[1623] 脳損傷後片麻痺歩行における歩行周期別力学的エネルギー変換率と運動機能との関連性
Keywords:片麻痺, 歩行, エネルギー
【はじめに,目的】
片麻痺患者が歩行を機能的に行うためには,エネルギー消費という視点も重要となる。重力環境下では歩行中の重心運動を力学的エネルギーで捉え,位置エネルギーと運動エネルギーの交換率として重力の利用率を評価することができ,重力を利用するほどエネルギー消費が少ない効率性の良い歩行と考えられている。本研究では片麻痺患者の運動機能と歩行時における力学的エネルギー交換率の関連性を検討し,運動機能障別に歩行各相での力学的エネルギー交換率を比較検証した。
【方法】
対象の抽出基準は初発脳血管疾患により,片麻痺症状を呈する者であり,著明な関節可動域制限があるもの,計測に影響を及ぼす高次脳機能障害を呈するものを除外規定とし,歩行が見守りから自立レベルである70名とした(年齢61±12.1歳,発症経過日数136±74.4日)。計測動作は歩行補助具を用いない裸足自由歩行とし,使用機器は三次元動作解析装置(VICON MX),床反力計(MSA-6)を使用して,反射マーカーは11点使用した。歩行周期の相分けは第一の両脚支持期である初期接地から荷重応答期(以下,荷重応答期),単脚支持期である立脚中期から立脚終期(以下,単脚支持期),第二の両脚支持期である前遊脚期(以下,前遊脚期),遊脚期(以下,遊脚期)の大きく4つの相に分類した。力学的エネルギー交換率(以下,%R)は,計測より得られた身体重心から位置エネルギー,運動エネルギー,力学的エネルギーを算出し,各エネルギーを時間で微分した変化量から正の値のみ時間で積分した仕事量を算出し後に(WP:位置エネルギー仕事量,WK:運動エネルギー仕事量,WT:力学的エネルギー仕事量),仕事量の数値をCavagnaらと同様に,{1- WT/(WP+WK)}×100の式中に代入して算出した。運動機能の分類にはFugel-Meyer Assessment(以下,FMA)の運動項目(100点満点)を用い,重度群(50点未満),中等度群(50点以上84点未満),軽度群(84点以上)とした。統計学的分析には運動機能と各相における%Rとの関連をSpeamanの順位相係数にて検討し,運動機能と関連性のある各相%Rを運動機能別にKuskal-wallis検定を行い,多重比較としてScheffe法を用い危険率5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査委員会による承諾に従って,インフォームドコンセントのとれた対象者のみ計測を行った。
【結果】
運動機能分類では重症群22名,中等度群25名,軽度群23名となった。麻痺側1歩行周期における%Rは重度群21.1±13.9,中等度群37.3±14.7,軽度群44.7±16.13となり全ての群間で有意な差を認めた。(p<0.01)。各相における%Rの平均値および標準偏差は荷重応答期25.1±19.9,単脚支持期67.3±26.5,前遊脚期27.7±19.6,遊脚期54.0±23.2であった。運動機能と各相における%Rの相関は,荷重応答期(r=0.37,p<0.01)と前遊脚期(r=0.41,p<0.01)のみ正の相関を認め,単脚支持期と遊脚期では相関がえられなかった。荷重応答期での運動機能別%Rは重度群19.4±24.2,中等度群22.8±16.1,軽度群33.3±16.9,となり,重度群と軽度群で有意な差を認めた(p<0.01)。前遊脚期での運動機能別%Rは重度群15.9±12.6,中等度群31.5±18.4,軽度群33.2±21.1であり,全ての群間で有意な差を認めた。(p<0.01)。
【考察】
%Rは重心上昇と加速に必要な仕事量のうち,重力の利用によって供給される仕事量の割合を反映する指標である。片麻痺歩行では運動機能が低下することで歩行時の効率性が低下しており,特に荷重応答期と前遊脚期での効率性低下が認められた。単脚支持期のような運動エネルギーと位置エネルギーの変換そのものが少ない相ではエネルギー交換率で評価することが適していないことも考えられ,遊脚相に関しては非麻痺側身体の関与が強く,麻痺側身体機能が与える影響が弱ったとことも考えられる。運動機能別に荷重応答期と前遊脚期において比較検討しか結果,重度群は荷重応答期・前遊脚期共に中等度群・軽度群よりも低下していた。特に荷重応答期における低下が強く,重症例であるほど効率性の改善が困難となりやすいと考えられる。前遊脚期では身体機能が高いほど効率性が向上していき,中等度群はより軽度群に近い効率性を示した。中等度症例における歩行時のエネルギー効率において着目すべき相は前遊脚期であると考えられる。
【理学療法研究の意義】
片麻痺歩行における力学的エネルギー効率は身体機能の影響を受け,特にか荷重応答期と前遊脚期で低下しやすいことが示唆された。
片麻痺患者が歩行を機能的に行うためには,エネルギー消費という視点も重要となる。重力環境下では歩行中の重心運動を力学的エネルギーで捉え,位置エネルギーと運動エネルギーの交換率として重力の利用率を評価することができ,重力を利用するほどエネルギー消費が少ない効率性の良い歩行と考えられている。本研究では片麻痺患者の運動機能と歩行時における力学的エネルギー交換率の関連性を検討し,運動機能障別に歩行各相での力学的エネルギー交換率を比較検証した。
【方法】
対象の抽出基準は初発脳血管疾患により,片麻痺症状を呈する者であり,著明な関節可動域制限があるもの,計測に影響を及ぼす高次脳機能障害を呈するものを除外規定とし,歩行が見守りから自立レベルである70名とした(年齢61±12.1歳,発症経過日数136±74.4日)。計測動作は歩行補助具を用いない裸足自由歩行とし,使用機器は三次元動作解析装置(VICON MX),床反力計(MSA-6)を使用して,反射マーカーは11点使用した。歩行周期の相分けは第一の両脚支持期である初期接地から荷重応答期(以下,荷重応答期),単脚支持期である立脚中期から立脚終期(以下,単脚支持期),第二の両脚支持期である前遊脚期(以下,前遊脚期),遊脚期(以下,遊脚期)の大きく4つの相に分類した。力学的エネルギー交換率(以下,%R)は,計測より得られた身体重心から位置エネルギー,運動エネルギー,力学的エネルギーを算出し,各エネルギーを時間で微分した変化量から正の値のみ時間で積分した仕事量を算出し後に(WP:位置エネルギー仕事量,WK:運動エネルギー仕事量,WT:力学的エネルギー仕事量),仕事量の数値をCavagnaらと同様に,{1- WT/(WP+WK)}×100の式中に代入して算出した。運動機能の分類にはFugel-Meyer Assessment(以下,FMA)の運動項目(100点満点)を用い,重度群(50点未満),中等度群(50点以上84点未満),軽度群(84点以上)とした。統計学的分析には運動機能と各相における%Rとの関連をSpeamanの順位相係数にて検討し,運動機能と関連性のある各相%Rを運動機能別にKuskal-wallis検定を行い,多重比較としてScheffe法を用い危険率5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査委員会による承諾に従って,インフォームドコンセントのとれた対象者のみ計測を行った。
【結果】
運動機能分類では重症群22名,中等度群25名,軽度群23名となった。麻痺側1歩行周期における%Rは重度群21.1±13.9,中等度群37.3±14.7,軽度群44.7±16.13となり全ての群間で有意な差を認めた。(p<0.01)。各相における%Rの平均値および標準偏差は荷重応答期25.1±19.9,単脚支持期67.3±26.5,前遊脚期27.7±19.6,遊脚期54.0±23.2であった。運動機能と各相における%Rの相関は,荷重応答期(r=0.37,p<0.01)と前遊脚期(r=0.41,p<0.01)のみ正の相関を認め,単脚支持期と遊脚期では相関がえられなかった。荷重応答期での運動機能別%Rは重度群19.4±24.2,中等度群22.8±16.1,軽度群33.3±16.9,となり,重度群と軽度群で有意な差を認めた(p<0.01)。前遊脚期での運動機能別%Rは重度群15.9±12.6,中等度群31.5±18.4,軽度群33.2±21.1であり,全ての群間で有意な差を認めた。(p<0.01)。
【考察】
%Rは重心上昇と加速に必要な仕事量のうち,重力の利用によって供給される仕事量の割合を反映する指標である。片麻痺歩行では運動機能が低下することで歩行時の効率性が低下しており,特に荷重応答期と前遊脚期での効率性低下が認められた。単脚支持期のような運動エネルギーと位置エネルギーの変換そのものが少ない相ではエネルギー交換率で評価することが適していないことも考えられ,遊脚相に関しては非麻痺側身体の関与が強く,麻痺側身体機能が与える影響が弱ったとことも考えられる。運動機能別に荷重応答期と前遊脚期において比較検討しか結果,重度群は荷重応答期・前遊脚期共に中等度群・軽度群よりも低下していた。特に荷重応答期における低下が強く,重症例であるほど効率性の改善が困難となりやすいと考えられる。前遊脚期では身体機能が高いほど効率性が向上していき,中等度群はより軽度群に近い効率性を示した。中等度症例における歩行時のエネルギー効率において着目すべき相は前遊脚期であると考えられる。
【理学療法研究の意義】
片麻痺歩行における力学的エネルギー効率は身体機能の影響を受け,特にか荷重応答期と前遊脚期で低下しやすいことが示唆された。