第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節21

Sun. Jun 1, 2014 11:20 AM - 12:10 PM 第11会場 (5F 501)

座長:山崎肇(羊ヶ丘病院リハビリテーション科)

運動器 口述

[1490] 若年者における軽度の非特異的腰痛には身体活動量が関与する

鳥山結加1, 鵜飼正紀2, 下和弘3, 上銘崚太2, 前野友希2, 城由起子4, 松原貴子2 (1.東海記念病院リハビリテーション部, 2.日本福祉大学健康科学部, 3.愛知医科大学運動療育センター, 4.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

Keywords:若年, 非特異的腰痛, 身体活動量

【はじめに,目的】我が国の腰痛の生涯有訴者率は8割を超えており,腰痛は慢性痛の中で最も多い症状である(松平2013)。また,腰痛の約85%は非特異的腰痛であり,その発症および遷延化には,身体活動,心理社会的因子が関与していることが知られている(松平2009,Hartvigsen 2007)。しかし,これらの報告のほとんどは就労者や高齢者を対象とした調査,研究であり,若年者における腰痛と日常の身体活動や心理社会的因子との関連について検討した報告はほとんどない。一般に慢性痛では,fear-avoidance modelで示されているように,痛みの体験から不適切な心理状態や情動反応が引き起こされ,それによって不活動に陥り,不活動がより痛みを助長するといった痛みの悪循環が問題となっている(Vlaeyen 2000)。若年期の慢性痛の経験は将来の慢性痛の発症因子になる(Vorman 2012)といわれていることから,若年者においても腰痛と身体活動量や心理的因子の関与についての検討が重要と考えられる。本研究では,大学生を対象に腰痛症状,身体活動量および不安や自己効力感,コーピングといった心理的因子について調べ,若年者の非特異的腰痛における関連因子について検討した。
【方法】対象は大学生343名(男性212名,女性131名,19.9±1.2歳)とし,年齢(20歳未満)以外のred flagに該当する者を除外した。なお,調査前1週間以内に腰痛があった者を腰痛群,腰痛の経験はあるが調査前1週間以内に腰痛がなかった者または腰痛未経験者を非腰痛群に分類した。調査項目は,腰痛の有無,身体活動量(IPAQ),心理不安(STAI-I,STAI-II),自己効力感(GSE),コーピング(WCCL)とした。IPAQは1週間当たりの運動量を算出した。さらに腰痛群には,腰痛の程度(VAS),罹患期間,初発時の年齢と原因,腰痛誘発姿勢・動作,機能障害度(PDAS,RDQ),腰痛特異的QOL(JOABPEQ)について調査を行った。統計学的解析は,腰痛群と非腰痛群の比較にMann-WhitneyのU検定,腰痛群における各項目の相関関係の検討にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,対象者に研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について説明し,同意を得たうえで実施した。
【結果】大学生343名のうち,red flag該当者10名を除外した結果,腰痛群95名,非腰痛群238名で,非特異的腰痛の有訴者率は29%であった。腰痛群の平均VASは39.9±23.9mm,罹患期間は4.0±0.7年,初発時の年齢は15.8±0.6歳で原因はスポーツによる外傷・過用が多かった。腰痛の誘発姿勢・動作は長時間座位(68%)が最も多く,次いで長時間立位(48%)であった。腰痛による機能障害度は,中央値でPDAS 3/60点,RDQ 2/24点であり,いずれも本邦の標準値より低値を示した。JOABPEQは,疼痛関連障害66点,腰椎機能障害91点,歩行機能障害95点,社会生活障害79点,心理的障害60点で,心理的障害以外の項目でVASとの相関を認めた。IPAQによる腰痛群/非腰痛群の1週間当たりの運動量(分/週)は,724.2±266.2/466.7±143.9であり,腰痛群の身体活動量が有意に多かった。心理不安はSTAI-I,STAI-IIとも両群間に差はなかった。また,GSE,WCCLではいすれも両群間の差ならびにVASとの相関関係を認めなかった一方で,VASとPDAS,RDQに有意な相関関係がみられた。
【考察】今回の若年者を対象とした調査では,腰痛有訴者は対象の約3割で,長時間の同一姿勢保持により腰痛が発生,増悪する者が多かった。また,腰痛の初発は中学生から高校生の時期で,スポーツによる外傷および過用を起因とする例が多く,現在も腰痛群の身体活動量は非腰痛群と比較して非常に多く過用の傾向にあった。一方,腰痛と心理的因子の関係について,腰痛の程度と心理不安,自己効力感,コーピングに関係性はみられず,いずれも腰痛の有無による差を認めなかった。さらに,腰痛による機能障害は本邦の標準値より低値であり,今回の対象者の大多数は,腰痛に対する治療を受けることなく標準的な日常生活を送ることが可能であった。つまり,今回の若年腰痛有訴者ではfear-avoidance modelにあるような痛みによる心理的因子の歪みがなく,痛みに対峙することで疼痛制御が可能な状態であることがうかがえる。したがって,若年,軽症,罹病短期の腰痛であっても,腰痛と身体活動量の関係性が示唆されるため,痛みの悪循環により難治性の腰痛へ移行しないためには,腰痛の早期または軽症時より身体活動を考慮した腰痛マネジメントを行うことが必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,若年者の腰痛の発症,遷延化に身体活動量が関わる可能性を示し,腰痛マネジメントにおいて身体活動量を考慮する必要性を示した点で意義深い。