[1475] 脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作の特徴
Keywords:片麻痺, 立ち上がり, 三次元動作解析
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺者の多くがADL動作への障害を有しリハビリテーションの対象となっている。このADL動作の中でも立ち上がり動作は頻繁に繰り返される動作の一つであり,座位時間が長い脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作の改善は理学療法治療において重要な項目である。この脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作についての報告の中には体幹前屈角度を解析項目に含めているもの(長田ら2012)もある。しかし,体幹を一つの剛体としてとらえたものであり,分節的に分けて片麻痺者の立ち上がり動作を報告しているものは見当たらない。また,片麻痺者の立ち上がり動作の自立度で分類し,それぞれの運動学的特徴を述べたものも見当たらない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作を自立度で分類し,胸郭と骨盤に分けた体幹の矢状面上の角度変化と位置変化の特徴を調べることを目的とした。
【方法】
対象は,立ち上がり動作時に一度離殿するも着座し,二度目の離殿で立位が可能となる脳卒中片麻痺者3名(70.7±4.6歳,身長165.3±1.2cm,体重57.0±5.2kg,発症期間89.3±69.0日,Fugl-Meyer Assessmentバランス動作得点(以下,FMAバランス得点)10.0±1.0点,以下,非自立群)と一度の離殿で立位に至ることが可能である脳卒中片麻痺者3名(67±8.5歳,身長166.0±5.2cm,体重59.0±6.2kg,発症期間73.3±40.5日,FMAバランス得点12.7±0.6点,以下,自立群)とした。計測機器は三次元解析装置(VICON Nexus,VICON社,カメラ8台,サンプリング周波数100Hz),床反力計4枚(AMTI社,サンプリング周波数1kHz)とした。計測課題は,高さ40cmの台から上肢の支持を使用しない立ち上がり動作5回とした。足部と臀部位置は,計測前に行った数回の練習した際に立ちやすかった位置で規定した。解析時期は座面の床反力がゼロを示した時点(以下,離殿時)とした。解析項目は胸郭と骨盤の前後傾角度の静止立位からの変化量とした。これらの角度を算出するためにTh2・頚切痕・剣状突起の3点で胸郭セグメントを定義し,両上後腸骨棘と立位時に仙骨に装着したジグから計算された麻痺側の両上前腸骨棘の4点から骨盤セグメントを定義し,それぞれの絶対空間に対する三次元角度を算出した。加えて剣状突起とTh7の中点(以下,胸郭中心点)の静止座位からの上下位置の変化量と,静止座位時の外果との前後距離を算出した。得られたデータはButterworth Filterを用いてフィルタリング処理を行い,それぞれ5施行の平均値を代表値とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当センターの倫理審査委員会の承認を得た後,対象者には書面と口頭にて研究内容について説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】
骨盤前傾角度は非自立群が16.2±7.0度,自立群が18.1±6.3度,胸郭前傾角度は非自立群が47.6±7.3度,自立群が35.9±4.9度であった。胸郭中心点の静止座位からの上下位置の変化量は非自立群が-44.1±27.7mm,自立群が-9.5±2.2mmであり,胸郭中心点の外果との前後距離は非自立群が18.5±35.1mm,自立群が55.2±22.9mm外果の後方に位置していた。
【考察】
非自立群に分類した一度の離殿で立ち上がりが困難な脳卒中片麻痺者は,胸郭の前傾と前方移動によって骨盤より上部の質量中心を足部に近づけ,force control strategyの立ち上がりパターンを選択していることが示唆された。また,離殿時に胸郭がより下方に位置していることで,自立群よりも離殿後の立位へ移行しにくかったのではないかと考えられる。一方で自立群は,健常者に多くみられる身体重心が足部上に移動する前に離殿する動作パターン(momentum strategyの立ち上がりパターン)を選択していることが示唆された。以上から,force control strategyに近いパターンでの立ち上がり動作の戦略を取り,立位へ移行しにくい脳卒中片麻痺者に対して,momentum strategyの立ち上がりパターンに改善させることを目的とした理学療法を行う際は,体幹を胸郭と骨盤で分節的に分けて矢状面の動きを評価すること,離殿時に胸郭の前傾を抑えながら前上方への移動を促すことが重要な要素の一つになり得ることが示唆された。
今後は統計学的な分析を行うためにも被験者数を増やす必要がある。加えて,健常者を対象とした先行文献(浅井ら2005)で示されている体幹前後傾角度と相関が強い下肢機能やバランス機能との関連についても明らかにしていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果により,脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作の改善を目的とした理学療法を行う場合に着目すべき点として,体幹前屈ではなく,胸郭の伸展方向への動きや胸郭の上方への動きが重要な要素となり得るという新たな知見が得られた。
脳卒中片麻痺者の多くがADL動作への障害を有しリハビリテーションの対象となっている。このADL動作の中でも立ち上がり動作は頻繁に繰り返される動作の一つであり,座位時間が長い脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作の改善は理学療法治療において重要な項目である。この脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作についての報告の中には体幹前屈角度を解析項目に含めているもの(長田ら2012)もある。しかし,体幹を一つの剛体としてとらえたものであり,分節的に分けて片麻痺者の立ち上がり動作を報告しているものは見当たらない。また,片麻痺者の立ち上がり動作の自立度で分類し,それぞれの運動学的特徴を述べたものも見当たらない。そこで本研究では,脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作を自立度で分類し,胸郭と骨盤に分けた体幹の矢状面上の角度変化と位置変化の特徴を調べることを目的とした。
【方法】
対象は,立ち上がり動作時に一度離殿するも着座し,二度目の離殿で立位が可能となる脳卒中片麻痺者3名(70.7±4.6歳,身長165.3±1.2cm,体重57.0±5.2kg,発症期間89.3±69.0日,Fugl-Meyer Assessmentバランス動作得点(以下,FMAバランス得点)10.0±1.0点,以下,非自立群)と一度の離殿で立位に至ることが可能である脳卒中片麻痺者3名(67±8.5歳,身長166.0±5.2cm,体重59.0±6.2kg,発症期間73.3±40.5日,FMAバランス得点12.7±0.6点,以下,自立群)とした。計測機器は三次元解析装置(VICON Nexus,VICON社,カメラ8台,サンプリング周波数100Hz),床反力計4枚(AMTI社,サンプリング周波数1kHz)とした。計測課題は,高さ40cmの台から上肢の支持を使用しない立ち上がり動作5回とした。足部と臀部位置は,計測前に行った数回の練習した際に立ちやすかった位置で規定した。解析時期は座面の床反力がゼロを示した時点(以下,離殿時)とした。解析項目は胸郭と骨盤の前後傾角度の静止立位からの変化量とした。これらの角度を算出するためにTh2・頚切痕・剣状突起の3点で胸郭セグメントを定義し,両上後腸骨棘と立位時に仙骨に装着したジグから計算された麻痺側の両上前腸骨棘の4点から骨盤セグメントを定義し,それぞれの絶対空間に対する三次元角度を算出した。加えて剣状突起とTh7の中点(以下,胸郭中心点)の静止座位からの上下位置の変化量と,静止座位時の外果との前後距離を算出した。得られたデータはButterworth Filterを用いてフィルタリング処理を行い,それぞれ5施行の平均値を代表値とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当センターの倫理審査委員会の承認を得た後,対象者には書面と口頭にて研究内容について説明を行い,同意を得て実施した。
【結果】
骨盤前傾角度は非自立群が16.2±7.0度,自立群が18.1±6.3度,胸郭前傾角度は非自立群が47.6±7.3度,自立群が35.9±4.9度であった。胸郭中心点の静止座位からの上下位置の変化量は非自立群が-44.1±27.7mm,自立群が-9.5±2.2mmであり,胸郭中心点の外果との前後距離は非自立群が18.5±35.1mm,自立群が55.2±22.9mm外果の後方に位置していた。
【考察】
非自立群に分類した一度の離殿で立ち上がりが困難な脳卒中片麻痺者は,胸郭の前傾と前方移動によって骨盤より上部の質量中心を足部に近づけ,force control strategyの立ち上がりパターンを選択していることが示唆された。また,離殿時に胸郭がより下方に位置していることで,自立群よりも離殿後の立位へ移行しにくかったのではないかと考えられる。一方で自立群は,健常者に多くみられる身体重心が足部上に移動する前に離殿する動作パターン(momentum strategyの立ち上がりパターン)を選択していることが示唆された。以上から,force control strategyに近いパターンでの立ち上がり動作の戦略を取り,立位へ移行しにくい脳卒中片麻痺者に対して,momentum strategyの立ち上がりパターンに改善させることを目的とした理学療法を行う際は,体幹を胸郭と骨盤で分節的に分けて矢状面の動きを評価すること,離殿時に胸郭の前傾を抑えながら前上方への移動を促すことが重要な要素の一つになり得ることが示唆された。
今後は統計学的な分析を行うためにも被験者数を増やす必要がある。加えて,健常者を対象とした先行文献(浅井ら2005)で示されている体幹前後傾角度と相関が強い下肢機能やバランス機能との関連についても明らかにしていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
今回の結果により,脳卒中片麻痺者の立ち上がり動作の改善を目的とした理学療法を行う場合に着目すべき点として,体幹前屈ではなく,胸郭の伸展方向への動きや胸郭の上方への動きが重要な要素となり得るという新たな知見が得られた。