[1572] 下腿骨折に対し,Taylor Spatial Frameが用いられた2例の理学療法経験
Keywords:下腿骨折, 創外固定, Taylor Spatial Frame
【はじめに,目的】
Taylor Spatial Frame(以下:TSF)は,2つのリングと6つのストラットにより構成された創外固定であり,主に下肢の変形矯正に使用されている。近年では,新鮮開放骨折などの外傷に対するTSFの使用報告も散見される。しかし,そのようなTSF症例の理学療法報告はない。今回は,当院で行なった下腿骨折に対するTSF症例の理学療法について考察を交えて報告する。
【方法】
対象は,当院にてTSFによって治療された下腿骨折の2例である。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の発表に際し,当院の倫理委員会の承認を得たのち,書面および口頭で対象に趣旨の説明を行ない,同意を得た。
【結果】
症例1:50代男性,交通事故にて受傷。診断名は左脛骨骨幹部骨折(AO分類42-B3,Gustilo分類typeII),右膝関節脱臼骨折(AO分類41-C3,Gustilo分類typeIIIb)。右については大腿切断となった。左については受傷当日に創外固定術,受傷後14日に分層植皮術が施行された。受傷後28日に創外固定からTSFへ変更となり,左足関節のROM運動と荷重が許可された。左膝・足関節ともに著明なROM制限を呈していたためにROM運動は積極的に実施した。また対側は大腿切断であり,以後の大腿義足歩行獲得を見据えて傾斜板を利用した左下肢荷重練習を実施した。術後2ヶ月で大腿義足が完成し,義足歩行練習を開始した。術後6.5ヶ月でTSFが抜去された。術後10ヶ月で独歩を獲得した。ADLは自立し,疼痛はない。ROMについては膝関節の制限はなく,足関節背屈15°,底屈40°である。
症例2:50代男性,交通事故にて受傷。診断名は右脛骨近位部骨折(AO分類41-C1,Gustilo分類typeII)であり,右下腿コンパートメント症候群を合併していた。受傷当日に創外固定術と筋膜切開術が施行された。受傷後13日にTSFによる固定となり,膝・足関節のROM運動と荷重が許可された。初期評価時より右足関節は回外20°,底屈25°の内反尖足変形を呈していた。足部の変形を改善するために,足底板を作成し,これをTSFのリングにバンドを取り付け下垂足と内反を強制するように工夫した。術後5週で松葉杖歩行自立,術後4ヶ月で下垂足が改善,術後5ヶ月でTSFを抜去した。その後骨癒合不全を認め,術後6ヶ月で内固定術(外側plating)を施行,術後8ヶ月で独歩自立となった。術後10ヶ月で理学療法を終了した。ROMについては足関節背屈10°,底屈40°,階段昇降も可能である。日本足の外科学会足関節・後足部判定基準は82/100点である。
【考察】
外傷に対するTSFの利点として,骨折部の展開を最小にすることで軟部組織の侵襲が少ないこと,早期からのROM運動と荷重が可能となること,完全な整復位を獲得できることなどが挙げられる。欠点としてピン刺入部の感染・疼痛を惹起することが挙げられるが,症例1,2ともにTSFの利点を十分に生かして理学療法を実施することで良好な機能を獲得できたと考える。
症例1については,対側の大腿切断を伴っており,大腿義足歩行獲得のためにはTSF側での支持性向上が必要であると考えた。TSFにより荷重は許可されていたので,大腿義足完成待機期間から積極的に立位荷重練習を実施した。なお足関節の背屈制限があったために立位荷重練習は傾斜板を使用して行なった。また,ピン刺入部などに疼痛が生じたために片脚での歩行は困難であったが,立位での荷重練習を十分に行なえたために,義足完成後からの歩行練習はスムーズに進んだ。足関節の背屈については荷重での持続伸張も行なえたために足関節の著明な制限を残すことなく,良好な歩行機能を獲得できたと考える。
症例2については,コンパートメント症候群の合併により足部の内反尖足変形が認められ,その改善のために装具療法を行なった。症例1と同様に荷重が許可されたので足底板を作成し,TSFのリングにバンドを取り付けて固定した。これにより荷重時に足関節の回内を促せたことで足部の変形の改善に至ったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
四肢外傷に対する治療技術は日々進化しており,後療法を担う理学療法の役割は大きく,その進化に対応していかねばならない。新鮮骨折に対するTSFの使用報告自体はまだ少ないが,今後増えてくることが考えられる。今後も症例報告を蓄積していくことが重要で,後療法についても確立してくると考える。
Taylor Spatial Frame(以下:TSF)は,2つのリングと6つのストラットにより構成された創外固定であり,主に下肢の変形矯正に使用されている。近年では,新鮮開放骨折などの外傷に対するTSFの使用報告も散見される。しかし,そのようなTSF症例の理学療法報告はない。今回は,当院で行なった下腿骨折に対するTSF症例の理学療法について考察を交えて報告する。
【方法】
対象は,当院にてTSFによって治療された下腿骨折の2例である。
【倫理的配慮,説明と同意】
今回の発表に際し,当院の倫理委員会の承認を得たのち,書面および口頭で対象に趣旨の説明を行ない,同意を得た。
【結果】
症例1:50代男性,交通事故にて受傷。診断名は左脛骨骨幹部骨折(AO分類42-B3,Gustilo分類typeII),右膝関節脱臼骨折(AO分類41-C3,Gustilo分類typeIIIb)。右については大腿切断となった。左については受傷当日に創外固定術,受傷後14日に分層植皮術が施行された。受傷後28日に創外固定からTSFへ変更となり,左足関節のROM運動と荷重が許可された。左膝・足関節ともに著明なROM制限を呈していたためにROM運動は積極的に実施した。また対側は大腿切断であり,以後の大腿義足歩行獲得を見据えて傾斜板を利用した左下肢荷重練習を実施した。術後2ヶ月で大腿義足が完成し,義足歩行練習を開始した。術後6.5ヶ月でTSFが抜去された。術後10ヶ月で独歩を獲得した。ADLは自立し,疼痛はない。ROMについては膝関節の制限はなく,足関節背屈15°,底屈40°である。
症例2:50代男性,交通事故にて受傷。診断名は右脛骨近位部骨折(AO分類41-C1,Gustilo分類typeII)であり,右下腿コンパートメント症候群を合併していた。受傷当日に創外固定術と筋膜切開術が施行された。受傷後13日にTSFによる固定となり,膝・足関節のROM運動と荷重が許可された。初期評価時より右足関節は回外20°,底屈25°の内反尖足変形を呈していた。足部の変形を改善するために,足底板を作成し,これをTSFのリングにバンドを取り付け下垂足と内反を強制するように工夫した。術後5週で松葉杖歩行自立,術後4ヶ月で下垂足が改善,術後5ヶ月でTSFを抜去した。その後骨癒合不全を認め,術後6ヶ月で内固定術(外側plating)を施行,術後8ヶ月で独歩自立となった。術後10ヶ月で理学療法を終了した。ROMについては足関節背屈10°,底屈40°,階段昇降も可能である。日本足の外科学会足関節・後足部判定基準は82/100点である。
【考察】
外傷に対するTSFの利点として,骨折部の展開を最小にすることで軟部組織の侵襲が少ないこと,早期からのROM運動と荷重が可能となること,完全な整復位を獲得できることなどが挙げられる。欠点としてピン刺入部の感染・疼痛を惹起することが挙げられるが,症例1,2ともにTSFの利点を十分に生かして理学療法を実施することで良好な機能を獲得できたと考える。
症例1については,対側の大腿切断を伴っており,大腿義足歩行獲得のためにはTSF側での支持性向上が必要であると考えた。TSFにより荷重は許可されていたので,大腿義足完成待機期間から積極的に立位荷重練習を実施した。なお足関節の背屈制限があったために立位荷重練習は傾斜板を使用して行なった。また,ピン刺入部などに疼痛が生じたために片脚での歩行は困難であったが,立位での荷重練習を十分に行なえたために,義足完成後からの歩行練習はスムーズに進んだ。足関節の背屈については荷重での持続伸張も行なえたために足関節の著明な制限を残すことなく,良好な歩行機能を獲得できたと考える。
症例2については,コンパートメント症候群の合併により足部の内反尖足変形が認められ,その改善のために装具療法を行なった。症例1と同様に荷重が許可されたので足底板を作成し,TSFのリングにバンドを取り付けて固定した。これにより荷重時に足関節の回内を促せたことで足部の変形の改善に至ったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
四肢外傷に対する治療技術は日々進化しており,後療法を担う理学療法の役割は大きく,その進化に対応していかねばならない。新鮮骨折に対するTSFの使用報告自体はまだ少ないが,今後増えてくることが考えられる。今後も症例報告を蓄積していくことが重要で,後療法についても確立してくると考える。