第49回日本理学療法学術大会

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生体評価学5

2014年6月1日(日) 11:20 〜 12:10 ポスター会場 (基礎)

座長:福元喜啓(神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

基礎 ポスター

[1506] 三次元磁気式位置計測システムを用いた簡易歩行分析法の基礎的検討

石尾晶代1, 村岡慶裕2 (1.早稲田大学人間科学研究科, 2.早稲田大学人間科学学術院)

キーワード:歩行分析, 三次元磁気センサ, 精度

【はじめに,目的】
日常生活に多大な不利益をもたらす歩行障害の治療は,リハビリテーション医療において重要な課題である。歩行は時間的因子(歩行速度,歩行率,立脚期時間,遊脚期時間,両脚支持時間など)と空間的因子(関節角度変化,歩幅,歩隔など)で構成され,それらを分析し定量的な評価を行う過程は,歩行障害の治療を展開する上で必要不可欠である。近年のコンピュータ技術の進歩に伴い,三次元動作解析装置やシート式下肢加重計といった,様々な高精度の歩行分析装置の開発が行われてきた。しかし,それらの費用対効果におけるエビデンスは乏しく,臨床現場で用いられる歩行分析は,いまだに観察による主観的なものが主流となっている。そこで我々は,三次元磁気式位置計測システム(FASTRAK)に着目し,新たな簡易歩行分析法を開発した。FASTRAKは,トランスミッタによって発生させた磁場半球内におけるセンサの三次元位置座標値(X,Y,Z)と姿勢角(θa,θe,θr)の6自由度の計測が可能な装置である。また,優れた可搬性,容易な操作性,比較的安価な導入費用という利点を有する。本研究では,FASTRAKと既存の歩行分析装置(Walkway)を用いて歩行分析を行い,両者から得られた歩幅と歩行率の結果について,精度の比較検討を行ったので報告する。
【方法】
対象は,中枢性神経疾患および整形外科疾患の既往歴のない20代の健常女性1名である。FASTRAKとWalkwayによる2種類の計測は,同一検者にて同日内に行った。Walkwayの計測は,10枚の測定板を連結させた4.8mの歩行路上で行った。歩幅と歩行率を規定するため,歩行路上に60cm毎にマーカを設置し,対象者には92Hzのメトロノーム音に合わせて足尖部をマーカに接地させるタイミングで歩行するよう指示した。FASTRAKの計測は,被験者の左右足背部に受信センサを装着し,検者がFASTRAKとトランスミッタを搭載したプラスチック製ワゴンを押して,被験者の横を追随して行った。歩行路はWalkwayと同様に4.8mとし,92Hzのメトロノーム音に合わせて60cm毎に設置されたマーカへの足尖部を接地させるよう指示して行った。2種類の計測は各々10回ずつ行い。得られた10試行のデータから歩幅と歩行率の平均値を算出,それぞれの平均値の真値との誤差を比較した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には本研究の目的と方法を説明し参加の同意を得た。なお,本研究は本学の人を対象とする研究に関する倫理規定に則り実施した。
【結果】
歩幅の平均値は,Walkwayの測定値は59.0±2.6cm,FASTRAKの測定値は56.1±0.5cmであり,真値(60.0cm)からの誤差率は,Walkwayで1.7%,FASTRAKで6.5%であった。歩行率の平均値は,Walkwayの測定値は128.0±4.5歩/分,FASTRAKの測定値は93.9±2.2歩/分であり,真値(92.0歩/分)からの誤差率は,Walkwayで39.1%,FASTRAKで2.1%であった。
【考察】
本研究では,FASTRAKを用いた新しい歩行分析法を提案し,既存の歩行分析装置Walkwayと精度の比較検討を行った。歩行の空間的因子である歩幅について,FASTRAKの精度はWalkwayより劣る結果となった。その原因としては,足尖部をマーカに一致できていないという被験者側の偶然誤差の影響と,FASTRAKでの測定値が真値より小さくなっていることから,磁場の歪みによる系統誤差の影響が考えられた。歩行の時間的因子である歩行率については,FASTRAKの精度はWalkwayより優れる結果となり,Walkwayよりも精度の高い計測ができる可能性が示唆された。
歩幅の測定値にみられた系統誤差については,計測前の補正作業により改善が見込める可能性が考えられた。さらに,FASTRAKはセンサの姿勢角の検出も可能であることから,将来的にはWalkwayでは算出困難な指標についても,簡易に計測できるようになる可能性も考えられる。
今後は,引き続き症例数を増やして評価法の確立にむけた精度や信頼性の検討を行っていくと同時に,臨床現場への導入を考慮した手法のさらなる改良を進める予定である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で用いた三次元磁気式位置計測システムによる簡易歩行分析法は,既存の歩行分析装置と同等の精度を有し,さらに可搬性と操作性に優れ比較的安価で購入できることから,臨床応用の可能性が高いと思われる。近年リハビリテーション分野においてもEvidence based medicineの考え方が普及し,客観的かつ定量的な治療効果判定が求められている。このような背景において,主観的な従来法に変わる新たな客観的かつ定量的な歩行分析法を提案できたという点で,本研究は理学療法学研究としての意義があると考えられた。