第49回日本理学療法学術大会

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大会企画 » 理学療法士の生活を支える ―仕事を続けていくための問題について考えよう―

第Ⅱ部:ライフスタイルの変化と就業継続に関する問題―様々な立場からの問題提起―

Sat. May 31, 2014 2:40 PM - 4:10 PM 第9会場 (4F 413)

司会:大槻かおる(大和市立病院), 大島奈緒美(ふれあい平塚ホスピタルリハビリテーション科)

ライフサポートセミナー

[2020] 仕事と子育について

井澤和大 (聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部)

近年,我が国における男性の育児休暇の取得率は,1~2%台と低迷が続いている。また,2012年度においては,育児休暇の取得率は,前年度を0.74ポイント下回っている。一方,他国の例をみると,たとえば男女平等の先進地とされるスウェーデンでは,男性の約8割が育児休暇を取得するという。この背景には,育児休暇に関する国の様々な保証制度の差異が予測される。たとえば,我が国においては,育児休業給付については,休業前の賃金の50%を払うことになっているのに対し,スウェーデンでは,80%程度が補償されている。
我が国の今後の方向性として,育児休業給付については,育休取得から半年間は給付率を67%(休業前賃金の3分の2相当)に引き上げる案が検討されており,収入減を理由に育休取得を控える男性に考えを改めてもらう狙いがあるとのことである。しかし,男性の取得率(2012年度1.89%)を2020年までに13%へ向上させるという政府の目標の達成につながるかについては,復職後の配置,昇進,経済面等,多くの要因が含まれる可能性があることから疑問も残る。
筆者の施設では,女性のみならず男性の育児休暇取得に対しては,事務局側は,前向きで,むしろ推奨している施設であった。筆者の場合には,育児休暇申請から取得に至るまで,様々な事情があり,かなり躊躇した。しかし,最終的には,休暇の申し出に対して,上司や職場の理解が得られ,取得にいたった経緯がある。
第一に,当然のことではあるが,その間,スタッフが一人欠けることに対して,残されたスタッフ一人あたりの業務負担の増加および施設の収入が減少する。その点に関しては,筆者は,上司より,体制を再度整えることで,対応可能であり,心配するなとの心強い言葉を頂いた。とはいえ,職場のことが気になり,常に脳裏をよぎる,日々であった。第二に,「収入源の減少による経済的な不安」,「社会から孤立するという何ともいいがたい不安」があったことも否定できない。筆者は,上司や同僚たちとのメールでのやりとり(迷惑であったかもしれないが),これまで忙しいからと自分自身に言い訳をして滞っていた執筆活動(主に論文執筆)や社会活動(国内外からの論文査読)などをさせていただいた。第三に,臨床から離れている間の在宅での主な生活は,筆者自身の体力の減少や体重の増加等も気になる所があった。そのため,低い強度でのレジスタンストレーニングおよび身体活動計を装着した,ウォーキング(第2子を抱っこした状態にて)を日課とした。さらに,週のスケジュールをまとめ,行動記録を行い,それを振り返るように務めた。今思えば,そのような活動をすることで,自分自身の不安感を少しでも軽減させていたのかもしれない。
無論,筆者の生活は,育児を中心とした生活である。筆者は,休暇開始当初は,1子目の時には,経験できなかった育児休暇を取得できるという思いから,楽しいことばかりを想像していた。しかし,現実は,子供は,昼夜問わず,寝たり,起きたり,泣きわめいたり,また,ミルクをのまなかったりと,不安でつぶされそうな思いになることも多々あった。
起床から就寝まで,第1子の保育園への送り迎えを含め,家事の手伝い(配偶者へのサポートという形で)を行っていた。しかし,子供を中心とした生活パターンには,日々変動がある。そのため,予定どおりに事が運ぶはずもなく,実際には,悪戦苦闘しながら,臨機応変に対応していく方法しかなかった。しかし,夫婦で,悩み,相談し,解決していくことで,共に子育てをしているという感覚が,新鮮な気もしておもしろいように感じることが出来ているのではないかと思う。
復職後においても,上司や職場の理解と多大な協力を得ていることから,「育児短時間勤務」は取得せず,規定時間内で,自分自身が行える,最大限の活動をするよう努めている。
仕事を終え,帰宅した後は,玄関に入ると同時に,気持ちを切り替え,育児と家事を極力行ように心がけている。帰宅後は,限られた時間の中で,いかに時間を作り(実際には子供達が就寝した後から活動することが多いが),調整し,自宅でできる仕事をこなしていくかがポイントとなった。
今振り返ると,あっという間の育児休暇であった。我が人生の中で大変貴重な経験をさせていただいた。子供は遅かれ早かれ,やがて親元を離れていく。今回の経験にて,自分自身の幼少時代を振り返りつつ,育ててくれた,親のありがたさが身にしみる思いでもあった。これも,家族,上司や職場の多くの方々の理解があってこそ得られた心の財産である。
これからも,仕事と家庭の両立(各個人の考え方は様々であると思われるが)というテーマは,筆者にとって永遠の課題だと思う。
これまでも日々多忙な中で,仕事と家庭の両立をなされてきた諸先輩方にとって筆者の経験談は,かなり「甘っちょろい」ものかもしれない。今回の筆者の経験談が,よくも悪くも次世代を担う理学療法士の皆様方のお役に少しでも立てれば幸いである。

【文献】
1)http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2013/25pdfgaiyoh/pdf/s1.pdf(2013年12月3日参照)
2)http://mainichi.jp/select/news/20131030k0000m010067000c.html(2013年12月3日参照)
3)http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2005/01/pdf/056-062.pdf(2013年12月3日参照)