[1480] 聴覚刺激と随意運動の組み合わせが皮質脊髄路興奮性に与える効果
キーワード:随意運動, 聴覚刺激, 運動誘発電位
【はじめに,目的】
律動的な聴覚刺激に同期して上肢の反復運動を行うことにより,運動学的変化を伴う皮質の可塑性変化が起こることはすでに示されている(Classenら,1998)。臨床では多くの運動は一定リズムで反復することが多く,運動学習上,反復運動の効率性を考慮することは少ない。反復運動は時間経過に伴い馴化が生じ,意図することなく自動化される傾向にある。この馴化を生じることなく行われる運動は,attentionを高め,より随意性を必要とする運動となる。このような高い随意性,attentionが要求される運動課題は運動の学習過程において重要な要因と考えられる。今回,聴覚刺激から誘導される運動,つまり音に追随する運動の反復に対して,その聴覚刺激を一定リズムにした状態とランダムリズムに基づく律動的な単純反復運動を遂行し,その後の皮質脊髄路興奮性変化を経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用いて検討することで,運動学習に必要なリズム運動の有効性を考察したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人13名(平均年齢24.5歳SD±5.2)で男性7名,女性6名であった。運動課題は1HzおよびランダムリズムによるBeep音に合わせた手関節の一方向性の背屈反復運動とした。被験者を1Hzの音に同期した運動を行った群(1Hz群:7名)とランダムな音に反応して運動を行った群(ランダム群:6名)に無作為に振り分けた。また,音刺激は1Hz群,ランダム群ともに電気刺激装置(日本光電社製)を用いてスピーカー音源を形成した。運動課題は20分間継続実施し,運動前と運動直後,10分後,20分後,30分後に主動作筋である橈側手根伸筋(ECR)と拮抗筋である橈側手根屈筋(FCR)の安静時MEPを同時に,各10回ずつ記録した。TMSはMagstim200(Magstim社製)を使用し,刺激コイルは8字コイルを用いた。TMSコイルは左半球一時運動野上に配置し,出力は安静時閾値の120%を用いた。サンプリング周波数は2kHz,帯域幅は0.1-1kHzとした。データ解析は,MEP振幅値を用いて運動前を基準として運動後の比率を各筋で求めた。統計解析として,聴覚刺激の与え方の条件(1Hz,ランダム)と時間経過(直後,10分後,20分後,30分後)の2要因とした分散分析後にBonferroni検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当実験は,ヘルシンキ宣言に基づき,所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行われた。また,実験の目的,安全性,方法について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】
主動作筋であるECRでは,1Hz群,ランダム群共に運動課題実施後において,皮質脊髄路興奮性の指標であるMEPが運動前と比較して抑制傾向を示した。また,30分後までの時間経過では抑制が増強する傾向を示していた。統計解析の結果,聴覚刺激の与え方の要因で主効果を認め,1Hz群と比較し,ランダム群は有意に抑制が増強していた(p<0.05)。なお,交互作用は認められなかった。さらに,時間経過による要因(直後,10分後,20分後,30分後)では,両群ともに運動終了直後よりも10分後で抑制が最も増大していた(p<0.05)。運動終了20分後以降では,1Hz群で開始前へと復す傾向があり,ランダム群では抑制傾向が残存していた。FCRについては,有意差および一貫した特徴は認められなかった。
【考察】
ランダム群では,20分間の反復運動後に1Hz群と比較して,皮質脊髄路興奮性に対する著明な抑制効果を認め,聴覚刺激の様式によりその抑制効果に解離があることが示された。一方で,1Hzでの一定周期の聴覚刺激に合わせた運動では,運動が自動化され,attentionや意図の介在が少なくなることが考えられる。また,単純な反復運動であることを考慮すると馴化はますます強くなり,皮質運動野による運動制御の関与は減衰することが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において,意図的な運動スキル獲得のために,様々な反復運動課題を用いて運動療法が行われている。当研究は聴覚刺激の様式によりその効果に解離があり,attentionや随意的な意図の介在が多いほど運動後の皮質運動野の興奮性を抑制する効果がある可能性を示した。これは運動療法を遂行する上での基礎的な知見として意義があると考えられる。
律動的な聴覚刺激に同期して上肢の反復運動を行うことにより,運動学的変化を伴う皮質の可塑性変化が起こることはすでに示されている(Classenら,1998)。臨床では多くの運動は一定リズムで反復することが多く,運動学習上,反復運動の効率性を考慮することは少ない。反復運動は時間経過に伴い馴化が生じ,意図することなく自動化される傾向にある。この馴化を生じることなく行われる運動は,attentionを高め,より随意性を必要とする運動となる。このような高い随意性,attentionが要求される運動課題は運動の学習過程において重要な要因と考えられる。今回,聴覚刺激から誘導される運動,つまり音に追随する運動の反復に対して,その聴覚刺激を一定リズムにした状態とランダムリズムに基づく律動的な単純反復運動を遂行し,その後の皮質脊髄路興奮性変化を経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用いて検討することで,運動学習に必要なリズム運動の有効性を考察したので報告する。
【方法】
対象は,健常成人13名(平均年齢24.5歳SD±5.2)で男性7名,女性6名であった。運動課題は1HzおよびランダムリズムによるBeep音に合わせた手関節の一方向性の背屈反復運動とした。被験者を1Hzの音に同期した運動を行った群(1Hz群:7名)とランダムな音に反応して運動を行った群(ランダム群:6名)に無作為に振り分けた。また,音刺激は1Hz群,ランダム群ともに電気刺激装置(日本光電社製)を用いてスピーカー音源を形成した。運動課題は20分間継続実施し,運動前と運動直後,10分後,20分後,30分後に主動作筋である橈側手根伸筋(ECR)と拮抗筋である橈側手根屈筋(FCR)の安静時MEPを同時に,各10回ずつ記録した。TMSはMagstim200(Magstim社製)を使用し,刺激コイルは8字コイルを用いた。TMSコイルは左半球一時運動野上に配置し,出力は安静時閾値の120%を用いた。サンプリング周波数は2kHz,帯域幅は0.1-1kHzとした。データ解析は,MEP振幅値を用いて運動前を基準として運動後の比率を各筋で求めた。統計解析として,聴覚刺激の与え方の条件(1Hz,ランダム)と時間経過(直後,10分後,20分後,30分後)の2要因とした分散分析後にBonferroni検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当実験は,ヘルシンキ宣言に基づき,所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得て行われた。また,実験の目的,安全性,方法について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】
主動作筋であるECRでは,1Hz群,ランダム群共に運動課題実施後において,皮質脊髄路興奮性の指標であるMEPが運動前と比較して抑制傾向を示した。また,30分後までの時間経過では抑制が増強する傾向を示していた。統計解析の結果,聴覚刺激の与え方の要因で主効果を認め,1Hz群と比較し,ランダム群は有意に抑制が増強していた(p<0.05)。なお,交互作用は認められなかった。さらに,時間経過による要因(直後,10分後,20分後,30分後)では,両群ともに運動終了直後よりも10分後で抑制が最も増大していた(p<0.05)。運動終了20分後以降では,1Hz群で開始前へと復す傾向があり,ランダム群では抑制傾向が残存していた。FCRについては,有意差および一貫した特徴は認められなかった。
【考察】
ランダム群では,20分間の反復運動後に1Hz群と比較して,皮質脊髄路興奮性に対する著明な抑制効果を認め,聴覚刺激の様式によりその抑制効果に解離があることが示された。一方で,1Hzでの一定周期の聴覚刺激に合わせた運動では,運動が自動化され,attentionや意図の介在が少なくなることが考えられる。また,単純な反復運動であることを考慮すると馴化はますます強くなり,皮質運動野による運動制御の関与は減衰することが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
臨床において,意図的な運動スキル獲得のために,様々な反復運動課題を用いて運動療法が行われている。当研究は聴覚刺激の様式によりその効果に解離があり,attentionや随意的な意図の介在が多いほど運動後の皮質運動野の興奮性を抑制する効果がある可能性を示した。これは運動療法を遂行する上での基礎的な知見として意義があると考えられる。