[1537] 前腕回内位における手関節背屈可動域についての一考察
キーワード:手関節背屈可動域, ダイレクトストレッチ, 長母指外転筋
【はじめに,目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際,手関節の背屈の関節可動域(以下,ROM)の角度が改善しても,日常生活動作の中で,なかなか動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では,手関節の背屈は,前腕中間位にて測定するように定められている。だが,日常生活動作の中で,前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回,前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下,手背屈ROM角)に有意差があるのかを比較検討し,その因子について検証するため,前腕の屈筋群と母指の外転筋群に着目し,筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下,ストレッチ)を実施することで,手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し,検証を行った。前腕の肢位による手背屈ROM角の有意差だけではなく,母指の外転筋群の手背屈ROM角の影響など,若干の知見を得たのでここに報告する。
【方法】対象は手関節に問題のない健常成人42名(男性22名,女性20名,平均年齢30.5±9.2歳)とした。まず,42名の左右の手関節背屈ROM角を,前腕の中間位,回内位,回外位で測定した。また,その背屈運動時に,同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下,偏位角)も測定した。その結果,42名左右の手関節ROM角に有意差がなかったことから,左右手の84肢に対し,7つのグループにわけ,背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群と母指外転筋群に対して,患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い,手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは,防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで,伸張時間は,各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。ストレッチは,(1)橈側手根屈筋に対して行った群(以下,FCR群),(2)尺側手根屈筋に対しての群(以下,FCU群),(3)長母指屈筋に対しての群(以下,FPLM群),(4)深指屈筋に対しての群(以下,FDP群)(5)長母指外転筋に対しての群(以下,APL群)(6)短母指伸筋に対しての群(以下,EPB群),に実施した。比較対象として,(7)ストレッチ非実施群を設けた。その後,ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は,対応のあるt検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は,平均で中間位75.79±6.85°>回内位63.79±6.68°>回外位56.21+6.78°であった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また,その時の偏位角は,平均で,回外位19.93±5.4°(橈側偏位)>回内位17.33±4.72°(尺側偏位)>中間位4.6±65.98°(尺側偏位)であった。偏位角においても,それぞれの肢位で,p<0.0001と有意差があった(3)ストレッチ実施前後での変化として,それぞれの肢位にて,有意差が出ており,ストレッチによる角度の変化が出ていた。(4)母指外転筋群である長母指屈筋と長母指外転筋において,前腕中間位と回内位において,p<0.0001と有意差があった。回外位においては,有意差はなかった。(5)特に長母指外転筋においては,ストレッチ後の手背屈ROM角の変化値と偏位角の変化値においてR=0.83と相関が見られた。
【考察】今回,前腕の肢位により,手背屈ROM角の有意差が見られた。また,背屈する際,橈側へ,尺側へと偏位する事が分り,偏位の仕方も前腕の肢位によって違いがあることが分った。これは,前腕回内外時に,橈骨が尺骨の周りを回ることで,骨のアライメントが変化し,また,それにより橈骨と尺骨に付着する前腕の筋に対して,筋の張力や長さに影響を与えると思われる。特に前腕回内時に,手背屈の動作筋であり,手背屈の拮抗筋とは思われていない母指外転筋において,手背屈の制限因子となりえるという事がわかった。これは,長母指外転筋が,起始部である尺骨の骨間縁と橈骨の後面から,筋が始まり,その後,前腕の背側面を走行し,橈骨茎状突起の遠位橈側面を通り,停止である第1中手骨底の外側面に着くためであると考えられる。つまり,前腕回内位により,橈骨が尺骨の周りを回り,内側へ動き,そのため,長母指外転筋の筋腹や遠位腱が伸張され,手背屈時に制限因子となりえる事を示している。
【理学療法学研究としての意義】今回,前腕肢位の違いによる,手背屈ROM角の有意差が分った。日常生活においては,中間位だけではなく,回内位,回外位と使用することも多い。前腕回内位において,手背屈ROM角をリハビリする際,前腕の屈筋だけではなく,母指の外転筋に対してもアプローチする事で,手背屈ROM角の改善を得られ,患者の日常生活の改善につながると考えられる。
【方法】対象は手関節に問題のない健常成人42名(男性22名,女性20名,平均年齢30.5±9.2歳)とした。まず,42名の左右の手関節背屈ROM角を,前腕の中間位,回内位,回外位で測定した。また,その背屈運動時に,同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下,偏位角)も測定した。その結果,42名左右の手関節ROM角に有意差がなかったことから,左右手の84肢に対し,7つのグループにわけ,背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群と母指外転筋群に対して,患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い,手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは,防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで,伸張時間は,各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。ストレッチは,(1)橈側手根屈筋に対して行った群(以下,FCR群),(2)尺側手根屈筋に対しての群(以下,FCU群),(3)長母指屈筋に対しての群(以下,FPLM群),(4)深指屈筋に対しての群(以下,FDP群)(5)長母指外転筋に対しての群(以下,APL群)(6)短母指伸筋に対しての群(以下,EPB群),に実施した。比較対象として,(7)ストレッチ非実施群を設けた。その後,ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は,対応のあるt検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い,同意を得た。
【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は,平均で中間位75.79±6.85°>回内位63.79±6.68°>回外位56.21+6.78°であった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また,その時の偏位角は,平均で,回外位19.93±5.4°(橈側偏位)>回内位17.33±4.72°(尺側偏位)>中間位4.6±65.98°(尺側偏位)であった。偏位角においても,それぞれの肢位で,p<0.0001と有意差があった(3)ストレッチ実施前後での変化として,それぞれの肢位にて,有意差が出ており,ストレッチによる角度の変化が出ていた。(4)母指外転筋群である長母指屈筋と長母指外転筋において,前腕中間位と回内位において,p<0.0001と有意差があった。回外位においては,有意差はなかった。(5)特に長母指外転筋においては,ストレッチ後の手背屈ROM角の変化値と偏位角の変化値においてR=0.83と相関が見られた。
【考察】今回,前腕の肢位により,手背屈ROM角の有意差が見られた。また,背屈する際,橈側へ,尺側へと偏位する事が分り,偏位の仕方も前腕の肢位によって違いがあることが分った。これは,前腕回内外時に,橈骨が尺骨の周りを回ることで,骨のアライメントが変化し,また,それにより橈骨と尺骨に付着する前腕の筋に対して,筋の張力や長さに影響を与えると思われる。特に前腕回内時に,手背屈の動作筋であり,手背屈の拮抗筋とは思われていない母指外転筋において,手背屈の制限因子となりえるという事がわかった。これは,長母指外転筋が,起始部である尺骨の骨間縁と橈骨の後面から,筋が始まり,その後,前腕の背側面を走行し,橈骨茎状突起の遠位橈側面を通り,停止である第1中手骨底の外側面に着くためであると考えられる。つまり,前腕回内位により,橈骨が尺骨の周りを回り,内側へ動き,そのため,長母指外転筋の筋腹や遠位腱が伸張され,手背屈時に制限因子となりえる事を示している。
【理学療法学研究としての意義】今回,前腕肢位の違いによる,手背屈ROM角の有意差が分った。日常生活においては,中間位だけではなく,回内位,回外位と使用することも多い。前腕回内位において,手背屈ROM角をリハビリする際,前腕の屈筋だけではなく,母指の外転筋に対してもアプローチする事で,手背屈ROM角の改善を得られ,患者の日常生活の改善につながると考えられる。