワー値を挿入し算出した。統計処理には①脳活動,②歩幅の1歩目,2歩目,3歩目の各々において,障害物設置位置と高さの二要因とした二元配置分散分析およびTukeyの多重比較法を用いた。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た。
【結果】
歩幅においては3歩目において障害物の高さの要因で主効果(F(2.4)=4.66,p<0.05)がみられ,下位検定ではnear条件において高さ20cm条件が障害物なし条件で有意に増加(p<0.05)した。一方,far条件では障害物の有無で有意差はなかった。脳波に関しては,左頭頂葉(P3)のγ周波数帯域において交互作用は認められないものの,位置・高さの要因に主効果(F(2.4)=12.11,p<0.01)があった。位置の要因ではnearがfarに対して有意な増加を,高さの要因では高さ20cmが高さ1cmおよび障害物なし条件に対して有意な増加を認めた(p<0.01)。その他,左頭頂葉領域のα,β周波数帯域,右頭頂葉領域(P4),運動前野領域(FCz),補足運動野領域(Fz)のα,β,γ周波数帯域に有意な変化は見られなかった。
【考察】
3歩目の歩幅において,near条件では高さ20cm条件が障害物なし条件に対し増加したが,far条件では障害物の有無で変化はなかった。つまりnear条件の際に運動計画が修正されたことが示唆される。一方,脳活動の変化としては,左頭頂葉のγ周波数帯域において高さの要因において高さ20cmが高さ1cmや障害物なしに比べ活動が増加し,さらに距離の要因においてはnearがfarに比べ活動が増加した。よって,本結果から跨ぎ動作の運動計画の修正時に左頭頂葉のγ帯域の活動が関与することが考えられる。一方,補足運動野,運動前野の活動には有意差は見られなかった。補足運動野や運動前野は跨ぎ運動に関与し(Wang,2009),頭頂葉は歩幅の修正に関与(Drew,2010)するとの先行研究から本結果を考えると,本結果の頭頂葉の活動は跨ぎ動作のための歩幅調整に働いていることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
障害物回避動作の計画時に頭頂葉の活動が変化することを明らかとした。本結果は歩行時における跨ぎ動作障害の原因究明に寄与する結果と言えよう。
跨ぎ動作に関する研究として,障害物の2~3歩前から歩幅修正が生じる(Moraes,2004)ことや,障害物を跨ぐ4歩手前から視覚情報を遮断しても障害物接触回数は増加しない(Mohagheghi,2004)ことが明らかにされている。従って,障害物を跨ぐ以前から運動戦略の変化が起こり,さらに運動戦略の変化が起こる前の視覚情報を用いて跨ぎ動作の運動計画を修正していることが考えられる。この運動計画の修正は大脳皮質機能と想定されるが,跨ぎ動作に関する大脳皮質活動を調べた研究は,ヒトが跨ぎ動作をイメージした際の活動(Wang,2009)や,ネコが障害物を跨ぐために前足をあげる直前の活動(Drew,2010)などが調べられたのみで,ヒトの跨ぎ動作の運動計画時の脳活動を調べた報告はない。そこで本研究の目的は,跨ぎ動作での障害物回避計画時の脳活動を明らかにすることとした。
【方法】
対象は健常成人8名(男性6名,年齢26.7±3.5歳)とした。課題は,障害物設置位置の要因[歩行開始地点から4歩目(near条件)と8歩目(far条件)]と障害物の高さの要因(障害物なし,高さ1cm,高さ20cm)を組み合わせた計6条件とし,それらをランダムに実施した。各条件とも,閉眼立位10秒後に開眼し,その6秒後に歩行を開始し,障害物を跨いだ後3歩までは歩行を継続するよう設定した。脳波の測定には高機能デジタル脳波計Active Two System(BioSemi社製)を用い,64チャンネル,サンプリング周波数1024Hzで記録した。さらに,歩行中の歩幅の測定には床反力計WinFIM(zebris社製)を用い,サンプリング周波数は100Hzで記録した。脳波データの解析にはEMSE Suite(Source Signal Imaging社製)を使用した。閉眼時から歩行開始までの12秒間(安静時として閉眼時の6秒間,運動計画時として開眼してから歩行開始までの6秒間)の範囲において,パワースペクトラム解析を実施した。解析チャンネルはFCz(運動前野領域),Fz(補足運動野領域),P3(左頭頂葉領域),P4(右頭頂葉領域)とした。また,被験者毎の波形データから選択したチャンネルのα波(8~13Hz),β波(13~30Hz),γ波(30~70Hz)の各々において抽出したパワー値からEvent-Related Desynchronization(ERD)を算出した(Percio,2007)。ERDはERD=(E-R)/R×100の式を用いて処理した。なお,Eに開眼時のパワー値をRに閉眼時のパワー値を挿入し算出した。統計処理には①脳活動,②歩幅の1歩目,2歩目,3歩目の各々において,障害物設置位置と高さの二要因とした二元配置分散分析およびTukeyの多重比較法を用いた。統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た。
【結果】
歩幅においては3歩目において障害物の高さの要因で主効果(F(2.4)=4.66,p<0.05)がみられ,下位検定ではnear条件において高さ20cm条件が障害物なし条件で有意に増加(p<0.05)した。一方,far条件では障害物の有無で有意差はなかった。脳波に関しては,左頭頂葉(P3)のγ周波数帯域において交互作用は認められないものの,位置・高さの要因に主効果(F(2.4)=12.11,p<0.01)があった。位置の要因ではnearがfarに対して有意な増加を,高さの要因では高さ20cmが高さ1cmおよび障害物なし条件に対して有意な増加を認めた(p<0.01)。その他,左頭頂葉領域のα,β周波数帯域,右頭頂葉領域(P4),運動前野領域(FCz),補足運動野領域(Fz)のα,β,γ周波数帯域に有意な変化は見られなかった。
【考察】
3歩目の歩幅において,near条件では高さ20cm条件が障害物なし条件に対し増加したが,far条件では障害物の有無で変化はなかった。つまりnear条件の際に運動計画が修正されたことが示唆される。一方,脳活動の変化としては,左頭頂葉のγ周波数帯域において高さの要因において高さ20cmが高さ1cmや障害物なしに比べ活動が増加し,さらに距離の要因においてはnearがfarに比べ活動が増加した。よって,本結果から跨ぎ動作の運動計画の修正時に左頭頂葉のγ帯域の活動が関与することが考えられる。一方,補足運動野,運動前野の活動には有意差は見られなかった。補足運動野や運動前野は跨ぎ運動に関与し(Wang,2009),頭頂葉は歩幅の修正に関与(Drew,2010)するとの先行研究から本結果を考えると,本結果の頭頂葉の活動は跨ぎ動作のための歩幅調整に働いていることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
障害物回避動作の計画時に頭頂葉の活動が変化することを明らかとした。本結果は歩行時における跨ぎ動作障害の原因究明に寄与する結果と言えよう。