第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習7

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第3会場 (3F 301)

座長:冷水誠(畿央大学健康科学部理学療法学科)

基礎 口述

[1482] 筋の同時活動の増大が外乱発生時の姿勢制御に及ぼす影響

永井宏達1,2, 沖田祐介2, 小栢進也3, 山田実2, 青山朋樹2, 中村裕一4, 坪山直生2 (1.京都橘大学健康科学部理学療法学科, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 3.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 4.京都大学学術情報メディアセンター)

Keywords:同時活動, 同時収縮, 姿勢制御

【はじめに,目的】
主動作筋と拮抗筋が同時に活動することを筋の同時活動(coactivation)という。一般に,関節に生じる過剰な同時活動は「力み」として表現される。姿勢制御場面での同時活動の増大は,関節の固定性を高め,姿勢や動作の安定性を向上させることに貢献するとされている。一方で,同時活動の増大は関節の自由度を制限することから,非効率的な姿勢制御戦略となる可能性がある。しかしながら,同時活動の増大そのものが,外乱発生時の姿勢制御にどのような影響をもたらすのかは明らかになっていない。本研究は,筋の同時活動の増大が外乱発生時の姿勢制御に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は地域在住健常高齢者名34名(平均年齢73±5歳)とし,対象者を層化ブロックランダム割り付けにより,随意的に同時活動を増大させる群(同時活動群)17名,対照群17名に分類した。測定課題は,安静立位において前後方向にランダムに床面を移動させる課題とし,その際の姿勢反応を測定した。対象者の筋活動を導出するため,表面筋電図測定装置(Noraxon社製:サンプリング周波数1500Hz)を用い,前脛骨筋,ヒラメ筋,大腿直筋,大腿二頭筋の筋活動を導出した。得られた筋電信号は,各筋の最大等尺性収縮を100%とした正規化を行った。床面には床反力計(AMTI社製:サンプリング周波数1200Hz)を設置し,外乱発生装置(竹井機器社製)を用いて移動幅6cm,移動速度15cm/secでプレートを移動させた。学習による影響を除外するため,両群に対して,立位で計15回の前後移動の外乱を予め経験させた。その後,同時活動群にのみ,立位で拮抗筋となる前脛骨筋の筋活動を,50%MVC(最大随意収縮)程度まで随意的に増大させる練習を視覚的バイオフィードバックを用いて実施し,外乱発生前の安静立位で再現できるように指導した。同時活動群にはその状態で前後計10回の外乱を加え,対照群には安静立位での外乱を同様の回数実施し測定を行った。動作分析には,デジタルビデオカメラ(サンプリング周波数60Hz)による動作分析装置Tomoco-VM(東総システム社製)を用いた。側面より撮影した動画情報をもとに,二次元での関節角度(足・膝・股関節,体幹傾斜)を算出し,同時に各身体セグメントから身体重心(COG)を算出した。すべての解析データは外乱発生前の立位の値で補正し,変化量を算出した。
統計解析は,外乱発生後から100msec間隔で1秒後までを解析区間とし,群間の比較をstudent t検定を用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の内容を紙面上にて説明した上,同意書に署名を得た。なお,本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号12-12)。
【結果】
同時活動群の3名について,安定した拮抗筋の筋活動増大の再現が困難であったため,解析対象から除外した。最終的に同時活動群14名(72±5歳),対照群17名(72±6歳)となった。
床面が前方移動する条件では,群間の足関節角度に変化は見られなかった。膝関節では外乱直後に生じる伸展角度の増大が同時活動群ではみられなかった(p<0.05)。股関節では変化量がピークとなる区間において,同時活動群の屈曲角度が減少しており,一方,体幹傾斜は,同区間における伸展角度が同時活動群で有意に増大していた(p<0.05)。COGの変化に差はみられなかった。一方,足圧中心(COP)の移動量は移動のピークとなる時点において,同時活動群で有意に減少していた。
床面が後方移動する条件では,足関節では外乱後100-200msecの区間で同時活動群での背屈角度が減少し,外乱後800-1000msec後では有意に増大していた(p<0.05)。膝関節では同時活動群で,外乱後早期に生じる膝の屈曲が減少していた(p<0.05)。股関節,体幹傾斜には群間の差はみられなかった。COGの変化量は,同時活動群で有意に減少していた。COPは,移動の終盤となる1000msecの時点で,前方変位後,再び後方へ変位してくる量が同時活動群において減少していた(p<0.05)。
【考察】
同時活動が増大することで,前方移動条件では,下肢関節の角度の変化が減少し,体幹の後方への動揺が増大していた。また,後方移動条件では,外乱後早期の足関節,膝関節の角度変化が減少していた。COPの移動量は両条件において減少していた。これらの結果より,同時活動増大は,下肢関節の運動抑制につながる一方,特に前方へ床の外乱の際には,体幹による代償を増大させる戦略(体幹ストラテジー)をとることが明らかになった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,同時活動増大による姿勢反応の特徴を明らかにした初めての研究である。同時活動が増大した症例の姿勢制御戦略を理解し,適切なアプローチを模索するための有用な知見になると考える。