[1542] TPPV管理のALS患者における姿勢が気道内圧に与える影響
キーワード:ALS, 人工呼吸, ベッドアップ
【はじめに,目的】
近年,人工呼吸器を装着中も積極的に離床を促す事が知られ,特に筋萎縮性側索硬化症(以下:ALS)においては,気管切開および人工呼吸器装着管理となった後(以下:TPPV管理)も,ベッドアップや車椅子乗車また立位や歩行を含めた離床を行うことが多くなっている。陽圧換気下での腹臥位は気道内圧が上昇するとされており,気道内圧は姿勢により影響を受ける。しかし,ベッドアップ角度が気道内圧に与える影響は調査されていない。本研究の目的はTPPV管理のALS患者におけるベッドアップ角度変化時の気道内圧変化を検証することである。
【方法】
対象はTPPV管理のALS患者10名とした。自発呼吸のない患者に限定するため,対象は人工呼吸器がACOMA社のARF-900EにてControlled Ventilationで呼吸管理を行っているものとした。対象者にベッド上背臥位(ベッドアップ0度)及びベッドアップ座位(30度,60度)を各々5分間とらせ,姿勢保持後4分から5分の間の3回の換気における最高気道内圧,1回換気量を測定し,平均値を求めた。最高気道内圧および一回換気量は人工呼吸器の表示をもとに測定した。ベッドアップ角度変化は0度,30度,60度の順に段階的に行った。ベッドアップ前には気管内吸引を行い,気管内分泌物の影響を除去できるよう留意した。ベッドアップに際して,膝関節は伸展位とし,ベッドアップして背もたれとなるベッド部分と殿部がずれないようにした。また,枕は通常使用しているもの用い,頚部が過度に屈曲しないよう留意した。上肢は体側に位置させた。ベッドアップ直後には背抜きを行うよう考慮した。評価者はTPPV管理のALS患者に対する理学療法の経験年数が4年以上のPT7名とした。解析は,一元配置分散分析反復測定法およびBonferroniの多重比較を用い,ベッドアップ角度0度(0°群),30度(30°群),60度(60°群)の水準間に有意差があるかを検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では研究依頼に際して,本研究の目的や方法,倫理的配慮について,意思表出可能な患者には本人より,意思表出不可能な患者には家族に十分な説明を行い,同意を得ている。
【結果】
対象の平均年齢は67.8±5.0歳,ALS発症からの期間の中央値(範囲)は78.0ヶ月(240.0~37.0ヶ月),気管切開後期間は中央値39ヵ月(22 ~170ヶ月),人工呼吸器装着期間の中央値は39カ月(22 ~170ヶ月),厚生労働省におけるALSの重症度分類では10人全員が最重症の5度であった。一回換気量の設定値は440±82.2 mlであった。一回換気量は気道内圧を変動させる可能性が考えられたため,両者の相関を求めたところ,r=0.16と相関を認めなかった。各ベッドアップ角度での最高気道内圧は0°群:16.3±1.7cm H2O,30°群:17.2±1.6 cmH2O,60°群:20.8±2.0 cmH2Oであった。一元配置分散分析反復測定法の結果,ベッドアップ角度に主効果が認められた。またBonferroniの多重比較の結果,0°群と60°群,及び30°群と60°群の間に有意な最高気道内圧の上昇が認められた(p<0.01)。
【考察】
一般的に背臥位では腹部臓器の圧迫にて横隔膜が押し上げられコンプライアンスが低下し,座位では圧迫が解除されコンプライアンスを上昇することされ,これに当てはめるとベッドアップに伴い気道内圧は低下するが,今回の検討では逆の結果が得られた。最高気道内圧変化の要因は肺コンプライアンスの他に,気流,呼吸器回路などがある。今回の検討では呼吸器回路に問題がみられたものはおらず設定等の変更をしているものもいない。気流では気管の内径や変化は不明だが分泌物の出現を極力取り除いた中で測定を実施するよう配慮している。以上より,変化の主たる要因は肺コンプライアンスと考えている。肺コンプライアンスは胸郭の変化の影響も受け,例えば脊柱後彎姿勢は胸郭の体積を減少させるとされており,本研究においては姿勢を考慮しているものの影響を受けた可能性は否めない。一方,陽圧換気下で下側肺障害が知られ,背臥位では下側を背側面,座位では下側を下方面と捉えると,通常0~30°の臥床症例では背上方側面の含気も促しにくい状況から,60°ベッドアップの気道内圧上昇に寄与した可能性が考えられる。しかし,臨床では60°から背臥位に戻すと,最初の背臥位での気道内圧より低下する傾向もみられる。
【理学療法学研究としての意義】
ALS患者の陽圧換気においてベッドアップ座位により気道内圧が増加することが示された。気道内圧上昇は肺への圧障害を引き起こす危険性もあるが,ベッドアップによる気道内圧の上昇は背上方側の含気を促す戦略となりうる可能性も考慮する必要がある。
近年,人工呼吸器を装着中も積極的に離床を促す事が知られ,特に筋萎縮性側索硬化症(以下:ALS)においては,気管切開および人工呼吸器装着管理となった後(以下:TPPV管理)も,ベッドアップや車椅子乗車また立位や歩行を含めた離床を行うことが多くなっている。陽圧換気下での腹臥位は気道内圧が上昇するとされており,気道内圧は姿勢により影響を受ける。しかし,ベッドアップ角度が気道内圧に与える影響は調査されていない。本研究の目的はTPPV管理のALS患者におけるベッドアップ角度変化時の気道内圧変化を検証することである。
【方法】
対象はTPPV管理のALS患者10名とした。自発呼吸のない患者に限定するため,対象は人工呼吸器がACOMA社のARF-900EにてControlled Ventilationで呼吸管理を行っているものとした。対象者にベッド上背臥位(ベッドアップ0度)及びベッドアップ座位(30度,60度)を各々5分間とらせ,姿勢保持後4分から5分の間の3回の換気における最高気道内圧,1回換気量を測定し,平均値を求めた。最高気道内圧および一回換気量は人工呼吸器の表示をもとに測定した。ベッドアップ角度変化は0度,30度,60度の順に段階的に行った。ベッドアップ前には気管内吸引を行い,気管内分泌物の影響を除去できるよう留意した。ベッドアップに際して,膝関節は伸展位とし,ベッドアップして背もたれとなるベッド部分と殿部がずれないようにした。また,枕は通常使用しているもの用い,頚部が過度に屈曲しないよう留意した。上肢は体側に位置させた。ベッドアップ直後には背抜きを行うよう考慮した。評価者はTPPV管理のALS患者に対する理学療法の経験年数が4年以上のPT7名とした。解析は,一元配置分散分析反復測定法およびBonferroniの多重比較を用い,ベッドアップ角度0度(0°群),30度(30°群),60度(60°群)の水準間に有意差があるかを検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究では研究依頼に際して,本研究の目的や方法,倫理的配慮について,意思表出可能な患者には本人より,意思表出不可能な患者には家族に十分な説明を行い,同意を得ている。
【結果】
対象の平均年齢は67.8±5.0歳,ALS発症からの期間の中央値(範囲)は78.0ヶ月(240.0~37.0ヶ月),気管切開後期間は中央値39ヵ月(22 ~170ヶ月),人工呼吸器装着期間の中央値は39カ月(22 ~170ヶ月),厚生労働省におけるALSの重症度分類では10人全員が最重症の5度であった。一回換気量の設定値は440±82.2 mlであった。一回換気量は気道内圧を変動させる可能性が考えられたため,両者の相関を求めたところ,r=0.16と相関を認めなかった。各ベッドアップ角度での最高気道内圧は0°群:16.3±1.7cm H2O,30°群:17.2±1.6 cmH2O,60°群:20.8±2.0 cmH2Oであった。一元配置分散分析反復測定法の結果,ベッドアップ角度に主効果が認められた。またBonferroniの多重比較の結果,0°群と60°群,及び30°群と60°群の間に有意な最高気道内圧の上昇が認められた(p<0.01)。
【考察】
一般的に背臥位では腹部臓器の圧迫にて横隔膜が押し上げられコンプライアンスが低下し,座位では圧迫が解除されコンプライアンスを上昇することされ,これに当てはめるとベッドアップに伴い気道内圧は低下するが,今回の検討では逆の結果が得られた。最高気道内圧変化の要因は肺コンプライアンスの他に,気流,呼吸器回路などがある。今回の検討では呼吸器回路に問題がみられたものはおらず設定等の変更をしているものもいない。気流では気管の内径や変化は不明だが分泌物の出現を極力取り除いた中で測定を実施するよう配慮している。以上より,変化の主たる要因は肺コンプライアンスと考えている。肺コンプライアンスは胸郭の変化の影響も受け,例えば脊柱後彎姿勢は胸郭の体積を減少させるとされており,本研究においては姿勢を考慮しているものの影響を受けた可能性は否めない。一方,陽圧換気下で下側肺障害が知られ,背臥位では下側を背側面,座位では下側を下方面と捉えると,通常0~30°の臥床症例では背上方側面の含気も促しにくい状況から,60°ベッドアップの気道内圧上昇に寄与した可能性が考えられる。しかし,臨床では60°から背臥位に戻すと,最初の背臥位での気道内圧より低下する傾向もみられる。
【理学療法学研究としての意義】
ALS患者の陽圧換気においてベッドアップ座位により気道内圧が増加することが示された。気道内圧上昇は肺への圧障害を引き起こす危険性もあるが,ベッドアップによる気道内圧の上昇は背上方側の含気を促す戦略となりうる可能性も考慮する必要がある。