[1456] 在宅高齢者の草取り作業と身体機能について
Keywords:在宅高齢者, 草取り, 社会参加
【はじめに】
草取り作業は,農村部に居住する高齢者の生活時間の中で大きな割合を占めている。この草取り作業では,長時間に渡って前屈・しゃがみ姿勢をとるため,腰や膝関節など身体面への負担や悪影響が危惧される反面,屋外作業での爽快感や達成感,役割を果たした充実感等を得る心理・社会的な効果も期待される。
このような草取り作業を,身体機能の低下している在宅高齢者が行なうことについて考える場合,理学療法士として身体的影響を考慮して作業中止を勧めるべきか,心理的効果を期待して継続を見守るべきか大いに迷うところであるが,今のところ,指導の拠りどころとなるような研究は見当たらない。
本研究の目的は,地域在住高齢者の草取り作業について横断的に調査し,高齢者の草取り作業の実態を,活動内容・身体機能面・心理社会面から明らかにすることである。
【方法】
対象は草取り作業を行っている地域在住の女性高齢者で,通所リハビリテーションを利用する要介護・要支援者10名(平均年齢82.0±4.9歳,以下デイケア群),地域支援事業に参加する一般高齢者12名(平均80.9±4.0歳,以下地域支援群),地域の老人クラブに所属する活動的な元気高齢者10名(平均年齢75.2±3.9歳,以下老人クラブ群)とした。日常生活における介助の有無,歩行補助具等の使用については問わないものとしたが,要介護認定を受けていたのはデイケア群の10名のみで(要介護2が1名,1が4名,要支援2が3名,1が2名),このうち9名が移動に歩行補助具を使用していた。
調査項目は,①一般的情報(家屋状況,同居家族状況等),②草取り作業実態調査(頻度,時間,草取り作業時の痛み発生経験),③膝・腰の状態(VASによる自覚的疼痛評価,整形外科疾患,骨折歴等),④身体計測(身長,体重,膝関節可動域,両膝顆間距離,両果間距離,円背度,骨密度)とした。統計処理にはSPSS 13.0Jを使用し有意水準を5%として解析を行なった。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,演者が所属する大学院の倫理委員会の承認を受けた上,対象に研究の趣旨を文書ならびに口頭で説明し,研究への参加について書面にて承諾・同意を得た。
【結果】
家屋環境では全員が一軒家の持ち家に居住し,庭,畑あるいはその両方を所有していた。同居家族のいない独居者はデイケア群4名,地域支援群1名,老人クラブ群2名であった。同居家族がいても自分以外に草取りをする人がいないと答えた者はデイケア群3名,地域支援群8名,老人クラブ群6名であった。
1回あたりの草取り作業時間の全体平均は3.0±1.0時間,1週間の作業日数の全体平均は3.0±1.5日であった。3群間の比較では,作業時間・日数のいずれも老人クラブ群で低い傾向がみられた。草取りとからだの痛みに関する質問では,草取りで腰や膝が痛くなったことが「何度もある」と答えた者はデイケア群7名,地域支援群9名,老人クラブ群4名であった。疼痛発生回数により0~3回群と「何度もある」群に分けて比較したところ,作業時間,日数とも有意差を認めなかった。
骨密度を若年成人平均値に対する割合でみると,デイケア群(平均56.0±14.7%),地域支援群(平均67.4±10.9%)より老人クラブ群(平均79.1±12.8%)の方が有意に高かった。
両膝顆間距離についてはデイケア群が他の2群より有意に大きく,膝関節伸展制限については地域支援群が他の2群より有意に大きかった。また全対象を両膝顆間距離の平均以上群と未満群とで比較したところ,平均以上群では未満群に比較して年齢および作業日数(ともにp<0.05),作業時間のいずれも高い傾向を認めた。
【考察】
在宅高齢者を身体機能や活動性の違いから3つの群にわけて草取り作業実態を調査した。3群間の比較において,デイケア群では歩行補助具使用者が多く,骨密度が低下し,膝の変形が進んでいるにも関わらず,草取りの時間・日数とも他群と有意差がなかった。加齢とともに身体機能が衰えた高齢者も行っている作業であるということが明示された。
また,草取りが原因での腰痛・膝痛の発生回数が多くても作業時間,日数に有意差が見られなかったことから,痛みが緩和すれば疼痛発生以前と同様の作業を行っている高齢者が多いと考える。
一方,両膝顆間距離が大きい者ほど,草取りに費やす作業時間が長く日数が多い傾向が認められた。これは,頻回で長時間の草取りが膝の変形に影響を及ぼしている可能性を示唆する。
以上のことから,身体機能が衰えた高齢者の草取りに対しては痛みの発生等に伴って作業時間,頻度を減少させていくような指導が必要と考える。
【理学療法研究としての意義】
本研究は理学療法士が,高齢者の草取り作業実態を把握しその身体的影響を知る意味で有意義と思われる。
草取り作業は,農村部に居住する高齢者の生活時間の中で大きな割合を占めている。この草取り作業では,長時間に渡って前屈・しゃがみ姿勢をとるため,腰や膝関節など身体面への負担や悪影響が危惧される反面,屋外作業での爽快感や達成感,役割を果たした充実感等を得る心理・社会的な効果も期待される。
このような草取り作業を,身体機能の低下している在宅高齢者が行なうことについて考える場合,理学療法士として身体的影響を考慮して作業中止を勧めるべきか,心理的効果を期待して継続を見守るべきか大いに迷うところであるが,今のところ,指導の拠りどころとなるような研究は見当たらない。
本研究の目的は,地域在住高齢者の草取り作業について横断的に調査し,高齢者の草取り作業の実態を,活動内容・身体機能面・心理社会面から明らかにすることである。
【方法】
対象は草取り作業を行っている地域在住の女性高齢者で,通所リハビリテーションを利用する要介護・要支援者10名(平均年齢82.0±4.9歳,以下デイケア群),地域支援事業に参加する一般高齢者12名(平均80.9±4.0歳,以下地域支援群),地域の老人クラブに所属する活動的な元気高齢者10名(平均年齢75.2±3.9歳,以下老人クラブ群)とした。日常生活における介助の有無,歩行補助具等の使用については問わないものとしたが,要介護認定を受けていたのはデイケア群の10名のみで(要介護2が1名,1が4名,要支援2が3名,1が2名),このうち9名が移動に歩行補助具を使用していた。
調査項目は,①一般的情報(家屋状況,同居家族状況等),②草取り作業実態調査(頻度,時間,草取り作業時の痛み発生経験),③膝・腰の状態(VASによる自覚的疼痛評価,整形外科疾患,骨折歴等),④身体計測(身長,体重,膝関節可動域,両膝顆間距離,両果間距離,円背度,骨密度)とした。統計処理にはSPSS 13.0Jを使用し有意水準を5%として解析を行なった。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,演者が所属する大学院の倫理委員会の承認を受けた上,対象に研究の趣旨を文書ならびに口頭で説明し,研究への参加について書面にて承諾・同意を得た。
【結果】
家屋環境では全員が一軒家の持ち家に居住し,庭,畑あるいはその両方を所有していた。同居家族のいない独居者はデイケア群4名,地域支援群1名,老人クラブ群2名であった。同居家族がいても自分以外に草取りをする人がいないと答えた者はデイケア群3名,地域支援群8名,老人クラブ群6名であった。
1回あたりの草取り作業時間の全体平均は3.0±1.0時間,1週間の作業日数の全体平均は3.0±1.5日であった。3群間の比較では,作業時間・日数のいずれも老人クラブ群で低い傾向がみられた。草取りとからだの痛みに関する質問では,草取りで腰や膝が痛くなったことが「何度もある」と答えた者はデイケア群7名,地域支援群9名,老人クラブ群4名であった。疼痛発生回数により0~3回群と「何度もある」群に分けて比較したところ,作業時間,日数とも有意差を認めなかった。
骨密度を若年成人平均値に対する割合でみると,デイケア群(平均56.0±14.7%),地域支援群(平均67.4±10.9%)より老人クラブ群(平均79.1±12.8%)の方が有意に高かった。
両膝顆間距離についてはデイケア群が他の2群より有意に大きく,膝関節伸展制限については地域支援群が他の2群より有意に大きかった。また全対象を両膝顆間距離の平均以上群と未満群とで比較したところ,平均以上群では未満群に比較して年齢および作業日数(ともにp<0.05),作業時間のいずれも高い傾向を認めた。
【考察】
在宅高齢者を身体機能や活動性の違いから3つの群にわけて草取り作業実態を調査した。3群間の比較において,デイケア群では歩行補助具使用者が多く,骨密度が低下し,膝の変形が進んでいるにも関わらず,草取りの時間・日数とも他群と有意差がなかった。加齢とともに身体機能が衰えた高齢者も行っている作業であるということが明示された。
また,草取りが原因での腰痛・膝痛の発生回数が多くても作業時間,日数に有意差が見られなかったことから,痛みが緩和すれば疼痛発生以前と同様の作業を行っている高齢者が多いと考える。
一方,両膝顆間距離が大きい者ほど,草取りに費やす作業時間が長く日数が多い傾向が認められた。これは,頻回で長時間の草取りが膝の変形に影響を及ぼしている可能性を示唆する。
以上のことから,身体機能が衰えた高齢者の草取りに対しては痛みの発生等に伴って作業時間,頻度を減少させていくような指導が必要と考える。
【理学療法研究としての意義】
本研究は理学療法士が,高齢者の草取り作業実態を把握しその身体的影響を知る意味で有意義と思われる。