[1533] ACL再腱術後症例の自覚的スポーツ復帰感
Keywords:ACL再建術, スポーツ復帰, TSK-J
【はじめに,目的】
膝前十字靱帯(ACL)再腱術を実施した症例はスポーツへの復帰を目標とする事が多い。ACL再建術後のスポーツ復帰の程度の判断として,受傷前と同レベルでのスポーツ活動の可否により調査されていることが多く,受傷前と同レベルまで復帰した症例は47%と報告されている(鬼木,2005)。しかし,そのレベル分けが「全国」「県大会」「趣味」などと基準が曖昧であること,受傷前と復帰時の環境変化によりレベルが変化するなどの問題点がある。また,先行研究より受傷前と同レベルへ復帰しても満足していない症例が多いとの報告がある。このため,目標達成の有無については受傷前と同様にスポーツ活動が行えているか否かの本人の自覚的な感覚(自覚的スポーツ復帰感)が目標達成の指標になると考える。
本研究の目的は,ACL再建術後1年以上経過した症例において,自覚的スポーツ復帰感に影響する因子を調査することである。
【方法】
2007年1月~2011年12月に当院で初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過した132例(術後経過期間34±12ヶ月;17~77ヶ月)に郵送によるアンケート調査を実施した。スポーツ復帰状況としてスポーツレベル分けでの復帰状況,自覚的スポーツ復帰感を調査し,自覚的スポーツ復帰感をメインのアウトカムとした。自覚的スポーツ復帰感は「受傷前と同様(またはそれ以上)のレベルでスポーツ活動が可能ですか」との問いに対し可能・不可能の2択で決定し,前者を復帰感ありとした。
また,年齢,性別,術後経過期間,コンタクトスポーツの有無,スポーツに対する恐怖心の有無,膝の疼痛の有無,膝の不安定感の有無,膝の筋力低下の有無,恐怖回避思考の評価尺度である日本語版Tampa Scale Kinesiophobia(TSK-J)などを調査した。さらに,自覚的スポーツ復帰感が無い症例に対してはその理由の調査も行った。
統計的検討は従属変数を自覚的スポーツ復帰感の有無,独立変数をその他の項目とし,尤度比検定の変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を適用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。対象者には本研究の趣旨,目的やプライバシー保護についての説明を書面にて説明し,アンケートの返信を持って同意を得たものとした。
【結果】
回収数は74例(56%)であった。そのうちスポーツ活動未実施7例,記入漏れなどの11例を除いた56例を調査対象とした。対象の内訳は男性22例,女性34例,年齢35.9±11.9歳(16~67歳),術後経過期間46±18ヶ月(16~75ヶ月)であった。スポーツレベル分けでの復帰状況の調査では,受傷前と同レベルでのスポーツ活動可能例は56例中48例(86%),不可能例は8例(14%)であった。しかし,自覚的スポーツ復帰感の調査では復帰感が有る例は26例(46%),無い例は30例(54%)であり,スポーツへの復帰感がない例が多い結果となった。
多重ロジスティック回帰分析の結果,TSK-J(オッズ比1.11,95%信頼区間1.01-1.21),疼痛(オッズ比6.08,95%信頼区間1.77-20.94)が選択された(p<0.05)。TSK-Jの平均値はスポーツ復帰感有りで32.4±7.5点,復帰感無しで37.2±6.2点,疼痛を有する症例は復帰感有りで9例(33%),復帰感無しで23例(77%)であった。自覚的スポーツ復帰感が無い理由として30例中21例がスポーツに対する恐怖心,9例が社会的要因,6例が疼痛を挙げた。
【考察】
ACL再建術後に受傷前と同レベルへのスポーツへ復帰している症例は全体の86%であったが,自覚的なスポーツ復帰感が有る例は46%と少ない結果となった。自覚的スポーツ復帰感が無い症例は恐怖回避思考を示すTSK-Jが高値,疼痛を有する例が多かった。先行研究において恐怖回避思考はスポーツ活動へ影響を及ぼすこと(D.Ross,2010),疼痛が慢性化しやすいこと(Leeuw M,2007)が報告されている。このため,恐怖回避思考への介入が自覚的スポーツ復帰感の改善に繋がる可能性が考えられた。また,ACL再建術後に疼痛が残存する原因として半月板や軟骨損傷の有無(竹田,1993),膝蓋骨アライメント不良(Van de Velde SK,2007)が報告されている。つまり,これらを原因とする疼痛が自覚的スポーツ復帰感の改善を妨げている可能性がある。
以上より,ACL再建術後のスポーツ復帰に向けては従来報告されている膝の疼痛や筋力,不安定感のみならず,安全な動作方法の獲得によりACL損傷は防げるといった前向きな情報の発信や,動作練習時に良い動作や結果に対するフィードバックを積極的に行うなどの介入が重要であると考える。
【理学療法学としての意義】
本研究はACL再建術後のスポーツ復帰に向けた理学療法の参考となり得る。従来報告されている膝の疼痛や筋力,不安定感のみならず,恐怖回避思考の改善に向けたアプローチも重要と考えられた。
膝前十字靱帯(ACL)再腱術を実施した症例はスポーツへの復帰を目標とする事が多い。ACL再建術後のスポーツ復帰の程度の判断として,受傷前と同レベルでのスポーツ活動の可否により調査されていることが多く,受傷前と同レベルまで復帰した症例は47%と報告されている(鬼木,2005)。しかし,そのレベル分けが「全国」「県大会」「趣味」などと基準が曖昧であること,受傷前と復帰時の環境変化によりレベルが変化するなどの問題点がある。また,先行研究より受傷前と同レベルへ復帰しても満足していない症例が多いとの報告がある。このため,目標達成の有無については受傷前と同様にスポーツ活動が行えているか否かの本人の自覚的な感覚(自覚的スポーツ復帰感)が目標達成の指標になると考える。
本研究の目的は,ACL再建術後1年以上経過した症例において,自覚的スポーツ復帰感に影響する因子を調査することである。
【方法】
2007年1月~2011年12月に当院で初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過した132例(術後経過期間34±12ヶ月;17~77ヶ月)に郵送によるアンケート調査を実施した。スポーツ復帰状況としてスポーツレベル分けでの復帰状況,自覚的スポーツ復帰感を調査し,自覚的スポーツ復帰感をメインのアウトカムとした。自覚的スポーツ復帰感は「受傷前と同様(またはそれ以上)のレベルでスポーツ活動が可能ですか」との問いに対し可能・不可能の2択で決定し,前者を復帰感ありとした。
また,年齢,性別,術後経過期間,コンタクトスポーツの有無,スポーツに対する恐怖心の有無,膝の疼痛の有無,膝の不安定感の有無,膝の筋力低下の有無,恐怖回避思考の評価尺度である日本語版Tampa Scale Kinesiophobia(TSK-J)などを調査した。さらに,自覚的スポーツ復帰感が無い症例に対してはその理由の調査も行った。
統計的検討は従属変数を自覚的スポーツ復帰感の有無,独立変数をその他の項目とし,尤度比検定の変数増加法による多重ロジスティック回帰分析を適用した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。対象者には本研究の趣旨,目的やプライバシー保護についての説明を書面にて説明し,アンケートの返信を持って同意を得たものとした。
【結果】
回収数は74例(56%)であった。そのうちスポーツ活動未実施7例,記入漏れなどの11例を除いた56例を調査対象とした。対象の内訳は男性22例,女性34例,年齢35.9±11.9歳(16~67歳),術後経過期間46±18ヶ月(16~75ヶ月)であった。スポーツレベル分けでの復帰状況の調査では,受傷前と同レベルでのスポーツ活動可能例は56例中48例(86%),不可能例は8例(14%)であった。しかし,自覚的スポーツ復帰感の調査では復帰感が有る例は26例(46%),無い例は30例(54%)であり,スポーツへの復帰感がない例が多い結果となった。
多重ロジスティック回帰分析の結果,TSK-J(オッズ比1.11,95%信頼区間1.01-1.21),疼痛(オッズ比6.08,95%信頼区間1.77-20.94)が選択された(p<0.05)。TSK-Jの平均値はスポーツ復帰感有りで32.4±7.5点,復帰感無しで37.2±6.2点,疼痛を有する症例は復帰感有りで9例(33%),復帰感無しで23例(77%)であった。自覚的スポーツ復帰感が無い理由として30例中21例がスポーツに対する恐怖心,9例が社会的要因,6例が疼痛を挙げた。
【考察】
ACL再建術後に受傷前と同レベルへのスポーツへ復帰している症例は全体の86%であったが,自覚的なスポーツ復帰感が有る例は46%と少ない結果となった。自覚的スポーツ復帰感が無い症例は恐怖回避思考を示すTSK-Jが高値,疼痛を有する例が多かった。先行研究において恐怖回避思考はスポーツ活動へ影響を及ぼすこと(D.Ross,2010),疼痛が慢性化しやすいこと(Leeuw M,2007)が報告されている。このため,恐怖回避思考への介入が自覚的スポーツ復帰感の改善に繋がる可能性が考えられた。また,ACL再建術後に疼痛が残存する原因として半月板や軟骨損傷の有無(竹田,1993),膝蓋骨アライメント不良(Van de Velde SK,2007)が報告されている。つまり,これらを原因とする疼痛が自覚的スポーツ復帰感の改善を妨げている可能性がある。
以上より,ACL再建術後のスポーツ復帰に向けては従来報告されている膝の疼痛や筋力,不安定感のみならず,安全な動作方法の獲得によりACL損傷は防げるといった前向きな情報の発信や,動作練習時に良い動作や結果に対するフィードバックを積極的に行うなどの介入が重要であると考える。
【理学療法学としての意義】
本研究はACL再建術後のスポーツ復帰に向けた理学療法の参考となり得る。従来報告されている膝の疼痛や筋力,不安定感のみならず,恐怖回避思考の改善に向けたアプローチも重要と考えられた。