[1481] 認知―運動課題による疼痛抑制効果の検証
Keywords:認知課題, 運動, 痛覚感受性
【はじめに,目的】
近年,運動器慢性疼痛に対するマネジメントとして運動は世界的に推奨されている。その疼痛抑制機序としては,運動野の活動が前頭前野や帯状回など疼痛関連脳領域を介し下行性疼痛抑制系を作動させると考えられている。一方,前頭前野や帯状回は注意や集中に関与していることから,これらを要する認知課題を負荷することにより,運動でなくても疼痛を抑制しうる可能性が推察されるが,その効果は明らかでない。また,認知要素をともなう運動とともなわない単純運動による疼痛抑制効果を比較した報告も見受けられない。そこで今回,注意や集中を要し,前帯状回を賦活すると報告されているStroop taskを用い,その構成要素である解答表出のための運動要素と解答抽出のための思考や注意・集中といった認知要素に分け,運動,認知ならびにその両方を要する課題による疼痛抑制効果を比較検討した。
【方法】
対象は,健常成人30名(男性17名,女性13名,年齢20.7±0.8歳)とした。すべての対象者にStroop taskを提示し,1)解答とは関係なくボタンを押す運動課題(M課題),2)解答を思考するのみでボタンは押さない認知課題(C課題),3)解答に対応するボタンを押す認知-運動課題(CM課題)の3課題をそれぞれ3分間,ランダムに3日間以上の間隔をあけ実施させた。なお,ボタン操作は利き手で行った。測定項目は,非利き手側前腕の圧痛閾値(PPT),注意・集中の指標として前頭部近傍の脳波,さらにCM課題でのみその正答率とした。PPTは,課題前安静(pre),課題終了直後(post 0),終了5分後(post 5)に測定した。脳波はバイオフィードバック用の簡易脳波計(Mindset,Neuro Sky社)を用い,規定された左耳朶と前頭部による基準電極導出にて実験中経時的に記録した。得られた値の周波数解析から,θ波(3.50~6.75Hz),α波(7.50~9.25Hz),β波(18.00~29.75Hz)のパワー値を算出し,PPT測定時点であるpreとpost 5の各直前1分間(pre,post 5)と課題中1分間毎(task 1,2,3)の各平均値を求めた。統計学的処理は,各課題の経時的変化と課題間の比較にFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,またCM課題の正答率の違いによる比較をするために,正答率が平均未満の者(LS群)と以上の者(HS群)に分類し,各群の経時的変化をFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,群間比較をMann-WhitneyのU検定を用いて行った。有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。なお,本研究は本学医学研究倫理審査委員会の承認(番号:2013-011)を得て行った。
【結果】
PPTはCM課題でのみpost 0で有意に上昇し,他の2課題と比べても高値であった。θ波は,M課題でtask 1,CM課題で課題中を通してpreに比べ有意に増大したが,C課題では有意な変化を示さなかった。また,CM課題のθ波はtask 2でM課題とC課題,task 3でM課題より高値を示した。α波はCM課題でのみtask 1,2でpreに比べ有意に増大し,また,task 1でC課題,task 2,3でM課題よりも高値を示した。β波はC課題のみtask 2に比べpost 5で有意に増大したが,M課題とCM課題では明らかな変化を示さなかった。CM課題の正答率による比較では,PPTは両群ともpost 0で有意に上昇したが,HS群の方がLS群に比べpost 0とpost 5で有意に高値を示した。脳波は,LS群ではθ波がtask 1で,HS群ではθ波とα波がtask 1,2でpreに比べ有意に増大し,β波は両群とも有意な変化を示さなかった。
【考察】
痛覚感受性は,運動要素や認知要素のみの課題では変化せず,その両要素を含むCM課題でのみ低下した。また,CM課題では前頭部のθ波とα波の増大を示し,さらに正答率が高く,θ波やα波がより増大する者ほど疼痛抑制効果は顕著であった。前頭部のθ波はworking memory作動時や注意や集中を要する課題遂行時に増大し,前帯状回を含む前頭皮質の活動増大を反映するとされている。また,α波は一般に後頭部ではリラックス状態で増大し,視覚や聴覚刺激,認知課題により減衰することが知られているが,前頭部ではθ波同様working memory作動時に増大することも報告されている。以上より,疼痛コントロールには単純な運動よりも認知要素を取り入れた適度に注意や集中を要する運動がもっとも有効であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
薬物療法だけでは奏功しづらい慢性疼痛に対し,運動による疼痛抑制効果は世界的に注目されており,運動の有効要素について生理学的に検証した本研究は,運動療法のエビデンスレベルを向上させるものである。また,疼痛コントロールに有効な運動方法を明示している点で臨床的にも非常に意義深いと考える。
近年,運動器慢性疼痛に対するマネジメントとして運動は世界的に推奨されている。その疼痛抑制機序としては,運動野の活動が前頭前野や帯状回など疼痛関連脳領域を介し下行性疼痛抑制系を作動させると考えられている。一方,前頭前野や帯状回は注意や集中に関与していることから,これらを要する認知課題を負荷することにより,運動でなくても疼痛を抑制しうる可能性が推察されるが,その効果は明らかでない。また,認知要素をともなう運動とともなわない単純運動による疼痛抑制効果を比較した報告も見受けられない。そこで今回,注意や集中を要し,前帯状回を賦活すると報告されているStroop taskを用い,その構成要素である解答表出のための運動要素と解答抽出のための思考や注意・集中といった認知要素に分け,運動,認知ならびにその両方を要する課題による疼痛抑制効果を比較検討した。
【方法】
対象は,健常成人30名(男性17名,女性13名,年齢20.7±0.8歳)とした。すべての対象者にStroop taskを提示し,1)解答とは関係なくボタンを押す運動課題(M課題),2)解答を思考するのみでボタンは押さない認知課題(C課題),3)解答に対応するボタンを押す認知-運動課題(CM課題)の3課題をそれぞれ3分間,ランダムに3日間以上の間隔をあけ実施させた。なお,ボタン操作は利き手で行った。測定項目は,非利き手側前腕の圧痛閾値(PPT),注意・集中の指標として前頭部近傍の脳波,さらにCM課題でのみその正答率とした。PPTは,課題前安静(pre),課題終了直後(post 0),終了5分後(post 5)に測定した。脳波はバイオフィードバック用の簡易脳波計(Mindset,Neuro Sky社)を用い,規定された左耳朶と前頭部による基準電極導出にて実験中経時的に記録した。得られた値の周波数解析から,θ波(3.50~6.75Hz),α波(7.50~9.25Hz),β波(18.00~29.75Hz)のパワー値を算出し,PPT測定時点であるpreとpost 5の各直前1分間(pre,post 5)と課題中1分間毎(task 1,2,3)の各平均値を求めた。統計学的処理は,各課題の経時的変化と課題間の比較にFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,またCM課題の正答率の違いによる比較をするために,正答率が平均未満の者(LS群)と以上の者(HS群)に分類し,各群の経時的変化をFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,群間比較をMann-WhitneyのU検定を用いて行った。有意水準はすべて5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。なお,本研究は本学医学研究倫理審査委員会の承認(番号:2013-011)を得て行った。
【結果】
PPTはCM課題でのみpost 0で有意に上昇し,他の2課題と比べても高値であった。θ波は,M課題でtask 1,CM課題で課題中を通してpreに比べ有意に増大したが,C課題では有意な変化を示さなかった。また,CM課題のθ波はtask 2でM課題とC課題,task 3でM課題より高値を示した。α波はCM課題でのみtask 1,2でpreに比べ有意に増大し,また,task 1でC課題,task 2,3でM課題よりも高値を示した。β波はC課題のみtask 2に比べpost 5で有意に増大したが,M課題とCM課題では明らかな変化を示さなかった。CM課題の正答率による比較では,PPTは両群ともpost 0で有意に上昇したが,HS群の方がLS群に比べpost 0とpost 5で有意に高値を示した。脳波は,LS群ではθ波がtask 1で,HS群ではθ波とα波がtask 1,2でpreに比べ有意に増大し,β波は両群とも有意な変化を示さなかった。
【考察】
痛覚感受性は,運動要素や認知要素のみの課題では変化せず,その両要素を含むCM課題でのみ低下した。また,CM課題では前頭部のθ波とα波の増大を示し,さらに正答率が高く,θ波やα波がより増大する者ほど疼痛抑制効果は顕著であった。前頭部のθ波はworking memory作動時や注意や集中を要する課題遂行時に増大し,前帯状回を含む前頭皮質の活動増大を反映するとされている。また,α波は一般に後頭部ではリラックス状態で増大し,視覚や聴覚刺激,認知課題により減衰することが知られているが,前頭部ではθ波同様working memory作動時に増大することも報告されている。以上より,疼痛コントロールには単純な運動よりも認知要素を取り入れた適度に注意や集中を要する運動がもっとも有効であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
薬物療法だけでは奏功しづらい慢性疼痛に対し,運動による疼痛抑制効果は世界的に注目されており,運動の有効要素について生理学的に検証した本研究は,運動療法のエビデンスレベルを向上させるものである。また,疼痛コントロールに有効な運動方法を明示している点で臨床的にも非常に意義深いと考える。