第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

専門領域研究部会 基礎理学療法 » 基礎理学療法 若手研究者(U39)による最先端研究紹介

若手研究者(U39)による最先端研究紹介

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 2:40 PM 第7会場 (3F 315)

司会:大西秀明(新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所), 前島洋(帝京科学大学東京理学療法学科)

専門領域 基礎

[2034] 幹細胞移植後の理学療法効果―脳損傷に対する再生医療―

猪村剛史 (広島大学大学院医歯薬保健学研究科生体環境適応科学研究室/医療法人光臨会荒木脳神経外科病院リハビリテーション部)

近年,治療が困難な疾患に対する新たな治療法として人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞)や胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)等の万能細胞を用いた再生医療が期待されている。我が国においても,国会での再生医療推進法成立により実用化に向け加速している。理学療法の主要な対象疾患である脳卒中患者においても,骨髄由来細胞を使用した自己幹細胞移植で運動機能回復が促進される治験例が報告されている。細胞移植により一定の効果があることが示されているが,その回復が十分でないケースも報告されている。細胞移植の効果を最大限に引き出すためには移植細胞とホスト細胞の機能的なネットワーク形成が不可欠であると考える。そこで,われわれは細胞移植後に運動介入を行うことで細胞移植後の理学療法の有用性について検討した。
脳損傷モデルマウスを作製し,損傷7日後に細胞移植を行った。移植細胞には,マウスES細胞由来神経幹/前駆細胞を用いた。細胞移植後の運動として,移植翌日よりトレッドミルを使用し運動介入をすることで移植後の運動効果を検討した。
運動機能評価では,損傷後に運動のみを行った群や神経幹/前駆細胞の移植のみを行った群において運動機能の改善を認めた。さらに,細胞移植後に運動を併用した群で最も運動機能が改善した。また,運動誘発電位(motor-evoked potential:MEP)を用いて検討すると,細胞移植後に運動を行うことで電気生理学的にも改善を認めた。脳内における移植細胞の動態を評価したところ,損傷部位において移植した神経幹/前駆細胞がニューロンやアストロサイトに分化していることが確認された。さらに,移植後に運動を行った群では,移植のみの群と比較して移植細胞のニューロンへの分化が促進されていた。機能回復の要因を検討するため,運動機能回復過程における脳損傷領域での遺伝子発現変化を解析した。その結果,細胞移植後に運動を行った群において,神経再生に関与するタンパク質として報告されている脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:BDNF)や成長関連タンパク質(growth associated protein-43:GAP43)mRNAの発現が強かった。
本研究により,脳損傷に対する細胞移植後の運動介入の有用性が示された。再生医療の臨床応用が期待される中で,脳損傷に対する細胞移植後の運動介入効果が示されたことは,神経再生医療分野における理学療法の必要性を強く示唆するものと考える。本シンポジウムでは,次世代医療として期待される再生医療分野における理学療法の可能性について示したい。