第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節20

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM 第12会場 (5F 502)

座長:立花孝(信原病院リハビリテーション科)

運動器 口述

[1423] 肩関節拘縮及び周囲炎患者に対する初期評価におけるShoulder36 ver.1.3の領域間の関係性

伊藤悠紀1, 牛山直子1, 多賀将仁1, 横山慶一1, 百瀬公人2 (1.富士見高原医療福祉センター富士見高原病院理学療法科, 2.信州大学医学部保健学科理学療法学専攻)

Keywords:肩関節周囲炎, 患者立脚評価, Shoulder36

【はじめに,目的】
アメリカではアウトカム研究において生命の質に関する研究が盛んで,従来の客観的評価とともに,患者立脚型の主観的評価は医療の質を評価する上で重要な医療アウトカムの指標として考えられるようになってきた。肩関節においてはJOAスコアが広く利用されてきたが,客観的評価方法であったため,患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver1.3(以下Sh36)が近年作成された。
Sh36は患者自身が重症度を5段階で評価する質問36問により構成される。質問内容が理解できず,答えられない場合は回答しなくて良いとされている。36の質問は,疼痛,可動域,筋力,健康感,日常生活動作,スポーツ活動という6領域に分けられ,各領域の有効回答について平均値を計算する。
評価においては,疼痛,可動域,筋力は相互に影響し合うため,その影響を考慮することが必要であると考えられるが,相互の影響を過剰に許容すると,項目を個別に評価することは難しくなる。Sh36は独立した6領域毎の比較検討が原則であり,6領域の点数もしくはその一部を合計した値を利用しないよう明記されている点から,疼痛や可動域や筋力といった各項目を独立して評価する立場で作成されていると考えられる。しかし領域間の関係性については確かめられておらず,相互の影響がどの程度反映されているかは不明である。そこで本研究の目的は,主観的評価であるSh36の各領域の関係性を明らかにすることとした。
【方法】
研究期間は,平成25年3月11日から10月23日である。適応基準は研究期間内に当院整形外科を受診し,肩関節拘縮及び周囲炎に対する理学療法が処方された患者とした。除外基準は,腱板損傷,骨折,外傷,神経疾患を合併している者とした。腱板損傷の評価は,主治医が必要と判断した場合にMRI検査を行っている。
当院では理学療法処方が出た患者に対して,処方日にSh36を渡し自宅で回答してもらい,理学療法介入初日に回収する方法で主観的初期評価を行っている。Sh36各領域の平均値を算出し,各領域間のSpearmanの順位相関分析を実施した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院理学療法科では介入手順として全ての肩関節拘縮,周囲炎,腱板損傷患者に対して,Sh36による初期評価を行っている。本研究はそのデータを利用したため患者に直接同意を得てはいないが,後方視的研究として当院の倫理審査委員会の承認を得ている。
【結果】
34例34肩が適応基準を満たした。そのうち腱板損傷を合併している1例1肩,脊髄損傷を合併している1例1肩,食道癌に対する開胸術後神経障害性疼痛患者1例1肩が除外基準を満たした。最終的に31例31肩が研究対象として選択された。31肩の属性としては,男性18名女性13名,年齢59.48±14.45歳,身長161.74±8.21cm,体重61.37±11.86kgであった。スポーツ領域では,無回答者が5例5肩いた。Sh36の各組み合わせでは,15の組み合わせ全てで有意水準0.01未満となり相関関係を認めた。相関係数は,疼痛と可動域:0.83,疼痛と筋力:0.66,疼痛と健康感:0.66,疼痛と日常生活動作:0.79,疼痛とスポーツ:0.63,可動域と筋力:0.80,可動域と健康感:0.67,可動域と日常生活動作:0.94,可動域とスポーツ:0.72,筋力と健康感:0.62,筋力と日常生活動作:0.79,筋力とスポーツ:0.77,健康感と日常生活動作:0.63,健康感とスポーツ:0.60,日常生活動作とスポーツ:0.76であった。
【考察】
拘縮及び周囲炎患者の初期評価においてSh36の各領域は,全ての組み合わせで有意な相関を認め,7組に中等度の相関,8組に高い相関があった。領域毎の評価同士が強く相関するということは,Sh36を用いて拘縮及び周囲炎患者の介入前の機能を個別に評価することは難しい可能性がある。患者立脚評価であるSh36は,筋力や可動域を患者自身で評価することが難しいという理由で,ADL及びQOLに関する質問を用いて評価しているが,Sh36で評価されるADL動作は動作遂行に必要な疼痛,可動域,筋力といった機能のうちどれか一つでも欠ければ低評価となるため,領域間の相関が強くなったと考えられる。実際に介入前の各機能が相関している可能性もあるが,客観的評価の相関関係は不明であり,この点が本研究の限界と言える。今後は初期評価ではなく介入後患者についての調査や,他の肩関節疾患ではどのような関係性が得られるか,調査を継続していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
拘縮及び周囲炎患者の初期評価にSh36を利用する際には限界があることを示すことで,理学療法評価についての有効な情報を得ることが出来た。またSh36を利用した研究を行う際の基礎情報として役立つと考えられる。