[1437] 超音波画像診断装置を用いた皮膚皮下組織及び筋の弾性測定
Keywords:超音波画像診断, 変形, 弾性
【はじめに,目的】
筋筋膜性疼痛を治療対象とする徒手的理学療法においては,筋内に存在する帯状あるいは結節状のしこり(筋硬結)を正確に評価する必要がある。しかし,触診による筋硬結の評価は検者間再現性に欠けるとの報告が散在する。触診は皮膚皮下組織を介して筋に触れ,筋の中の硬い部分を探索する行為であるため,触診の検者間再現性を保障するためには,正常な皮膚皮下組織と筋それぞれの硬さを理解する必要がある。しかし,生体において皮膚皮下組織と筋の弾性を別々に測定することは難しい。C.Thenらは,MRIを用いて体表から力を加えた時の皮膚皮下組織及び筋の変形を観察することでこれを実現した。しかし,MRIは1断層撮影するのに長時間を要するため圧迫条件を細かく設定できておらず,結果として応力-ひずみ線の連続性がうまく保たれていない。また,比較的線形変形を示す圧迫初期の変形が確認できていない。そこで,簡便かつ短時間で断層像を得られる超音波画像診断装置を使用し,軽微な圧迫力における領域を中心に,より詳細な圧迫条件における皮膚皮下組織と筋それぞれの応力-ひずみ線を求めることとした
【方法】
対象は健常な男子学生(身長:172 cm,体重:61 kg,BMI:20.6)1人である。測定対象部位は右の臀部(中殿筋存在部位)とした。圧迫する方向が中殿筋の深層に存在する腸骨に対してできるだけ垂直となるようにするため,被験者の肢位は左半腹臥位とし,さらに頭部が低くなる方向にベッドを20度傾斜させた。測定対象部位に一定の圧迫力を加えるために引張圧縮試験機(今田製作所SV-52NA型)を用いた。また,圧迫時の断層画像の撮影には超音波画像診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NEMIO SSA-550A)を用いた。引張圧縮試験機に延長アームを取り付け,これに超音波画像診断装置のプローブ(東芝メディカルシステムズ株式会社PLM-1204AT)を固定することで,プローブでの圧迫と同時に断層撮影ができるようにした。引張圧縮試験機を手動で操作し,目的とする圧力に達するまで圧を加えたところで停止し,これとほぼ同時に撮影画像をフリーズさせ,その画像をデジタルデータとして保存した。なお,加えた圧力は0-50 Nの範囲であり,0-5 Nの範囲では0.2 N毎に,5-10 Nの範囲では0.5 N毎に,10-20 Nの範囲では1 N毎に,20-30 Nの範囲では2 N毎に30-50 Nの範囲では5 N毎に圧力を変化させ撮影を行った。保存したエコー画像から各圧力を加えたときの皮膚皮下組織及び筋の厚さを画像編集ソフト(アドビシステムズ社Adobe Photoshop 7.0)を用いて計測した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆頭演者が所属する研究倫理委員会の承認を受けている。対象者には研究内容に関する説明を口頭または書面にて行い,理解を得た上で同意を得た。
【結果】
皮膚皮下組織は圧迫力が1 Nに達する付近までほぼ線形変形を示したが,その後は急激に変形率が減少した。筋は圧迫力が10 Nに達する付近までほぼ線形変形を示したが,その後は徐々に変形率が減少した。そこで,皮膚皮下組織及び筋の弾性率(ヤング率)を求めるために,それぞれの応力-ひずみ線への近似直線の決定係数(R2値)が0.95以上となる範囲を抽出した。その結果,皮膚皮下組織は圧迫力が0.4-1.4 Nである範囲が抽出され,その範囲におけるヤング率は約4.85 kPaと算出された。また,筋は圧迫力が2.4-14.0 Nである範囲が抽出され,その範囲におけるヤング率は約64.95 kPaと算出された。
【考察】
超音波画像診断装置を用いて皮膚皮下組織と筋のヤング率を求めた。C.ThenらはMRIを用いた実験にて,臀部の皮膚皮下組織のヤング率は3.53 kPaであり,臀部の筋のヤング率は3.1 kPaであると報告している。また,BA.Toddらは有限要素解析により,臀部の軟部組織全体のヤング率を15.2 kPaと算出している。実験方法は異なるものの,臀部組織のヤング率は数kPaから数十kPaの範囲にあることから,本実験の測定結果は妥当なものであると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,正常な皮膚皮下組織及び筋の弾性が明らかになった。この結果をもとに皮膚皮下組織及び筋のダミーの作製を計画している。本研究は,触診を用いた筋硬結の評価の検者間再現性の向上,ひいては徒手的理学療法の発展に寄与するものと考えている。
筋筋膜性疼痛を治療対象とする徒手的理学療法においては,筋内に存在する帯状あるいは結節状のしこり(筋硬結)を正確に評価する必要がある。しかし,触診による筋硬結の評価は検者間再現性に欠けるとの報告が散在する。触診は皮膚皮下組織を介して筋に触れ,筋の中の硬い部分を探索する行為であるため,触診の検者間再現性を保障するためには,正常な皮膚皮下組織と筋それぞれの硬さを理解する必要がある。しかし,生体において皮膚皮下組織と筋の弾性を別々に測定することは難しい。C.Thenらは,MRIを用いて体表から力を加えた時の皮膚皮下組織及び筋の変形を観察することでこれを実現した。しかし,MRIは1断層撮影するのに長時間を要するため圧迫条件を細かく設定できておらず,結果として応力-ひずみ線の連続性がうまく保たれていない。また,比較的線形変形を示す圧迫初期の変形が確認できていない。そこで,簡便かつ短時間で断層像を得られる超音波画像診断装置を使用し,軽微な圧迫力における領域を中心に,より詳細な圧迫条件における皮膚皮下組織と筋それぞれの応力-ひずみ線を求めることとした
【方法】
対象は健常な男子学生(身長:172 cm,体重:61 kg,BMI:20.6)1人である。測定対象部位は右の臀部(中殿筋存在部位)とした。圧迫する方向が中殿筋の深層に存在する腸骨に対してできるだけ垂直となるようにするため,被験者の肢位は左半腹臥位とし,さらに頭部が低くなる方向にベッドを20度傾斜させた。測定対象部位に一定の圧迫力を加えるために引張圧縮試験機(今田製作所SV-52NA型)を用いた。また,圧迫時の断層画像の撮影には超音波画像診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NEMIO SSA-550A)を用いた。引張圧縮試験機に延長アームを取り付け,これに超音波画像診断装置のプローブ(東芝メディカルシステムズ株式会社PLM-1204AT)を固定することで,プローブでの圧迫と同時に断層撮影ができるようにした。引張圧縮試験機を手動で操作し,目的とする圧力に達するまで圧を加えたところで停止し,これとほぼ同時に撮影画像をフリーズさせ,その画像をデジタルデータとして保存した。なお,加えた圧力は0-50 Nの範囲であり,0-5 Nの範囲では0.2 N毎に,5-10 Nの範囲では0.5 N毎に,10-20 Nの範囲では1 N毎に,20-30 Nの範囲では2 N毎に30-50 Nの範囲では5 N毎に圧力を変化させ撮影を行った。保存したエコー画像から各圧力を加えたときの皮膚皮下組織及び筋の厚さを画像編集ソフト(アドビシステムズ社Adobe Photoshop 7.0)を用いて計測した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆頭演者が所属する研究倫理委員会の承認を受けている。対象者には研究内容に関する説明を口頭または書面にて行い,理解を得た上で同意を得た。
【結果】
皮膚皮下組織は圧迫力が1 Nに達する付近までほぼ線形変形を示したが,その後は急激に変形率が減少した。筋は圧迫力が10 Nに達する付近までほぼ線形変形を示したが,その後は徐々に変形率が減少した。そこで,皮膚皮下組織及び筋の弾性率(ヤング率)を求めるために,それぞれの応力-ひずみ線への近似直線の決定係数(R2値)が0.95以上となる範囲を抽出した。その結果,皮膚皮下組織は圧迫力が0.4-1.4 Nである範囲が抽出され,その範囲におけるヤング率は約4.85 kPaと算出された。また,筋は圧迫力が2.4-14.0 Nである範囲が抽出され,その範囲におけるヤング率は約64.95 kPaと算出された。
【考察】
超音波画像診断装置を用いて皮膚皮下組織と筋のヤング率を求めた。C.ThenらはMRIを用いた実験にて,臀部の皮膚皮下組織のヤング率は3.53 kPaであり,臀部の筋のヤング率は3.1 kPaであると報告している。また,BA.Toddらは有限要素解析により,臀部の軟部組織全体のヤング率を15.2 kPaと算出している。実験方法は異なるものの,臀部組織のヤング率は数kPaから数十kPaの範囲にあることから,本実験の測定結果は妥当なものであると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,正常な皮膚皮下組織及び筋の弾性が明らかになった。この結果をもとに皮膚皮下組織及び筋のダミーの作製を計画している。本研究は,触診を用いた筋硬結の評価の検者間再現性の向上,ひいては徒手的理学療法の発展に寄与するものと考えている。