[1615] 視覚の誘導が重心動揺に与える影響
Keywords:視覚, 重心動揺, 脳卒中
【はじめに,目的】
立位の重心動揺に関わる因子として視覚が関与することは知られている。視覚は外界からの情報を瞬時に収集・処理し,環境に応じた身体の姿勢や運動に重要な役割を担っている。視覚が重心動揺に与える影響については健常者を対象に多くの報告がされ,視覚情報に対して身体を効率的で安定するよう制御するとされている。臨床上,脳卒中片麻痺者では視覚情報に適応した姿勢や運動の制御が難しく,代償性や危険性を伴った動作となることが観察される。筆者らは,視覚の誘導(視覚誘導)を行うことで脳卒中片麻痺者の重心動揺は増大し,位置ベクトル(Position Vector:PV)は誘導方向に依存すると仮説を立てた。本研究は,脳卒中片麻痺者における視覚誘導が立位重心動揺に与える影響について健常者と比較し,その特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,健常者20名(健常群:男性8名,女性12名,年齢26.6±4.0)と既往に整形疾患がなく立位保持能力を有した脳卒中片麻痺者20名(片麻痺群:右片麻痺10名,左片麻痺10名,年齢59.4±13.8歳)とした。重心動揺計(GS2000,周波数20Hz,アニマ社製)を用い,測定肢位は裸足の開眼立位とした。測定条件は,準暗室にて暗視条件と追視条件の順で2条件行い,各条件の測定時間は60秒間とした。追視条件における視覚誘導の方法として,重心動揺計から50cm前方に設置したスクリーン(縦160×横160cm)に80cm/secで左右水平方向に往復する円型の指標(赤色,直径20cm)を対象者の眼球の高さに合わせて測定時間内で透写し,追視させた。対象者には測定前に頭部を動かさずに追視するよう指示し,2条件測定後に主観的感覚を聴取した。各群内において,各条件の1)総軌跡長2)外周面積3)矩形面積を算出し,4)PVは1区域45度で構成される8(A~H)区域の各平均値(Count/Length)を算出した。各群内の比較はWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準は5%未満とした。各群間の比較はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した倫理委員会で承認を得た。対象者には,実施前に本研究の趣旨と目的を十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
各群内の比較では,各条件において健常群では1)に有意差はなく,2)3)で有意差を認めた(P<0.05)。4)は暗視条件よりも追視条件で平均値は低値となり,A,D,H区域のみで有意差を認めた(P<0.05)。片麻痺群では1)に有意差はなく,2)3)で有意差を認めた(P<0.05)。4)は健常群同様,暗視条件よりも追視条件で平均値は低値となり,D区域のみ有意差を認めた(P<0.05)。両群共に主観的感覚は,「円型の指標の方が立ちやすかった」との回答を得た。各群間の比較では,両条件において1)2)3)に有意差を認め(P<0.01),4)も両条件で健常群よりも片麻痺群の平均値は高値となり,8区域全てで有意差を認めた(P<0.05)。
【考察】
脳卒中片麻痺者でも健常者と同様に,視覚誘導に対して重心移動の全長は変化せずに重心動揺面積は小さくなった。PVでも低値となり,視覚誘導により重心動揺は減少することが明らかとなった。本研究において左右水平方向に動く円形の指標は,PV範囲と照合するとC,G区域で重心動揺が増大させると仮説を立てた。結果よりC,G区域で重心動揺に変化は認められず,対象者の主観的感覚からも視覚誘導が立位重心動揺の安定に関与していることが示唆された。このことから,脳卒中片麻痺者は本研究の仮説とは異なり,視覚誘導に対して立位重心動揺の制御が可能であるといえる。両群間の比較では,両条件において脳卒中片麻痺者の重心動揺は増大しており,視覚だけでなく多様な感覚情報が重心動揺に影響するというこれまでの報告を裏付ける結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究結果は,脳卒中片麻痺者も健常者と同様に視覚誘導に対して重心動揺を制御している可能性を示すものである。本研究を基礎とし,視覚誘導に対する重心動揺の変化から姿勢や運動の効率性を高められる可能性が推察でき,脳卒中片麻痺者に対するアプローチの一手段として再考する上で意義がある。
立位の重心動揺に関わる因子として視覚が関与することは知られている。視覚は外界からの情報を瞬時に収集・処理し,環境に応じた身体の姿勢や運動に重要な役割を担っている。視覚が重心動揺に与える影響については健常者を対象に多くの報告がされ,視覚情報に対して身体を効率的で安定するよう制御するとされている。臨床上,脳卒中片麻痺者では視覚情報に適応した姿勢や運動の制御が難しく,代償性や危険性を伴った動作となることが観察される。筆者らは,視覚の誘導(視覚誘導)を行うことで脳卒中片麻痺者の重心動揺は増大し,位置ベクトル(Position Vector:PV)は誘導方向に依存すると仮説を立てた。本研究は,脳卒中片麻痺者における視覚誘導が立位重心動揺に与える影響について健常者と比較し,その特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,健常者20名(健常群:男性8名,女性12名,年齢26.6±4.0)と既往に整形疾患がなく立位保持能力を有した脳卒中片麻痺者20名(片麻痺群:右片麻痺10名,左片麻痺10名,年齢59.4±13.8歳)とした。重心動揺計(GS2000,周波数20Hz,アニマ社製)を用い,測定肢位は裸足の開眼立位とした。測定条件は,準暗室にて暗視条件と追視条件の順で2条件行い,各条件の測定時間は60秒間とした。追視条件における視覚誘導の方法として,重心動揺計から50cm前方に設置したスクリーン(縦160×横160cm)に80cm/secで左右水平方向に往復する円型の指標(赤色,直径20cm)を対象者の眼球の高さに合わせて測定時間内で透写し,追視させた。対象者には測定前に頭部を動かさずに追視するよう指示し,2条件測定後に主観的感覚を聴取した。各群内において,各条件の1)総軌跡長2)外周面積3)矩形面積を算出し,4)PVは1区域45度で構成される8(A~H)区域の各平均値(Count/Length)を算出した。各群内の比較はWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準は5%未満とした。各群間の比較はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した倫理委員会で承認を得た。対象者には,実施前に本研究の趣旨と目的を十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
各群内の比較では,各条件において健常群では1)に有意差はなく,2)3)で有意差を認めた(P<0.05)。4)は暗視条件よりも追視条件で平均値は低値となり,A,D,H区域のみで有意差を認めた(P<0.05)。片麻痺群では1)に有意差はなく,2)3)で有意差を認めた(P<0.05)。4)は健常群同様,暗視条件よりも追視条件で平均値は低値となり,D区域のみ有意差を認めた(P<0.05)。両群共に主観的感覚は,「円型の指標の方が立ちやすかった」との回答を得た。各群間の比較では,両条件において1)2)3)に有意差を認め(P<0.01),4)も両条件で健常群よりも片麻痺群の平均値は高値となり,8区域全てで有意差を認めた(P<0.05)。
【考察】
脳卒中片麻痺者でも健常者と同様に,視覚誘導に対して重心移動の全長は変化せずに重心動揺面積は小さくなった。PVでも低値となり,視覚誘導により重心動揺は減少することが明らかとなった。本研究において左右水平方向に動く円形の指標は,PV範囲と照合するとC,G区域で重心動揺が増大させると仮説を立てた。結果よりC,G区域で重心動揺に変化は認められず,対象者の主観的感覚からも視覚誘導が立位重心動揺の安定に関与していることが示唆された。このことから,脳卒中片麻痺者は本研究の仮説とは異なり,視覚誘導に対して立位重心動揺の制御が可能であるといえる。両群間の比較では,両条件において脳卒中片麻痺者の重心動揺は増大しており,視覚だけでなく多様な感覚情報が重心動揺に影響するというこれまでの報告を裏付ける結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究結果は,脳卒中片麻痺者も健常者と同様に視覚誘導に対して重心動揺を制御している可能性を示すものである。本研究を基礎とし,視覚誘導に対する重心動揺の変化から姿勢や運動の効率性を高められる可能性が推察でき,脳卒中片麻痺者に対するアプローチの一手段として再考する上で意義がある。