第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節22

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 第11会場 (5F 501)

座長:対馬栄輝(弘前大学大学院保健学研究科)

運動器 口述

[1570] 健常成人男性のHip flexion angle値におけるMinimal clinically important differenceの検討

赤澤直紀1, 原田和宏2, 大川直美1, 中谷聖史1, 北裏真己3, 松井有史3, 森山英樹4 (1.河西田村病院リハビリテーション科, 2.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科, 3.和歌山国際厚生学院理学療法学科, 4.神戸大学大学院保健学研究科)

キーワード:Hip flexion angle値, Minimal clinically important difference, 健常成人男性

【はじめに,目的】
スポーツ傷害の中で多く認められるハムストリングス損傷を予防するためには,筋柔軟性の改善を図ることが不可欠であると報告されている。そのため,ハムストリングス柔軟性を改善させ得る効果的な介入を模索する試みが従来からなされ,それら介入試験の効果判定はアウトカム測定値を統計学的に解析した結果を基に行われてきた。しかし近年,統計学的検定の結果はサンプルサイズに依存するという指摘がなされ,介入の効果判定には統計学的検定の結果と併せて,Minimal clinically important difference(MCID)を用いることが推奨されている。つまり,ハムストリングス柔軟性の改善に対する効果判定にはアウトカム測定値を統計学的に解析するだけでは不十分であり,MCIDに基づいた議論が不可欠であるということである。しかし,ハムストリングス柔軟性を反映する指標として頻繁に用いられるHip flexion angle(HFA)値のMCIDは明らかにされていない。したがって,本研究は健常成人男性のHFA値のMCIDを明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性のHFA値にハムストリングスのマッサージ部位の違いが及ぼす効果に関する研究(赤澤ら,2013)に参加した健常成人男性32名を対象とした。MCID推定の外的指標にはLangら(2008)の用いた7件法のGlobal rating of change scale(GRC)を用いた。GRCの内容はスコア3「かなり大きく関節可動域が拡大した」,スコア2「大きく関節可動域が拡大した」,スコア1「少し関節可動域が拡大した」,スコア0「変化なし」,スコア-1「少し関節可動域が狭小した」,スコア-2「大きく関節可動域が狭小した」,スコア-3「かなり大きく関節可動域が狭小した」とした。GRCの調査はマッサージ介入後のHFA値測定の直後に行った。HFA値はデジタルカメラで撮影した画像を基に画像解析ソフトImage Jを用いて0.01°単位で解析した。MCIDの推定は次の手順で行った。HFA値についてマッサージ介入後から介入前の値を差分することで,GRC各スコアにおけるHFA値変化量を算出した。次にHollandら(2010)の方法を参考にスコア1とスコア-1を「small change」群とし,そのHFA値変化量の平均値をMCIDとした。この平均値を算出する際にスコア-1と報告した者のHFA値変化量については絶対値を用いた。また,GRCスコアとHFA値変化量との関係についてSpearmanの順位相関係数を求めた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の趣旨と手順を書面と口頭により説明し,文書で同意を得た。なお,本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】
GRC各スコアでの報告者数とHFA値変化量の平均値はスコア2で2名(4.9°),スコア1で18名(3.1°),スコア0で9名(-1.7°),スコア-1で3名(-3.2°)であった。スコア3,-2,-3と報告した者は0名であった。MCIDと規定した「small change」群のHFA値変化量の平均値は3.1°であった。また,GRCスコアとHFA値変化量の間には有意な相関(ρ=0.42)を認めた。
【考察】
本研究で用いたGRCの妥当性は次の点から説明できる。GRCスコアとHFA値変化量の間に有意な相関関係を認めたこと,さらにスコア1とスコア-1のHFA値変化量の平均値はそれぞれ3.1°と-3.2°であり,Juniperら(1994)のGRCを外的指標とした場合,改善または悪化と報告した者のアウトカム測定値の大きさは近似するとの報告を支持した。次にMCIDの妥当性について,Hsiehら(2007)は,外的指標を用いて推定したMCIDが1単位のStandard error of measurement(SEM)を下回る場合,そのMCIDは妥当でないと述べている。HFA値のSEMはHopperら(2005)により1.8°と報告されており,本研究におけるMCIDはこの1.8°を上回った。これらを踏まえると,健常成人男性のHFA値におけるMCIDが3.1°という本研究の結果は妥当であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
ハムストリングス柔軟性を改善させ得る効果的な介入を模索する試みは今後もなお続くことが予想される。そのような中,介入の効果判定の議論に用いることが可能なHFA値のMCIDを提示できたことは意義深いと考える。