[1535] 肩甲下筋の動態を考慮したストレッチの即時効果の比較
Keywords:肩甲下筋, ストレッチ, 超音波画像診断装置
【はじめに,目的】
肩甲下筋の異常な緊張や伸張性の低下は,肩関節挙上時の外旋運動を制限し,挙上運動の阻害因子の一つとなる。我々は肉眼解剖学的所見や臨床経験から肩甲下筋の最下部筋束が肩関節疾患の治療対象として重要なことを報告している(颯田2009・2010・2012,川村2010)。肩甲下筋へのアプローチには様々な方法があり,主に解剖学的所見や臨床経験から考察されたスキルである。われわれは先行研究において,超音波画像診断装置(以下,US)を用いて,肩甲下筋の動態を観察し,収縮時に前外側方向への動態を示すことを報告した(山内2013)。この動態を考慮し,肩甲下筋に対する後内側方向へ圧迫するストレッチ(以下,St1)を考案した。St1と従来から行われている圧迫のみを行うストレッチ(以下,St2)の即時効果について比較したため報告する。
【方法】
本研究のデザインはクロスオーバーデザインを採用した。
対象は,肩関節周囲炎と診断された25名25肩(男性13名,女性12名:年齢57.1±8.5歳)とした。肩関節挙上が90°以下の症例やレントゲン所見にて変形のある症例は除外した。同一被検者に2種類のストレッチを施行し,施行前とそれぞれの施行ごとにROMを測定した。関節可動域測定の方法は,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の基準に準じた。ROMの測定方向は屈曲・外転・下垂位外旋(以下,1st外旋)・90°外転位外旋(以下,2nd外旋)・90°外転位内旋(以下,2nd内旋)とした。対象をA群12名(男性6名,女性6名:年齢59.7±7.7歳),B群13名(男性6名,女性7名:年齢54.5±9.0歳)をランダムに2群に振り分けた。A群はストレッチの施行の順序を,St1からSt2の順に行い,B群はSt2からSt1の順に行った。なお,ストレッチの伸張時間は30秒とし10セット行った。ストレッチ施行前のROMの測定値とA群の試行ごとのROMの測定値に対する差から中央値(四分位範囲)を求めSt1A・St2Aとした。B群も同様の処理を行いSt2B・St1Bとした。
統計学的分析は,(1)St1AとSt2B,(2)St1AとSt1B,(3)St2AとSt2Bの各運動方法に対しWilcoxonの符号付順位検定を行った。統計学的有意水準は5%未満とし,統計解析にはSPSS Ver.18を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には研究の趣旨と内容,利益や不利益,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについて,口頭と書面で説明し,同意を得た。
【結果】
屈曲ROMに関しては(1)の比較では,St1Aで10(9-17)°,St2Bで5(5-10)°となり有意差を認めた。また(2)の比較では,St1Aで10(9-17)°,St1Bで11(10-15)°となり,有意差を認めず,(3)の比較では,St2Aで12(9-18)°,St2Bで5(5-10)°で有意差を認めた。また,2nd内旋に関しては(1)の比較では,St1Aで5(2-11),St2Bで2(0-5)°となり有意差を認めた。また(2)の比較では,St1Aで5(2-11)°,St1Bで5(0-7)°で有意差を認めず,(3)の比較ではSt2Aで7(2-12)°,St2Bで2(0-5)°となり有意差を認めた。
その他の項目においては,St1によるROMの改善は見られたが,St1とSt2の間に有意差を認めなかった。
【考察】
われわれは先行研究において肩甲下筋の動態についてUSを用いて観察し,収縮時に前外側方向へ最下部筋束が変移する動態を観察した。そのため,筋腹に対して,伸張刺激を加えるために,後内側へ筋腹を圧迫するSt1を考案した。(1)の比較から肩関節屈曲と2nd内旋のROMはSt1の方が,従来のストレッチより有意に改善していた。(2)の比較から,St1を行うことで生じる治療効果は,St2の施行の有無に関わらず,一定の効果を示すことが考えられた。また(3)の比較から,St2は直前にSt1を施行することで,より効果が大きかったことから,St1の影響が生じていると考えた。つまり,St1はSt2より肩関節屈曲,2nd内旋ROMに対する即時効果が証明できた。
肩甲下筋は上腕骨頭の前方に付着するため,同筋の緊張亢進や短縮が生じることによって上腕骨頭を前方へ引き出す力が作用することが予想される。上腕骨頭が前方へ引き出されると回転中心が変位するため,正常な関節運動が起こらず,ROM制限が生じる可能性がある。肩甲下筋に対するストレッチを施行したことにより,筋の伸張性が向上し,上腕骨頭が正常に近い位置に戻ったことで正常な関節運動が起こり,2nd内旋ROMが増加したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肩甲下筋に対する徒手療法として,藤縄ら(2009)は筋腹をつまみ横断マッサージを行うと述べている。収縮時に筋は,固定遺体から考えられる線維方向に動くだけでなく,横断面上を流動的に動く。USを用いて肩甲下筋の横断面上の動態を観察し,後内側方向への横断ストレッチを行うことの即時効果を示すことができた。
肩甲下筋の異常な緊張や伸張性の低下は,肩関節挙上時の外旋運動を制限し,挙上運動の阻害因子の一つとなる。我々は肉眼解剖学的所見や臨床経験から肩甲下筋の最下部筋束が肩関節疾患の治療対象として重要なことを報告している(颯田2009・2010・2012,川村2010)。肩甲下筋へのアプローチには様々な方法があり,主に解剖学的所見や臨床経験から考察されたスキルである。われわれは先行研究において,超音波画像診断装置(以下,US)を用いて,肩甲下筋の動態を観察し,収縮時に前外側方向への動態を示すことを報告した(山内2013)。この動態を考慮し,肩甲下筋に対する後内側方向へ圧迫するストレッチ(以下,St1)を考案した。St1と従来から行われている圧迫のみを行うストレッチ(以下,St2)の即時効果について比較したため報告する。
【方法】
本研究のデザインはクロスオーバーデザインを採用した。
対象は,肩関節周囲炎と診断された25名25肩(男性13名,女性12名:年齢57.1±8.5歳)とした。肩関節挙上が90°以下の症例やレントゲン所見にて変形のある症例は除外した。同一被検者に2種類のストレッチを施行し,施行前とそれぞれの施行ごとにROMを測定した。関節可動域測定の方法は,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の基準に準じた。ROMの測定方向は屈曲・外転・下垂位外旋(以下,1st外旋)・90°外転位外旋(以下,2nd外旋)・90°外転位内旋(以下,2nd内旋)とした。対象をA群12名(男性6名,女性6名:年齢59.7±7.7歳),B群13名(男性6名,女性7名:年齢54.5±9.0歳)をランダムに2群に振り分けた。A群はストレッチの施行の順序を,St1からSt2の順に行い,B群はSt2からSt1の順に行った。なお,ストレッチの伸張時間は30秒とし10セット行った。ストレッチ施行前のROMの測定値とA群の試行ごとのROMの測定値に対する差から中央値(四分位範囲)を求めSt1A・St2Aとした。B群も同様の処理を行いSt2B・St1Bとした。
統計学的分析は,(1)St1AとSt2B,(2)St1AとSt1B,(3)St2AとSt2Bの各運動方法に対しWilcoxonの符号付順位検定を行った。統計学的有意水準は5%未満とし,統計解析にはSPSS Ver.18を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者には研究の趣旨と内容,利益や不利益,個人情報の保護,参加の拒否と撤回などについて,口頭と書面で説明し,同意を得た。
【結果】
屈曲ROMに関しては(1)の比較では,St1Aで10(9-17)°,St2Bで5(5-10)°となり有意差を認めた。また(2)の比較では,St1Aで10(9-17)°,St1Bで11(10-15)°となり,有意差を認めず,(3)の比較では,St2Aで12(9-18)°,St2Bで5(5-10)°で有意差を認めた。また,2nd内旋に関しては(1)の比較では,St1Aで5(2-11),St2Bで2(0-5)°となり有意差を認めた。また(2)の比較では,St1Aで5(2-11)°,St1Bで5(0-7)°で有意差を認めず,(3)の比較ではSt2Aで7(2-12)°,St2Bで2(0-5)°となり有意差を認めた。
その他の項目においては,St1によるROMの改善は見られたが,St1とSt2の間に有意差を認めなかった。
【考察】
われわれは先行研究において肩甲下筋の動態についてUSを用いて観察し,収縮時に前外側方向へ最下部筋束が変移する動態を観察した。そのため,筋腹に対して,伸張刺激を加えるために,後内側へ筋腹を圧迫するSt1を考案した。(1)の比較から肩関節屈曲と2nd内旋のROMはSt1の方が,従来のストレッチより有意に改善していた。(2)の比較から,St1を行うことで生じる治療効果は,St2の施行の有無に関わらず,一定の効果を示すことが考えられた。また(3)の比較から,St2は直前にSt1を施行することで,より効果が大きかったことから,St1の影響が生じていると考えた。つまり,St1はSt2より肩関節屈曲,2nd内旋ROMに対する即時効果が証明できた。
肩甲下筋は上腕骨頭の前方に付着するため,同筋の緊張亢進や短縮が生じることによって上腕骨頭を前方へ引き出す力が作用することが予想される。上腕骨頭が前方へ引き出されると回転中心が変位するため,正常な関節運動が起こらず,ROM制限が生じる可能性がある。肩甲下筋に対するストレッチを施行したことにより,筋の伸張性が向上し,上腕骨頭が正常に近い位置に戻ったことで正常な関節運動が起こり,2nd内旋ROMが増加したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肩甲下筋に対する徒手療法として,藤縄ら(2009)は筋腹をつまみ横断マッサージを行うと述べている。収縮時に筋は,固定遺体から考えられる線維方向に動くだけでなく,横断面上を流動的に動く。USを用いて肩甲下筋の横断面上の動態を観察し,後内側方向への横断ストレッチを行うことの即時効果を示すことができた。