[2048] 足関節捻挫に対する画像検査の活用
足関節捻挫はスポーツ現場においてよく経験する疾患であり,全スポーツ外傷の13.9~17%を占めると報告されている(Hertel J, et al 2000)。軽症例も含まれるためか,骨折がなければ大丈夫などと過信してしまい,安易にスポーツ復帰をしている例が少なくない。しかし,ちまたでは「一度捻挫をするとくせになる」といわれるとおり,再発率は56~74%と非常に高い(Yeung MS, et al 1994)。さらに,捻挫後に72.6%の症例は慢性的な不安定性を残すという報告もなされており(Braun BL, et al 1999),骨軟骨損傷や変形性足関節症,インピンジメント症候群へと移行する可能性もある。臨床においても,十回以上も捻挫を繰り返し,プレーが困難になってから来院する症例を経験することがある。このため,外傷の直後はもちろんのこと,受傷から長期経過している足関節捻挫の既往を有する選手に対しても,損傷の程度を画像検査を用いて客観的に評価し,患部の状態と必要な治療,トレーニング,及びリスクをしっかり説明することが大切と考える。
現在用いられている画像検査にはレントゲン検査,CT検査,超音波検査およびMRI検査などがある。これらの検査にはそれぞれメリットとデメリットが存在する。レントゲンやCT検査は,骨折部の描出に優れている。多くの研究がなされており,レントゲンでは内反ストレスを加えたときや前方引き出しストレスを加えた際のアライメントの異常が判断できるというメリットがある。しかし,デメリットとして放射線による被曝があるため,検査を避ける患者もいる。一方,超音波検査は被曝の心配がなく,持ち運びが可能な機器もあるため,スポーツ現場でも使用できるというメリットがある。その一方で検者の習熟度合いによって影響を受けることや,測定方法の再現性が低いことがデメリットとしてあげられる。最後にMRI検査では,深部に存在する靭帯や筋肉など軟部組織の損傷まで評価できることや,骨挫傷のようにレントゲンでは描出できない骨髄内の損傷まで評価できることが一番のメリットである。MRI検査では被曝の心配はない。デメリットとしては,検査機器が高価であることから,簡便な検査とはいえないことである。
これらの画像検査は,足関節の構成体を評価するために使用されるが,そのほかに感覚機能や筋機能を評価する方法がある。近年,足関節捻挫に対する不安定性として,靭帯損傷による関節構成体の異常可動性を構造的不安定性(Mechanical Instability:以下MI)とし,関節位置覚の低下や筋出力低下,姿勢制御機能の低下などによる不安定性を機能的不安定性(Functional Instability:以下FI)と分類することが提唱されている。この2つの不安定性は互いに相関しないという報告もあり(Hertel J, et al 1999),MIはFIに比べて軽視されがちであった。しかしながらFIはトレーニングの有無や加齢により変化するとしても,MIは生涯にわたり残存するものであり,慢性的な不安定性の原因として見過ごすことはできない。
このような背景から,足関節捻挫におけるMIを見直す目的で,演者は第38回足の外科学会において,慢性期の足関節捻挫後不安定症に対するMRI画像での前距腓靭帯の特徴を発表した。この研究では,慢性的に自覚的不安定感を有する症例の前距腓靭帯が,不安定感のない症例と比べて,有意に肥厚していることを提示した。また,この靭帯の肥厚はレントゲンを用いた内反ストレス撮影による距骨傾斜角とも相関していることを発表した。これらのことから,超音波画像で靭帯の連続性が確認されたとしても,靭帯が肥厚している場合は,その機能が低下していることが予想される。靭帯の肥厚といっても1mm程度の差なので,画像診断は超音波検査よりMRI検査を用いることでより精度が高まる。
第14回アジア理学療法学会では,足関節捻挫後のMIに対して,体表から測定できる理学検査とレントゲンを用いた内反ストレス撮影との関係について発表した。この研究では,体表から計測できる次の3つの項目を評価することで,距骨傾斜角を予測できる可能性が示唆された。1.症例の足部を徒手にて最大に内反させた姿位での下腿中央線と踵骨の成す角(leg heel angle)2.同様の姿位にて内果から第5中足骨底までの直線距離をテープメジャーで測定3.下腿の外旋可動域をゴニオメーターで計測。
第19回千葉県理学療法士学会においては,MIとFIのどちらが,慢性的な足関節不安定性を的確に反映しているのか,という研究を発表する。この研究では自覚的不安定性評価(Karlsson J, et al 1991)をもとに,対象を安定群と不安定群に分類し,距骨傾斜角や複数のフィールドテストをロジスティック回帰分析にて検討したところ,MIである距骨傾斜角のみが意味のある変数であった。この結果から,画像検査によるMIの評価を前提に,FIの評価を組み合わせていくことが重要と考えている。
今回のシンポジウムを通して,様々な評価に関係する基礎的な研究を充実させ,画像検査技術をスポーツ理学療法に活かしていきたい。これらは,有用なものであることはもちろんであるが,妥当性や信頼性を備えた検査・測定内容であることが条件と考える。そして多くの理学療法士が,画像検査に基づいた客観的な患部評価を実施する足がかりとなり,臨床における足関節捻挫治療に貢献できれば幸いである。
現在用いられている画像検査にはレントゲン検査,CT検査,超音波検査およびMRI検査などがある。これらの検査にはそれぞれメリットとデメリットが存在する。レントゲンやCT検査は,骨折部の描出に優れている。多くの研究がなされており,レントゲンでは内反ストレスを加えたときや前方引き出しストレスを加えた際のアライメントの異常が判断できるというメリットがある。しかし,デメリットとして放射線による被曝があるため,検査を避ける患者もいる。一方,超音波検査は被曝の心配がなく,持ち運びが可能な機器もあるため,スポーツ現場でも使用できるというメリットがある。その一方で検者の習熟度合いによって影響を受けることや,測定方法の再現性が低いことがデメリットとしてあげられる。最後にMRI検査では,深部に存在する靭帯や筋肉など軟部組織の損傷まで評価できることや,骨挫傷のようにレントゲンでは描出できない骨髄内の損傷まで評価できることが一番のメリットである。MRI検査では被曝の心配はない。デメリットとしては,検査機器が高価であることから,簡便な検査とはいえないことである。
これらの画像検査は,足関節の構成体を評価するために使用されるが,そのほかに感覚機能や筋機能を評価する方法がある。近年,足関節捻挫に対する不安定性として,靭帯損傷による関節構成体の異常可動性を構造的不安定性(Mechanical Instability:以下MI)とし,関節位置覚の低下や筋出力低下,姿勢制御機能の低下などによる不安定性を機能的不安定性(Functional Instability:以下FI)と分類することが提唱されている。この2つの不安定性は互いに相関しないという報告もあり(Hertel J, et al 1999),MIはFIに比べて軽視されがちであった。しかしながらFIはトレーニングの有無や加齢により変化するとしても,MIは生涯にわたり残存するものであり,慢性的な不安定性の原因として見過ごすことはできない。
このような背景から,足関節捻挫におけるMIを見直す目的で,演者は第38回足の外科学会において,慢性期の足関節捻挫後不安定症に対するMRI画像での前距腓靭帯の特徴を発表した。この研究では,慢性的に自覚的不安定感を有する症例の前距腓靭帯が,不安定感のない症例と比べて,有意に肥厚していることを提示した。また,この靭帯の肥厚はレントゲンを用いた内反ストレス撮影による距骨傾斜角とも相関していることを発表した。これらのことから,超音波画像で靭帯の連続性が確認されたとしても,靭帯が肥厚している場合は,その機能が低下していることが予想される。靭帯の肥厚といっても1mm程度の差なので,画像診断は超音波検査よりMRI検査を用いることでより精度が高まる。
第14回アジア理学療法学会では,足関節捻挫後のMIに対して,体表から測定できる理学検査とレントゲンを用いた内反ストレス撮影との関係について発表した。この研究では,体表から計測できる次の3つの項目を評価することで,距骨傾斜角を予測できる可能性が示唆された。1.症例の足部を徒手にて最大に内反させた姿位での下腿中央線と踵骨の成す角(leg heel angle)2.同様の姿位にて内果から第5中足骨底までの直線距離をテープメジャーで測定3.下腿の外旋可動域をゴニオメーターで計測。
第19回千葉県理学療法士学会においては,MIとFIのどちらが,慢性的な足関節不安定性を的確に反映しているのか,という研究を発表する。この研究では自覚的不安定性評価(Karlsson J, et al 1991)をもとに,対象を安定群と不安定群に分類し,距骨傾斜角や複数のフィールドテストをロジスティック回帰分析にて検討したところ,MIである距骨傾斜角のみが意味のある変数であった。この結果から,画像検査によるMIの評価を前提に,FIの評価を組み合わせていくことが重要と考えている。
今回のシンポジウムを通して,様々な評価に関係する基礎的な研究を充実させ,画像検査技術をスポーツ理学療法に活かしていきたい。これらは,有用なものであることはもちろんであるが,妥当性や信頼性を備えた検査・測定内容であることが条件と考える。そして多くの理学療法士が,画像検査に基づいた客観的な患部評価を実施する足がかりとなり,臨床における足関節捻挫治療に貢献できれば幸いである。