第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

徒手療法2

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 ポスター会場 (運動器)

座長:白谷智子(苑田第二病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[1610] 慢性期非特異的腰痛者の疼痛および脊柱機能に及ぼす徒手療法治療効果の症例報告

井上豊1, 小林裕央2, 土屋和志3, 佐藤広之2, 福岡正和2, 鈴木秀次4 (1.社会福祉法人湘南アフタケア協会, 2.早稲田大学人間総合研究センター, 3.早稲田大学大学院, 4.早稲田大学人間科学学術院)

キーワード:非特異的腰痛, 徒手療法, スパイナルマウス

【はじめに,目的】腰痛患者の疼痛改善に対する徒手療法の治療方針として,疼痛部位だけでなく周辺の関節のアライメントや可動性の異常を総合的に改善させ,疼痛が顕著な関節への外力集中を分散させる試みがある。従来,疼痛の軽減や治療対象項目の改善を示した上で臨床推論の妥当性を検討した報告はあるが,治療期間におけるそれらの経時的変化ならびに脊柱機能の変化との関連性を詳細に検討した例はない。そこで本研究は,徒手療法によって疼痛が軽減した慢性期非特異的腰痛者の症例を基に,疼痛および脊柱機能の変化とその関連性を検討することとした。
【方法】被験者は立位体前屈位で慢性的な非特異的腰痛を訴える成人男性1名(24歳)を対象とした。被験者は整形外科医の問診後,週1回の頻度で6週間,理学療法士による徒手療法を受けた。1回の治療時間は約40分とした。治療は,①腰椎椎間関節および仙腸関節に対するマニプレーションまたはモビライゼーション,②ハムストリングスのストレッチング,③腰仙関節に対するスタビライゼーションを症状に合わせて施行した。加えて②,③をホームエクササイズとして被験者に行わせた。測定は各回の治療(S1~S6)実施の前後(pre,post)の計12回行った。測定項目は,主観的疼痛評価(NRS),他動股関節屈曲可動域(ROM),触診による腹横筋・多裂筋の随意収縮評価,joint play(JP)運動,Finger to Floor test(FTF)を実施した。また,脊柱アライメントはスパイナルマウスを用い,立位姿勢,前屈位,後屈位の胸椎後彎角(TKA),腰椎前彎角(LLA),仙骨傾斜角(SIA),脊柱傾斜角(Incl)を計測した。TKAおよびLLAの値は後彎をプラス,前彎をマイナスとした。
【倫理的配慮,説明と同意】早稲田大学「ヒトを対象とする研究に関する倫理委員会」で研究実施の承認を得た。被験者に対し本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】治療実施前の臨床的推論として,腰仙関節(L5-S1)部位の過可動性,L2-3,L3-4,L4-5椎間関節および左仙腸関節(左SI)の低可動性,ならびに両側ハムストリングスの短縮を問題点として評価した。体幹前屈位でのNRSは8(S1 pre)から,5(S1 post)へと変化し,S2(7から3),S3(8から5)においても治療後の急性的な変化を示した。一方,S4以降(pre:1,post:0)はいずれも治療前から明白な疼痛の軽減を示した。L2-3,L3-4,およびL4-5のJP scaleはS1 preの1から,S3 postで3(正常)へと変化した。SIは0(S1 pre)からS3 preには3へと変化した。一方,過可動性が見られたL5-1はS1 preからS4 postまでが4と一定で,S5 pre以降3へと変化した。また,腹横筋は1回目,多裂筋は2回目の評価で随意収縮が可能となった。ROMは前回の治療後に比べ,次の治療前で5~10°低下することもあったが,55°(右),50°(左)(S1 pre)から90°(右),85°(左)(S6 post)へと大幅な改善を示した。FTFは19.5 cm(S1 pre)からS2 postでは0 cmまで改善し,S5 pre以降は全て0 cmだった。前屈位での脊柱アライメントも同様に脊柱傾斜角が95.3 deg(S1 pre)から113.7 deg(S6 post)へと前屈方向への傾斜角が増大し,S5以降は112.0 deg~113.7 degと安定していた。また,LLAは50.7 degから42.3 deg(S1 pre~S6 post)へと減少し,反対にSIAは40.7 degから66.7 deg(S1 pre~S6 post)へと大きく増加した。
【考察】Leeら(2002)は立位からの体幹前屈動作では動作の初期に腰椎がより多く屈曲し,終期には股関節がより多く屈曲すると述べている。本症例の立位体幹前屈時の疼痛は,可動性が低下した腰椎を介して屈曲が著しく減少することで過可動性のL5-S1の屈曲が増し,さらには体幹前屈終期に両側ハムストリングスの短縮と左SIの低可動性の影響も加わったものと推察される。1回目の治療ではJP,ROMとともにNRSの改善を認めた。またFTFは改善,SIAは増加する一方でLLAが減少した。これはJP,ROMの改善により体幹前屈時の腰椎の後彎が減少し,L5-S1の疼痛軽減につながったと考えられる。2,3回目でもNRSが改善し,他の評価項目も改善がみられたが,治療日の移行期では減少傾向を示した。4回目以降ではNRSが1~0となり,L5-S1のJPは5回目には安定性が向上した。これは疼痛軽減に必要な関節の可動性獲得とともにホームエクササイズによるL5-S1の安定化が図れ,症状が安定期に入ったと考えられる。1回目と6回目では,JP,ROMの改善とともにNRSが8から0へ,FTFが19.5cmから0cmへ改善した。またSIA,Inclの増加とLLAの減少を認めたことから,疼痛部位に隣接する関節の低可動性を改善させた結果,疼痛が軽減したことを客観的な機能評価で示すことができたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】徒手療法によって得られた疼痛の軽減を客観的な機能的変化と関連付けたこと。