第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動生理学2

Sun. Jun 1, 2014 12:15 PM - 1:05 PM 第3会場 (3F 301)

座長:秋山純和(人間総合科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 口述

[1555] 低速での反復起立トレーニングが筋力・心肺機能に与える影響

藤原和志1, 大場勇輔1, 中村隼平2, 阿比留友樹2, 友田秀紀1, 森山雅志2, 小泉幸毅1, 赤津嘉樹3, 梅津祐一3 (1.医療法人共和会小倉リハビリテーション病院臨床サービス部, 2.医療法人共和会小倉リハビリテーション病院地域リハビリテーション部, 3.医療法人共和会小倉リハビリテーション病院診療部)

Keywords:反復起立, 低速, 筋力

【はじめに,目的】
近年,心臓・血管系に負担が少なく,安全に筋力強化が行える低速でのトレーニングが注目されている。臨床では,歩行練習の準備段階から安全に実施可能な下肢筋力強化法として起立運動が多く実施され,設定回数や台の高さの違いによる運動強度の違いについての報告は散見されるが,起立速度の違いによるトレーニング効果について検討されている報告は我々が知る限り見当たらない。また我々の先行研究において,起立速度が遅いほど心肺機能への負担は少ないことを報告したが,低速でのトレーニングが筋力や心肺機能に与える影響についての検証が今後の研究課題となっていた。そこで本研究は,低速での反復起立トレーニングにおける筋力・心肺機能に与える影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人22名(男性16名,女性6名,平均年齢23.3±1.6歳,BMI20.7±2.4kg/m2)。携帯型呼気ガス分析装置(アニマ社製,AT-1100)を用いbreath by breath方式で反復起立運動による多段階運動負荷試験を実施した。プロトコルは,安静座位5分,ウォームアップとして反復起立動作を10回/分の速さで3分間行い,その後20回/分の速さで開始し,5回/分の漸増負荷を予測最大心拍数の80%(以下,80%HRmax)まで実施した。中止基準は80%HRmax到達時,または自覚症状が限界に達した時,またはリズムに3回以上遅れた時とした。測定項目は,酸素摂取量(以下,V(dot)O2),最高酸素摂取量(以下,peak V(dot)O2),分時換気量(以下,VE),心拍数,無酸素性作業閾値(以下,AT),80%HRmax到達時間,AT到達時間を測定し,外挿法より予測最大酸素摂取量(以下,予測V(dot)O2max)を算出した。また自覚症状は主観的運動強度にて1分毎に測定し,筋力は筋力計(アニマ社製,M-1000)を用い椅子座位にて等尺性での左右膝伸展筋力を測定した。反復起立トレーニングは,6回/分(以下,低速群)と30回/分(以下,高速群)の2群に分け,週3回,12週間実施した。座面高は床から腓骨頭の長さとし,両上肢は体側に垂らして実施した。回数設定は,各対象者で運動負荷試験の結果から目標心拍数60%の時とした。またトレーニング開始から4週毎に運動負荷試験を実施し回数の再設定を行った。解析には,t検定およびWilcoxon順位和検定で比較分析し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理委員会承諾後,対象者に研究内容の趣旨を説明し,書面にて承諾を得た。
【結果】
低速群のトレーニング前後では,両膝伸展筋力(右0.63±0.19kg/w→0.76±0.19kg/w,左0.63±0.21kg/w→0.76±0.18kg/w),80%HRmax到達時間(724±82.1sec→787±90.1sec),AT到達時間(638±47.3sec→678±56.0sec)に有意な増加を認めた。高速群のトレーニング前後では,右膝伸展筋力(右0.72±0.12kg/w→0.83±0.18kg/w,左0.76±0.14kg/w→0.79±0.17kg/w),80%HRmax到達時間(754±61.8sec→784±86.7sec)に有意な増加を認めた。一方,両群ともpeak V(dot)O2や予測V(dot)O2maxには有意差を認めなかった。増加率では,低速群の方が高速群に比べ左膝伸展筋力と80%HRmax到達時間に有意な増加を認めた(P<0.05)。
【考察】
低速群において筋力の増加率に有意な増加を認めた。鈴木らは,低負荷でも筋収縮時間が長いほど筋血流量は制限され,速筋線維が優位に活動し,高負荷同様の筋肥大・筋力増加が認められると報告している。本研究でも同様に低速群において増加率に有意差を認め,収縮時間が長いほど筋力が増加する傾向にあった。一方で,トレーニング前後のpeak V(dot)O2等の有酸素能には両群とも変化はなく,心肺機能の向上には至らなかった。しかし,80%HRmax到達時間の増加率は低速群で有意な増加を認めた。谷本らは,低速でのトレーニングは筋血流量の増加等の血管系機能にも効果があるとしている。また西本らは,持続的な反復起立運動により遅筋線維の運動単位の動員数や発射頻度が向上し,運動持続時間が増大したと報告している。これらの報告から,本研究で筋血流量や遅筋線維の発射頻度増加による筋持久力の向上が80%HRmax到達時間の増加に繋がったのではないかと考えられた。以上より,低速での反復起立トレーニングは筋力増加と筋持久力の向上に影響することが示唆された。
最後に,本研究では4週毎に運動負荷試験を実施し起立回数を設定しており,トレーニング期間中の心肺機能の評価時期に課題を残す可能性があり,今後の研究課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】
低速による反復起立トレーニングは,筋力と筋持久力の向上に影響することが示唆された。このことは,臨床で筋力トレーニングを実施する際に,運動速度についても考慮することの意義を示唆するものと思われる。