第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

その他4

Sun. Jun 1, 2014 10:25 AM - 11:15 AM ポスター会場 (神経)

座長:白石成明(日本福祉大学健康科学部)

神経 ポスター

[1471] 歩行自立度の判定に注意障害による問題行動を把握することの有用性

米田正英, 庄司哲之, 成田遼介 (宮の森記念病院)

Keywords:歩行自立度, 注意障害, Behavioral Assessment of Attentional Disturbance

【はじめに,目的】
歩行自立度は,患者のQuality of Lifeや退院後の方向性に大きな影響を与え,リハビリテーションにおいて非常に重要な検討項目である。歩行自立度の研究は,立位バランス能力を評価するFunctional Balance Scale(以下FBS)を用いた報告が多数見られる。主に,FBSを使用した研究では転倒者をスクリーニングするための総得点を報告しているものが多い。Bergらはその基準値を45点と報告している。また,shumway-cookらは36点以下で6ヶ月以内に100%転倒すると報告している。
しかし,37点から44点の得点者においては歩行自立度に関する明確な先行研究がなく,臨床場面においても判断が難しい症例が多い。つまり,FBSだけでは判断できない「グレーゾーン」が存在している。当院においても,歩行自立度を判定する基準がないために,担当者の主観や経験によって判断されることが多く,客観性に乏しい。
一方で近年,歩行自立度と注意障害の関連性が報告されている。しかし,ponsfordらは,注意障害の評価には各種の机上検査が用いられるものの,その成績が注意障害による問題行動と直接的に結びつきにくいと報告している。2006年に実際の行動場面から,注意障害を特定の問題行動6項目から評価・点数化可能なBehavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下,BAAD)が報告され,前述の欠点を補う評価が可能となった。
そこで,FBSの総得点が37点から44点の患者をグレーゾーン患者と位置づけ,BAADを用いて歩行自立度と注意障害の関係性について検討することを目的とした。
【方法】
平成23年10月から平成25年10月までの当院入院患者のうち,グレーゾーン(FBS37点から44点)患者50名を対象とした。そのうち,脳血管障害は29名,その他の疾患は21名であった。50名のうち転倒群(15名)と非転倒群(35名)に分け,両群において年齢・BAAD・FBS・HDS-Rの合計点の差異を各々t検定にて比較した。また,転倒群と非転倒群に脳血管障害とその他の疾患による差がないかをχ²検定で比較した。その後,先述の年齢・BAAD・FBS・HDS-Rを独立変数に,転倒の有無を従属変数にしてロジスティック回帰分析(変数減少法)を行い,どの項目が転倒の有無に影響が高いかを調べた。有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,各評価時には目的,内容を説明し同意を得た。評価用紙は厳重に管理を行い,個人が特定されないように配慮を行った。
【結果】
t検定では,BAADのみが転倒群で有意に高かった(p<0.01)。χ²検定においては,脳血管障害とその他の疾患では有意差は認めなかった。ロジスティック回帰分析では,BAADのみが選択された。(p<0.01,オッズ比=1.52)判別的中率は80%であった。
【考察】
今回の結果からグレーゾーン患者において,BAADが転倒に関与することが示唆された。また,同患者においてFBS・HDS-Rは有意差を認めなかったことから,BAADが転倒の有無に強く関与していると考えられる。転倒の有無は,歩行自立度を判断するうえで最も大きな要因と考えられるため,BAADにより問題行動を把握することは歩行自立度を判断するうえで重要と思われる。さらに,脳血管障害とその他の疾患で転倒の有無に有意差を認めなかったことから,BAADの細項目が転倒に関与している可能性が考えられた。このことは,歩行自立度を判断する際に,特定の問題行動に着目する重要性を示唆していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
歩行自立度と注意障害の関連については,先行研究がいくつかあるものの,BAADを用いた報告はほとんどない。BAADは,机上検査では困難であった注意障害による問題行動を把握できるため,日常生活場面に直結するという点で有用性が高い。今回の研究で用いた指標において,BAADのみが転倒との関連性を認めたことから,BAADを用いることで歩行自立度を判定する精度を向上できる可能性があると考えられる。また,従来は主観的に判断することの多かった日常生活上の問題行動評価に対して,客観性を高めることが可能であり,Evidence Based Medicineの質の向上にも寄与できると考える。