第49回日本理学療法学術大会

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大会企画 » 理学療法士の生活を支える ―仕事を続けていくための問題について考えよう―

第Ⅱ部:ライフスタイルの変化と就業継続に関する問題―様々な立場からの問題提起―

Sat. May 31, 2014 2:40 PM - 4:10 PM 第9会場 (4F 413)

司会:大槻かおる(大和市立病院), 大島奈緒美(ふれあい平塚ホスピタルリハビリテーション科)

ライフサポートセミナー

[2021] 介護を経験した立場から

酒井勇紀 (小林病院リハビリテーション科)

突然ですが,皆様はご自身が介護をする時のことを考えたことはありますか?
いつ?誰を?どのように?患者様とはいつも相対し,身近にあるはずの現実も,どこか自分にはまだ関係のないことと考えていたりしませんか?私自身も何となく遠い将来のことのように考えていました。しかし,その時は本当に突然やってきました。
「妻の祖母を介護することになったのです。」
私たちの仕事は日々,患者様を自宅退院へと送り出している立場ですが,その立場が逆転し,自分自身の家族が送り出される側に立ったら急に頼りない気持ちになってしまいました。PTとして本当の意味で患者目線となれたことは良い経験であり,その経験を多くの方と共有したいと思い一昨年の神奈川県理学療法士学会で症例報告させていただきました。その症例報告では祖母のADLは著しく向上したが,透析通院やデイサービスの送り迎え時間などで家族は時間的拘束を強いられ苦労したというものでした。
今回,一昨年の症例報告を聞いて頂いた神奈川県理学療法士会会員ライフサポート部の先生方より,「ライフスタイルの変化によって,それぞれが抱える問題について知って頂き,周りへの配慮や,自分の問題として考えるきっかけになるような話をして欲しい」と依頼を頂きました。今大会テーマ『あなたの生活を支えます―理学療法士10万人からの提言―』,あなたの生活を支えるためにも,安定した就労継続にも,まず自分の生活の安定が必要ではないでしょうか。そこで私からは祖母を介護するに至った家族の経緯や実際の介護中の状況をお話することで,誰しもがいつかは経験されるであろう祖父母や両親の介護,そしてそれと並行した就労について具体的に考えるきっかけになればと思いお話しさせて頂きます。

1.家族背景・全体像
妻の祖母を退院から亡くなるまで4ヶ月間自宅介護しました。私は当時,管理職に就いたばかりのPT8年目,31歳男性。妻は3歳の娘と2歳の息子を子育て中の専業主婦。我が家は小田原在住の核家族。妻の両親は横浜在住,共働きのため介護は困難。私の両親は名古屋在住。
妻の祖母は,83歳女性。H22人工透析導入。H23.10にA病院にて胆嚢がん摘出後寝たきり状態。H24.2~H24.4にB病院療養中,昼夜逆転,不穏あり入院継続困難となる。

2.介護を引き受けた理由
①妻を助けてあげたい,②いつか自分の両親を介護する時,妻に助けてもらいたいという思い,③PTとしての責任感

3.良かったこと・大変だったこと
当日,生々しくお伝えします!

4.就労への影響
今回,企画者の会員ライフサポート部の先生方,シンポジストの先生方と事前打ち合わせをする中で分かったことがありました。それは介護,出産,子育てなどイベントは違えど,就労と家庭生活の両立には共通して,「職場の支援」はもちろん,「家族の支援」特に,夫であり父親である男性の家庭生活への協力・理解が重要だということです。裏を返すと男性の協力が得られにくいのです。それを踏まえて当時を振り返ると,私は新任管理者として仕事に燃え,積極的に休みをとろうとはせず,私自身には就労継続に関する問題がさほどありませんでした。もちろん,休みの日や夜間の対応は頑張っていましたが。妻も私に仕事を休んで欲しいとは思っていなかったそうです。一方で妻の負担は大きく,子育てとの両立,周囲のママ友達とのギャップ,親への不満,親との喧嘩という問題を抱えていました。また妻の母親も妻を見かねて,仕事を退職し横浜の実家で祖母を介護しようと計画していた矢先に祖母が亡くなりました。その家族の一連の行動や心理の裏には,やはり家庭は女性が守るものというような日本人的気質が影響していたのではないかと思います。それ以外にも私自身には,新任管理者としての責任,一家の大黒柱として収入を得なければならないという責任,妻の祖母だからという甘え,祖母も娘と暮らしたそうだなど,さまざまな思いが交錯していました。結果的には,「死にたい」と言っていた祖母が最後には「生きたい」と言うようになり,ADLも向上した現状に家族全員が納得していました。専業主婦の妻の頑張りに支えられ,私の就労は安定させられたのです。
年を重ね社会的責任が重くなるにつれて,この介護という問題に直面する可能性は高まります。管理者の場合,自分がいなくても困らない後継の育成も必要だと思われます。また管理者でも,新人でも,また,男女問わず誰にでもあり得ます。制度で保障された範囲の内では皆が平等である必要がありますし,就労継続困難の職員が出れば職場の危機ともなります。私もあの時もう少し休みをとっていれば,妻の負担を減らしてあげられたのではないかという反省しています。その経験を活かし,職場において育児中や,看病中の職員への支援として,「休みの取り方や業務分担について目先の平等だけでなく,生涯,長い目で見た平等という考え方も必要ではない」か,また「大切な家族との時間は取り戻すことが出来ない」という話し合いを持ちました。程度は難しいですが,職員の家族に対し就労を支援してもらうような働きかけも必要かもしれません。私自身も次は両親の介護が待ち受けており,その時にはおそらく夫婦共働きであり,妻に頼るばかりではいられません。その時に備えるためにも,同僚が私のような反省をしなくてすむためにも,患者・家族に寄り添った提案が出来るようになるためにも,職場,家庭において,就労と家庭生活を両立するための話し合い早い段階定期的にしていこうと思います。ただ両立にも必ず限界はあり,無理は禁物です。本シンポジウムが皆様にとってお役に立てば幸いです。