第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法21

2014年6月1日(日) 12:15 〜 13:05 ポスター会場 (神経)

座長:谷本武晴(和歌山労災病院中央リハビリテーション部)

神経 ポスター

[1616] 視覚の誘導が重心動揺に与える影響

松井倫子1, 上原大生1, 宮下徹也2 (1.社会医療法人孝仁会星が浦病院リハビリテーション部理学療法科, 2.社会医療法人孝仁会星が浦病院リハビリテーション部作業療法科)

キーワード:視覚, 重心動揺, 脳卒中

【はじめに,目的】
一般的に,左大脳半球は言語中枢や論理的思考を担っており,右大脳半球は時間・空間性注意の制御・維持,芸術的創造性の機能を担っているとされている。右大脳半球損傷者の特徴的な症状として半側空間無視がある。これは,現実の環境と片麻痺患者の空間認識とのズレによって生じるものと考えられている。その時の重心偏位は,右片麻痺患者に比べて左片麻痺患者は著明であると報告されている。しかし,視覚情報が重心動揺へ与える影響について,障害側別での差異特性を述べている研究報告は少ない。そこで,本研究では,脳卒中片麻痺患者の障害側別において,視覚の誘導(視覚誘導)における重心動揺とその特性を明らかにし,比較検討する。
【方法】
対象は,既往に整形疾患がなく立位保持能力を有した脳卒中片麻痺患者20名で,内訳は右片麻痺患者10名(右片麻痺群:年齢57.7±14.9歳),左片麻痺患者10名(左片麻痺群:年齢61.0±13.1歳)とした。重心動揺計(GS2000,周波数20Hz,アニマ社製)を用い,測定肢位は裸足の開眼立位とした。測定条件は,準暗室にて暗視条件と追視条件の順で2条件を行い,各条件の測定時間は60秒間とした。追視条件における視覚誘導には,重心動揺計から50cm前方に設置したスクリーン(縦160×横160cm)に80cm/secで左右方向を往復する円型の指標(赤色,直径20cm)を被験者の眼球の高さに合わせて測定時間内で透写し,追視させた。対象者には,測定前に頭部を動かさずに追視するように指示し,2条件測定後に主観的感覚を聴取した。各群内において,各条件の1)総軌跡長,2)外周面積,3)矩形面積,4)実効値面積を算出し,5)位置ベクトル(Position Vector:PV)は1区域45度で構成される8(A~H)区域の各平均値(count/length)を算出した。各群内の比較はWilcoxon符号付順位和検定を用い,有意水準は5%未満とした。各群間の比較はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した倫理委員会で承認を得た。対象者には,実施前に本研究の趣旨と目的を十分に説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
各群内の比較では,両条件,1)2)3)4)全てで有意差はなく,5)は暗視条件よりも追視条件で平均値は低値となった。右片麻痺群では8(A~H)区域全てに有意差は認められなかったが,左片麻痺群ではD区域のみ有意差を認め(P<0.01),その他の範囲では有意差を認めなかった。両群共に主観的感覚は,「円型の指標の方が立ちやすかった」との回答を得た。各群間の比較では,両条件,1)2)3)4)全てで有意差はなく,5)は両条件で左片麻痺群より右片麻痺群の平均値が8(A~H)区域全てで低値となったが,有意差は認められなかった。
【考察】
右片麻痺患者の特性として,暗視条件のPVは,比較的上下左右ともに対称的となっている。追視条件でも上下左右の幅に大きな差はなく,暗視条件と比較して全体的には低値になっている。これは,視覚誘導があることで重心位置は定位されやすい傾向にあると言える。左片麻痺患者の特性として,暗視条件のPVは,右(非麻痺側)方向に大きくなっている。このことは,空間認識の障害が左片麻痺者に多くみられることから,暗視条件では体性感覚として捉えやすい非麻痺側優位での立位保持となっていることが考えられる。追視条件では右(非麻痺側)方向へのPVはより低値であった。視覚誘導により麻痺側への空間認識が刺激されたことで,より中心に近い位置で重心位置が定位することができたと考える。左右片麻痺患者間の重心動揺に大きな差は認められないが,視覚情報により重心位置は中心に定位されやすく,左片麻痺患者においては視覚情報による麻痺側への空間認識は促されやすくなることが言える。つまり,左片麻痺患者は空間認識能力の乏しさから体性感覚が優位に働いており,与えられている視覚情報を有効に活用できていない。我々の治療場面において麻痺側への空間認識を促すために,積極的に様々な視覚情報を与えることでその能力を発揮させることができるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
より安定した立位保持能力を獲得するためには,固定された指標を与えることよりも,動く指標を与えることがより有効であろうと考えられる。今後さらに研究を進めていき,立位・歩行場面の早期回復に至る治療の確立に努めていきたい。