[1622] 急性期脳卒中患者が歩行自立するために重要な因子の検討
Keywords:脳卒中, 歩行, 予測因子
【はじめに,目的】
脳卒中発症後早期からリハビリテーション(以下リハ)を行うことで,在院日数の短縮,自宅退院率の増加などに繋がることがわかっている。そのため,急性期病院においてリハ開始早期から退院転帰を予測し,リハプログラムを立案・実施していくことが必要である。自宅退院が可能な患者の特徴の一つとして移動能力が高いことが挙げられている。脳卒中患者の歩行能力を予測する因子は,年齢,片麻痺の程度,非麻痺側筋力,体幹機能,基本的動作能力,認知機能など様々であり,それらがどのように影響するか一致した見解は得られていない。またこれらは回復期病棟での報告や,急性期においても発症から数週間経過した時点での検討が多くみられる。そこで本研究では,理学療法開始1週間後の意識障害の程度や運動機能,認知機能など,どのような因子が回復期病棟退院時の歩行自立に関与しているのかを後方視的に検討を行った。
【方法】
平成21年5月1日から平成24年8月31日までに脳卒中を発症し当院回復期病棟へ入院した181名のうち,SAH,小脳,延髄,多発性および両側性病変,病前mRS3以上,評価日までに歩行自立に至った症例,評価不可の症例を除いた80名(平均年齢67.7±11.9歳,男性50名)を対象とした。さらに歩行自立をFIM6点以上と定義し,回復期病棟退院時に歩行自立に至った症例をA群,至らなかった症例をB群とした。調査項目は,年齢,性別,理学療法開始1週間後の意識障害の有無・SIAS-Motor合計点・SIAS-Trunk合計点・SIAS-非麻痺側膝伸展得点・FIM認知項目合計点とした。統計解析には,まずShapiro-Wilk検定を用い両群の正規性を確認した後,2群間比較としてMann-Whitneyの検定,χ2検定を行った。次に従属変数を回復期病棟退院時の歩行自立の可否とし,独立変数として2群間比較において有意差がある項目を投入し,変数増加法の二項ロジスティック回帰分析を行った。なお有意水準は5%未満とし,統計解析はPASW Statistics 18.0(SPSS社製)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会での承認を得ており,特に個人情報の取り扱いには十分に注意し実施した。
【結果】
回復期病棟退院時に歩行自立に至ったA群は51名(63.8%),至らなかったB群は29名(36.2%)であった。平均年齢はA群65.8±13.1歳,B群71.1±8.9歳,性別はA群男性34名(66.7%),B群男性16名(55.2%),意識障害の有無はA群で無し45名(88.2%),B群で無し10名(34.5%),SIAS-Motor合計点はA群7.3±5.0点,B群3.5±4.6点,SIAS-Trunk合計点はA群3.8±1.2点,B群2.0±1.6点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点はA群2.5±0.8点,B群1.8±1.0点,FIM認知項目合計点はA群24.8±9.6点,B群14.7±9.0点であった。統計解析の結果,2群間の比較では意識障害の有無,SIAS-Motor合計点,SIAS-Trunk合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点に有意差がみられた。多変量解析では,意識障害の有無,SIAS-Trunk合計点が選択され,オッズ比はそれぞれ0.184(95%信頼区間0.047から0.717),1.712(95%信頼区間1.086から2.701)であった。このモデルは適合しており,判別的中率は80.0%であった。
【考察】
本研究の結果,意識障害の有無とSIAS-Trunk合計点が選択され,理学療法開始1週間後に意識障害が無い場合,SIAS-Trunk合計点が高い程,退院時に歩行自立となる可能性が高いことが示された。意識障害がある場合では,重症度が高く積極的に介入できなかったことや,学習能力低下により機能改善に時間を要したことなどが考えられ,意識障害がある場合は退院時の歩行自立度が低いといった報告を支持する結果となった。SIAS-Trunk合計点が選択され,バランス能力や歩行能力に体幹機能が大きく影響するという報告や,発症後早期の座位保持能力がその後の歩行能力に影響するとう報告を支持する結果となった。一方で他の運動機能や認知機能を示すSIAS-Motor合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点は選択されなかった。このことから,脳卒中患者がその後歩行自立するためには,特に体幹機能が早期から保たれていることが重要であると考えられる。本研究では,症例ごとに在院日数が異なるため評価時期を統一し検討することや,意識障害がある症例を除いて検討することなどが今後の課題である。またSIASやFIMを合計点ではなく各項目別に検討することで,より具体的な因子を挙げることも重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
リハ開始早期から退院時の歩行自立可否を判断する上での一助となり,適切なリハプログラムを立案・実施していくことに繋がると考える。
脳卒中発症後早期からリハビリテーション(以下リハ)を行うことで,在院日数の短縮,自宅退院率の増加などに繋がることがわかっている。そのため,急性期病院においてリハ開始早期から退院転帰を予測し,リハプログラムを立案・実施していくことが必要である。自宅退院が可能な患者の特徴の一つとして移動能力が高いことが挙げられている。脳卒中患者の歩行能力を予測する因子は,年齢,片麻痺の程度,非麻痺側筋力,体幹機能,基本的動作能力,認知機能など様々であり,それらがどのように影響するか一致した見解は得られていない。またこれらは回復期病棟での報告や,急性期においても発症から数週間経過した時点での検討が多くみられる。そこで本研究では,理学療法開始1週間後の意識障害の程度や運動機能,認知機能など,どのような因子が回復期病棟退院時の歩行自立に関与しているのかを後方視的に検討を行った。
【方法】
平成21年5月1日から平成24年8月31日までに脳卒中を発症し当院回復期病棟へ入院した181名のうち,SAH,小脳,延髄,多発性および両側性病変,病前mRS3以上,評価日までに歩行自立に至った症例,評価不可の症例を除いた80名(平均年齢67.7±11.9歳,男性50名)を対象とした。さらに歩行自立をFIM6点以上と定義し,回復期病棟退院時に歩行自立に至った症例をA群,至らなかった症例をB群とした。調査項目は,年齢,性別,理学療法開始1週間後の意識障害の有無・SIAS-Motor合計点・SIAS-Trunk合計点・SIAS-非麻痺側膝伸展得点・FIM認知項目合計点とした。統計解析には,まずShapiro-Wilk検定を用い両群の正規性を確認した後,2群間比較としてMann-Whitneyの検定,χ2検定を行った。次に従属変数を回復期病棟退院時の歩行自立の可否とし,独立変数として2群間比較において有意差がある項目を投入し,変数増加法の二項ロジスティック回帰分析を行った。なお有意水準は5%未満とし,統計解析はPASW Statistics 18.0(SPSS社製)を用いて行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会での承認を得ており,特に個人情報の取り扱いには十分に注意し実施した。
【結果】
回復期病棟退院時に歩行自立に至ったA群は51名(63.8%),至らなかったB群は29名(36.2%)であった。平均年齢はA群65.8±13.1歳,B群71.1±8.9歳,性別はA群男性34名(66.7%),B群男性16名(55.2%),意識障害の有無はA群で無し45名(88.2%),B群で無し10名(34.5%),SIAS-Motor合計点はA群7.3±5.0点,B群3.5±4.6点,SIAS-Trunk合計点はA群3.8±1.2点,B群2.0±1.6点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点はA群2.5±0.8点,B群1.8±1.0点,FIM認知項目合計点はA群24.8±9.6点,B群14.7±9.0点であった。統計解析の結果,2群間の比較では意識障害の有無,SIAS-Motor合計点,SIAS-Trunk合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点に有意差がみられた。多変量解析では,意識障害の有無,SIAS-Trunk合計点が選択され,オッズ比はそれぞれ0.184(95%信頼区間0.047から0.717),1.712(95%信頼区間1.086から2.701)であった。このモデルは適合しており,判別的中率は80.0%であった。
【考察】
本研究の結果,意識障害の有無とSIAS-Trunk合計点が選択され,理学療法開始1週間後に意識障害が無い場合,SIAS-Trunk合計点が高い程,退院時に歩行自立となる可能性が高いことが示された。意識障害がある場合では,重症度が高く積極的に介入できなかったことや,学習能力低下により機能改善に時間を要したことなどが考えられ,意識障害がある場合は退院時の歩行自立度が低いといった報告を支持する結果となった。SIAS-Trunk合計点が選択され,バランス能力や歩行能力に体幹機能が大きく影響するという報告や,発症後早期の座位保持能力がその後の歩行能力に影響するとう報告を支持する結果となった。一方で他の運動機能や認知機能を示すSIAS-Motor合計点,SIAS-非麻痺側膝伸展得点,FIM認知項目合計点は選択されなかった。このことから,脳卒中患者がその後歩行自立するためには,特に体幹機能が早期から保たれていることが重要であると考えられる。本研究では,症例ごとに在院日数が異なるため評価時期を統一し検討することや,意識障害がある症例を除いて検討することなどが今後の課題である。またSIASやFIMを合計点ではなく各項目別に検討することで,より具体的な因子を挙げることも重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
リハ開始早期から退院時の歩行自立可否を判断する上での一助となり,適切なリハプログラムを立案・実施していくことに繋がると考える。