[1438] 超音波画像による横隔膜筋厚の性差の検討
Keywords:横隔膜筋厚, 呼吸筋力, 性差
【はじめに,目的】一般的に,女性は男性に比べて全体の組織量に占める筋量の割合が小さいことが知られている。骨格筋筋厚における性差は部位によって異なり,競技者における骨格筋筋厚の性差は,下肢よりも体幹や上肢に顕著に表れることが報告されている。一方,近年では超音波画像装置による横隔膜筋厚に関する様々な研究が散見される。その特性に関する研究では,横隔膜筋厚は肺活量や吸気筋力との関連などの検討がなされているが,横隔膜筋厚の性差に関する先行研究は見当たらない。そこで本研究では,超音波画像により測定した横隔膜筋厚の性差について検討することを目的とした。
【方法】健常な若年男性20名(年齢21.0±2.2歳,身長172.7±5.4 cm,体重66.3±11.2kg)および若年女性20名(年齢22.5±2.5歳,身長158.3±5.4 cm,体重49.4±5.8kg)を対象に,超音波による横隔膜筋厚,最大吸気口腔内圧(PImax),最大呼気口腔内圧(PEmax),腹部隆起力の測定を実施した。横隔膜筋厚は,超音波診断装置(TOSHIBA,AprioTMMX)を用い,右中腋窩腺上の第10肋間にプローブを垂直に当て,最大呼気位(RV),機能的残気量位(FRC)および最大吸気位(TLC)でのzone of appositionの筋厚を測定した。さらに,TLCの横隔膜筋厚からFRCの横隔膜筋厚を引いた横隔膜筋厚変化量と,横隔膜筋厚変化量をFRCの横隔膜筋厚で割った横隔膜筋厚変化率を算出した。PImaxおよびPEmaxの測定はスパイロメータ(チェスト,電子スパイロメータHI-801)を用いて測定した。腹部隆起力は,背臥位で股関節および膝関節90度屈曲位とした姿位にて,RVから最大吸気努力した際の上腹部の隆起力を,徒手筋力計(アニマ,ミュータスF1)を用いて測定した。各測定項目における性別での比較は対応のないt検定を用いた。さらに性差を認めた項目について,身長と体重を共変量として調整した共分散分析を行った。なお,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得てから開始し,被験者には事前に研究内容の説明および同意確認を書面にて行った。
【結果】女性におけるRV,FRC,TLCの筋厚の平均値はそれぞれ1.9 cm,2.0 cm,4.2 cmであった。一方,男性におけるRV,FRC,TLCの筋厚は,2.5cm,2.8cm,5.5 cmであり,女性の横隔膜筋厚は男性と比較し有意に低値であった(p<0.01)。また,女性における横隔膜筋厚変化量は男性に比べて有意に低値であった(2.3 cm vs 2.8 cm,p<0.05)が,横隔膜筋厚変化率に性差は認められなかった(女性:117.5%,男性:101.5%,p>0.05)。女性は男性に比べて,腹部隆起力(13.0 kgf vs 18.4 kgf),PImax(68.5 cmH20 vs 120.3 cmH20),PEmax(49.5 cmH20 vs 81.7 cmH20)が有意に低値であった(すべてp<0.01)。身長と体重を共変量として投入した共分散分析では,RV(F値=6.26,p=0.02),FRC(F値=5.61,p=0.02),TLC(F値=4.51,p=0.04)での横隔膜筋厚,腹部隆起力(F値=4.58,P=0.04),PImax(F値=4.73。p=0.04),PEmax(F値=4.85,p=0.04)は依然として性差を認めたが,横隔膜筋厚変化量は性差を認めなかった(F=1.49,p=0.23)。
【考察】本研究の結果より,RV,FRCおよびTLCでの横隔膜筋厚は性差を認めた。一般的に骨格筋の筋厚は筋力との相関があり,横隔膜筋厚と腹部隆起力との相関についても昨年の当学会で我々が報告した。この筋厚の性差がPImax,PEmax,腹部隆起力の性差に寄与しているものと推察された。一方,身長および体重で調整した横隔膜筋厚変化量に性差を認めなかった。このことは,横隔膜筋厚変化率が性差を認めなかったことからも,横隔膜筋厚変化量はFRCでの横隔膜筋厚に依存していることが考えられる。従って横隔膜筋厚変化量は性差による影響が少なく,むしろ体型や胸廓の形態などに影響している可能性がある。今後,加齢に伴う横隔膜筋厚の変化などについてさらなる研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】超音波画像から得た横隔膜機能に関する測定値が横隔膜機能評価や呼吸筋トレーニングの効果判定として有用である可能性がある。本研究では,超音波画像によって得られる測定値の特性の一つを知ることができ,今後の超音波画像による横隔膜機能評価への発展に寄与するものであると考える。
【方法】健常な若年男性20名(年齢21.0±2.2歳,身長172.7±5.4 cm,体重66.3±11.2kg)および若年女性20名(年齢22.5±2.5歳,身長158.3±5.4 cm,体重49.4±5.8kg)を対象に,超音波による横隔膜筋厚,最大吸気口腔内圧(PImax),最大呼気口腔内圧(PEmax),腹部隆起力の測定を実施した。横隔膜筋厚は,超音波診断装置(TOSHIBA,AprioTMMX)を用い,右中腋窩腺上の第10肋間にプローブを垂直に当て,最大呼気位(RV),機能的残気量位(FRC)および最大吸気位(TLC)でのzone of appositionの筋厚を測定した。さらに,TLCの横隔膜筋厚からFRCの横隔膜筋厚を引いた横隔膜筋厚変化量と,横隔膜筋厚変化量をFRCの横隔膜筋厚で割った横隔膜筋厚変化率を算出した。PImaxおよびPEmaxの測定はスパイロメータ(チェスト,電子スパイロメータHI-801)を用いて測定した。腹部隆起力は,背臥位で股関節および膝関節90度屈曲位とした姿位にて,RVから最大吸気努力した際の上腹部の隆起力を,徒手筋力計(アニマ,ミュータスF1)を用いて測定した。各測定項目における性別での比較は対応のないt検定を用いた。さらに性差を認めた項目について,身長と体重を共変量として調整した共分散分析を行った。なお,危険率は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得てから開始し,被験者には事前に研究内容の説明および同意確認を書面にて行った。
【結果】女性におけるRV,FRC,TLCの筋厚の平均値はそれぞれ1.9 cm,2.0 cm,4.2 cmであった。一方,男性におけるRV,FRC,TLCの筋厚は,2.5cm,2.8cm,5.5 cmであり,女性の横隔膜筋厚は男性と比較し有意に低値であった(p<0.01)。また,女性における横隔膜筋厚変化量は男性に比べて有意に低値であった(2.3 cm vs 2.8 cm,p<0.05)が,横隔膜筋厚変化率に性差は認められなかった(女性:117.5%,男性:101.5%,p>0.05)。女性は男性に比べて,腹部隆起力(13.0 kgf vs 18.4 kgf),PImax(68.5 cmH20 vs 120.3 cmH20),PEmax(49.5 cmH20 vs 81.7 cmH20)が有意に低値であった(すべてp<0.01)。身長と体重を共変量として投入した共分散分析では,RV(F値=6.26,p=0.02),FRC(F値=5.61,p=0.02),TLC(F値=4.51,p=0.04)での横隔膜筋厚,腹部隆起力(F値=4.58,P=0.04),PImax(F値=4.73。p=0.04),PEmax(F値=4.85,p=0.04)は依然として性差を認めたが,横隔膜筋厚変化量は性差を認めなかった(F=1.49,p=0.23)。
【考察】本研究の結果より,RV,FRCおよびTLCでの横隔膜筋厚は性差を認めた。一般的に骨格筋の筋厚は筋力との相関があり,横隔膜筋厚と腹部隆起力との相関についても昨年の当学会で我々が報告した。この筋厚の性差がPImax,PEmax,腹部隆起力の性差に寄与しているものと推察された。一方,身長および体重で調整した横隔膜筋厚変化量に性差を認めなかった。このことは,横隔膜筋厚変化率が性差を認めなかったことからも,横隔膜筋厚変化量はFRCでの横隔膜筋厚に依存していることが考えられる。従って横隔膜筋厚変化量は性差による影響が少なく,むしろ体型や胸廓の形態などに影響している可能性がある。今後,加齢に伴う横隔膜筋厚の変化などについてさらなる研究が必要である。
【理学療法学研究としての意義】超音波画像から得た横隔膜機能に関する測定値が横隔膜機能評価や呼吸筋トレーニングの効果判定として有用である可能性がある。本研究では,超音波画像によって得られる測定値の特性の一つを知ることができ,今後の超音波画像による横隔膜機能評価への発展に寄与するものであると考える。