[1563] ひずみゲージを用いた荷重測定杖の製作および実用性の検証―第2報―
Keywords:荷重測定杖, ひずみゲージ, 中殿筋
【はじめに,目的】
臨床現場における動作分析は定量化が難しく,臨床家の視覚的な観察が中心である。杖への荷重量(以下:杖荷重量)の測定には体重計等を用いる場合が多く,動作時にかかる杖荷重量については床反力計などの高価な機器を用いるのが一般的である。我々は,2年前に杖荷重量を定量化するため,安価で簡便に杖荷重量を測定できる荷重測定杖を製作し,第47回理学療法学会で発表した。今回さらにそれを発展させ,より測定精度の高い荷重測定杖を製作する。また,製作した杖の臨床応用として,杖の位置と荷重量を変化させた時の股関節外転筋と杖支持側上肢筋の筋出力の関係性を検討した。
【方法】
1.荷重測定杖の製作および校正方法
市販のアルミ製のT字杖(300g)を用い,杖にかかる鉛直方向の力を測定できるようひずみゲージを取り付けた。ひずみゲージを一辺としたブリッジ回路を製作し,杖より生じるひずみを電圧変換する回路を製作した。出力電圧は汎用計測システム構成ソフトウェア(LabVIEW)を使って表示した。また,前回は杖への荷重量を視覚的なフィードバックにて行ったが,今回は警告音による聴覚的フィードバック機能を追加した。万能試験機(島津製作所社製)を用いて杖に引張方向の力を加えた。非荷重時の出力電圧を測定し,この出力電圧を0kgとした。杖に対し鉛直方向に10kg,20kg,30kgの引張力を1kg/sの速度で加えた。測定は各荷重につき3回行った。各荷重量に到達後,10秒間保持し安定した2秒間の平均電圧値を各荷重量の電圧値として採用した。
2.荷重測定杖を用いた杖荷重量と筋活動の検討
製作した杖を用いて,片脚立位時の股関節外転筋群および上腕三頭筋と杖荷重量ならびに杖をつく位置との関係性を検討した。対象者は健常若年男性9名とした(年齢:19~24歳,身長:171.1±2.0cm,体重:73.4±10.5kg)。杖の高さは,右大腿骨大転子に合わせた。杖をつく位置は,第5中足骨頭から外側5cm・外側15cm・外側25cmとし,杖への荷重量は,体重の10%・15%(以下:10%荷重・15%荷重)とした。対象者に杖荷重量をフィードバックするため,体重の10%・15%の電圧量をスクリーンに表示した。測定は各試行につき2回行い,5秒間の片脚立位を保持した。測定筋は中殿筋・大腿筋膜張筋・上腕三頭筋とし,各筋の最大等尺性収縮(以下:MVC)を測定した。筋電図の分析方法は,積分筋電図にて分析した。分析範囲は,各課題の筋電図が最も安定した2秒間とし,各対象者の積分値の平均を算出した。各筋のMVCを100%として正規化し,各課題の積分筋電図と比較した(%MVC)。統計処理は,Friedman検定とし,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に際し,対象者には事前に研究内容を説明し,文章にて同意を得た。
【結果】
負荷試験時の荷重量と出力電圧の関係は,0kg:1.06×10-3mV,10kg:30.0×10-3mV,20kg:60.8×10-3mV,30kg:91.8×10-3mVであり,出力電圧と荷重量には強い相関得られた(r2=1)。片脚立位時の中殿筋は,0%荷重と15%荷重で中殿筋・大腿筋膜張筋に有意差が見られた。中殿筋の積分筋電図は外側15cmの0%荷重で22.1%,10%荷重で15.6%,15%荷重で12.5%となり,上腕三頭筋は外側15cmの10%荷重で42.3%,15%荷重で49.6%となった。杖をつく位置を体側から離した場合,中殿筋は外側5cmで15.7%,外側15cmで15.6%,外側25cmで13.5%とわずかに減少する傾向が示された。また,上腕三頭筋の杖への荷重量および杖の位置の変化に関わらず約40%の筋活動が示された。
【考察】
校正の結果,力と電圧の関係に強い相関が得られた。この理由として,ひずみゲージと杖の接着強度が高めるため,常温時に硬化後の物性が優れているアロンアルファを用いた。また接着面の前処理として杖表面の塗装を剥離し,清浄した上で接着を行った結果,測定誤差の軽減に繋がったと考える。対象者の片脚立位の筋活動量は,杖をつく位置を外側に移動しても中殿筋は約2%,大腿筋膜張筋は約0.8%しか減少しなかった。この理由として,杖の位置変化に伴い重心位置が変化するため,股関節中心と重心位置の距離が一定でなくなった可能性が考えられる。よって,今後は重心の変化について検討する必要がある。また,上腕三頭筋は健常成人においても荷重時にMVCの40%以上の筋活動量が示された。よって,高齢者等では身体機能の低下も予想されるため,T字杖への過度な荷重は上肢筋等の損傷スクに繋がる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回製作した荷重測定杖は,杖歩行動作時の荷重を定量的かつ簡便に測定することができ,制作費も安価である。このことから,臨床への応用は十分に期待でき,定量的な歩行分析のツールとしても大いに有用であると考える。
臨床現場における動作分析は定量化が難しく,臨床家の視覚的な観察が中心である。杖への荷重量(以下:杖荷重量)の測定には体重計等を用いる場合が多く,動作時にかかる杖荷重量については床反力計などの高価な機器を用いるのが一般的である。我々は,2年前に杖荷重量を定量化するため,安価で簡便に杖荷重量を測定できる荷重測定杖を製作し,第47回理学療法学会で発表した。今回さらにそれを発展させ,より測定精度の高い荷重測定杖を製作する。また,製作した杖の臨床応用として,杖の位置と荷重量を変化させた時の股関節外転筋と杖支持側上肢筋の筋出力の関係性を検討した。
【方法】
1.荷重測定杖の製作および校正方法
市販のアルミ製のT字杖(300g)を用い,杖にかかる鉛直方向の力を測定できるようひずみゲージを取り付けた。ひずみゲージを一辺としたブリッジ回路を製作し,杖より生じるひずみを電圧変換する回路を製作した。出力電圧は汎用計測システム構成ソフトウェア(LabVIEW)を使って表示した。また,前回は杖への荷重量を視覚的なフィードバックにて行ったが,今回は警告音による聴覚的フィードバック機能を追加した。万能試験機(島津製作所社製)を用いて杖に引張方向の力を加えた。非荷重時の出力電圧を測定し,この出力電圧を0kgとした。杖に対し鉛直方向に10kg,20kg,30kgの引張力を1kg/sの速度で加えた。測定は各荷重につき3回行った。各荷重量に到達後,10秒間保持し安定した2秒間の平均電圧値を各荷重量の電圧値として採用した。
2.荷重測定杖を用いた杖荷重量と筋活動の検討
製作した杖を用いて,片脚立位時の股関節外転筋群および上腕三頭筋と杖荷重量ならびに杖をつく位置との関係性を検討した。対象者は健常若年男性9名とした(年齢:19~24歳,身長:171.1±2.0cm,体重:73.4±10.5kg)。杖の高さは,右大腿骨大転子に合わせた。杖をつく位置は,第5中足骨頭から外側5cm・外側15cm・外側25cmとし,杖への荷重量は,体重の10%・15%(以下:10%荷重・15%荷重)とした。対象者に杖荷重量をフィードバックするため,体重の10%・15%の電圧量をスクリーンに表示した。測定は各試行につき2回行い,5秒間の片脚立位を保持した。測定筋は中殿筋・大腿筋膜張筋・上腕三頭筋とし,各筋の最大等尺性収縮(以下:MVC)を測定した。筋電図の分析方法は,積分筋電図にて分析した。分析範囲は,各課題の筋電図が最も安定した2秒間とし,各対象者の積分値の平均を算出した。各筋のMVCを100%として正規化し,各課題の積分筋電図と比較した(%MVC)。統計処理は,Friedman検定とし,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の実施に際し,対象者には事前に研究内容を説明し,文章にて同意を得た。
【結果】
負荷試験時の荷重量と出力電圧の関係は,0kg:1.06×10-3mV,10kg:30.0×10-3mV,20kg:60.8×10-3mV,30kg:91.8×10-3mVであり,出力電圧と荷重量には強い相関得られた(r2=1)。片脚立位時の中殿筋は,0%荷重と15%荷重で中殿筋・大腿筋膜張筋に有意差が見られた。中殿筋の積分筋電図は外側15cmの0%荷重で22.1%,10%荷重で15.6%,15%荷重で12.5%となり,上腕三頭筋は外側15cmの10%荷重で42.3%,15%荷重で49.6%となった。杖をつく位置を体側から離した場合,中殿筋は外側5cmで15.7%,外側15cmで15.6%,外側25cmで13.5%とわずかに減少する傾向が示された。また,上腕三頭筋の杖への荷重量および杖の位置の変化に関わらず約40%の筋活動が示された。
【考察】
校正の結果,力と電圧の関係に強い相関が得られた。この理由として,ひずみゲージと杖の接着強度が高めるため,常温時に硬化後の物性が優れているアロンアルファを用いた。また接着面の前処理として杖表面の塗装を剥離し,清浄した上で接着を行った結果,測定誤差の軽減に繋がったと考える。対象者の片脚立位の筋活動量は,杖をつく位置を外側に移動しても中殿筋は約2%,大腿筋膜張筋は約0.8%しか減少しなかった。この理由として,杖の位置変化に伴い重心位置が変化するため,股関節中心と重心位置の距離が一定でなくなった可能性が考えられる。よって,今後は重心の変化について検討する必要がある。また,上腕三頭筋は健常成人においても荷重時にMVCの40%以上の筋活動量が示された。よって,高齢者等では身体機能の低下も予想されるため,T字杖への過度な荷重は上肢筋等の損傷スクに繋がる可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
今回製作した荷重測定杖は,杖歩行動作時の荷重を定量的かつ簡便に測定することができ,制作費も安価である。このことから,臨床への応用は十分に期待でき,定量的な歩行分析のツールとしても大いに有用であると考える。