第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節21

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第11会場 (5F 501)

座長:山崎肇(羊ヶ丘病院リハビリテーション科)

運動器 口述

[1489] 腰椎前弯角と身体機能因子の関係性の検討

千葉恒1, 杉澤裕之1, 菅原敏暢1, 隈元庸夫2, 熱田裕司3, 小林徹也3 (1.北海道社会事業協会富良野病院リハビリテーション科, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科, 3.旭川医科大学整形外科)

Keywords:腰椎前弯角, 腰部変性後弯症, 脊柱背屈テスト

【はじめに,目的】
竹光らは,農業に従事する女性は腰部変性後弯症(Lumbar Degenerative Kyphosis:LDK)いわゆる腰曲がりの発生頻度が高いと報告している。今回我々は,大規模農業地区の北海道十勝地方で,整形外科医による住民脊柱検診に帯同し,理学療法(Physical Therapy:PT)評価を行う機会を得た。本研究の目的は,住民脊柱検診の結果から,LDKを含む成人脊柱変形のPT評価に用いられる身体機能項目およびQOL項目と,X線計測項目である腰椎前弯角との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は,大規模農業地区の北海道十勝地方で行った住民脊柱検診の中から,2010年から2013年の間に参加した中高齢女性152名(平均年齢65.0±7.3歳)とした。方法は,全脊柱立位X線側面像による腰椎前弯角(第1腰椎上縁と第5腰椎下縁の接線の角度)の計測,prone press up test(他動背屈域テスト:腹臥位,下肢・骨盤固定で上肢を使用して体幹を最大背屈させた時の床から胸骨頚切痕までの距離),脊柱背屈テスト(自動背屈域テスト:腹臥位,下肢固定での体幹自動最大背屈時の下顎床間距離),等尺筋力計による体幹筋力測定(腹筋・背筋・背筋/腹筋),歩行時体幹前傾角(体表マーカーをC7付近とL4付近レベルに取り付け,固定したデジタルビデオにて撮影し,自然立位時,歩行時の体表マーカーのなす角の変化を計測)と,腰痛VAS,HRQOL(SF-36下位尺度)評価とした。腰椎前弯角は,先行研究に準じて30°以上を標準群,それ未満を前弯減少群と分類し,各計測項目を2群間で比較した。正規性をShapiro Wilks検定,等分散をLevene検定にて確認し,その結果から2群間比較を対応のないt検定,Welch検定,Mann-Whitney U検定にて行った。単変量解析において有意差を認めた項目を独立変数,腰椎前弯角を従属変数として多変量解析を行い,その影響度を検討した。多変量解析はロジスティック回帰分析を行い,変数選択を逐次選択法として赤池の情報量基準(Akaike Information Criterion:AIC)の値によるステップワイズ法にて行った。多変量解析にて有意に選択された独立変数については,腰椎前弯角を状態変数としたReceiver Operating Characterristic(ROC)曲線を求めた。得られた曲線によって下方に囲まれる面積(Area Under the Curve:AUC)を求め,AUCが有意であった場合は群分けを最適分類するためのカットオフ値をYouden Indexを参考に算出した。なお,ROC曲線から求めた測定値のカットオフ値は,感度+特異度-1の値が最も高い値とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査は旭川医科大学倫理委員会の承認を受けて実施した。参加者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。
【結果】
2群間の比較では,前弯減少群において年齢が有意に高く(p<0.01),prone press up test(p<0.05)および脊柱背屈テストは有意に低く(p<0.01),歩行時体幹前傾角は有意に大きかった(p<0.01)。SF-36下位尺度においては,いずれも有意差は認められなかった。腰椎前弯減少に対するロジスティック回帰分析では,脊柱背屈テストのみ有意な予測因子で,オッズ比は0.89(95%CI;0.84-0.95,p<0.01)であった。脊柱背屈テストのROC曲線下面積は0.67(p<0.01),カットオフ値は8.5cmと算出され,感度83.3%,特異度49.0%であった。
【考察】
小林らは,中高齢者の脊柱変性では腰椎前弯の減少が一次変化であり,LDKを呈する例では腰背筋萎縮による脊柱背屈能の低下,歩行時体幹前傾角の増大などを伴うと報告している。本研究から中高齢女性では,腰椎前弯の減少に伴い身体機能の各項目にも変化を認め,なかでも腰椎前弯の減少を予測する因子は,脊柱背屈テスト8.5cm以下というPT場面でも判断しやすい指標であった。このことは脊柱背屈テストにより早期に腰椎変性を評価できるうえ,腰椎前弯減少例で背屈能が低下している例では,さらに腰椎後弯化,LDKへの進行が危惧されるため,PTや生活指導などの介入が重要になると考えられた。今後は,脊柱背屈テストによるLDKリスクの早期発見の可能性についての縦断的な検討やLDKなどの中高齢者脊柱変形とHRQOLの関係性について検討を重ねていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
LDKは中高齢者に多い脊柱変形の一つであるが,評価・予防の基礎となる臨床データは十分ではない。本研究は,一般住民検診の参加者で検討した結果であり,理学療法の基礎となる身体機能評価により腰椎変性を考えるうえで意義のある示唆を含むものと考える。