第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 運動器理学療法 » スポーツ部門企画シンポジウム

スポーツ復帰に向けての客観的な理学療法評価

Sat. May 31, 2014 9:30 AM - 10:50 AM 第12会場 (5F 502)

司会:坂本雅昭(群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学領域応用リハビリテーション学分野), 浦辺幸夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門保健学分野スポーツリハビリテーション学研究室)

専門領域 運動器

[2049] 膝関節疾患に対する動作解析の活用

永野康治1, 井田博史2, 石井秀幸3, 福林徹4 (1.新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科, 2.上武大学ビジネス情報学部スポーツマネジメント学科, 3.立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科, 4.早稲田大学スポーツ科学学術院)

膝関節スポーツ外傷の代表例として,前十字靱帯(ACL)損傷があげられる。ACL損傷の主な受傷機転として着地や切り返しがあり,スポーツ復帰や予防的にACL損傷リスクを減少させるためにも,着地や切り返し動作の理解および評価が必要となる。そこで,本シンポジウムでは着地動作,切り返し動作の評価からACL損傷リスクや,復帰時や予防における臨床への応用について述べたい。
着地動作については,着地中の膝外反(いわゆるKnee-In姿勢)がACL損傷受傷時に観察される。また,大きな膝外反を有する選手においてACL損傷リスクが高いという報告があることから,ACL損傷からの復帰時や予防において改善すべき動作としてあげられる。動作解析の結果をみると,片脚着地動作は膝外反運動に加え,脛骨内旋運動も起こっており,解剖学的にみてもACL損傷リスクの高い動作であるといえる。特に女性において,脛骨内旋運動が大きい傾向であり,女性にACL損傷が好発する要因の1つとして考えられた。
着地動作は動作指導を含めたトレーニングの結果,動作の改善が認められており,スポーツ復帰時にも応用が可能である。トレーニング内容はプライオメトリックの要素を含んだジャンプトレーニングやアジリティートレーニング,バランストレーニングで,トレーニング中にKnee-In姿勢を回避する動作指導が行われるものが一般的である。また,簡易的に着地動作を評価する方法として前額面上の膝外反評価が用いられる。前額面上の膝外反は三次元上の膝外反角度とも回帰しており,膝外反モーメントの増加にも寄与することから,臨床的な評価上も有用であると考えられる。
切り返し動作については,着地動作同様,膝外反がACL損傷のリスクとしてあげられるが,脛骨内旋についても着地動作以上に大きい値を示し,注意が必要である。脛骨回旋の評価は二次元画像上からは困難であり,臨床的な評価を難しくしている。しかし,近年の研究結果により,体幹角度と膝関節運動の関係が明らかとなり,動作評価の指標として切り返し時の体幹姿勢評価の重要性が示されている。具体的には,体幹前傾角度と膝屈曲角度が正の相関,脛骨内旋変位量が負の相関を示した。また,体幹側方傾斜変位量と膝外反モーメントが正の相関を示した。体幹運動については,ACL受傷時にも体幹バランスを崩していることが多く,受傷機転とも密接に関連していると考えられる。
女性アスリートにおける切り返し動作の動作改善では,切り返し動作の性差を充分に理解することが重要である。男性アスリートに比較して女性アスリートでは,体幹前傾角度,膝屈曲角度が小さく,体幹側方傾斜角度が大きい傾向にある。また,女性は接地点に対して体幹を近い位置に置くことで,側方より鉛直方向に接地後の衝撃を受けている。特に体幹筋力の弱い女性は体幹へ作用する衝撃が大きい傾向にある。こうした体幹や股関節筋力の影響は,切り返し時の指示脚に大きな荷重がかかると顕著に表れ,体幹の側方傾斜や膝外反モーメントの増加につながる。女性に対しては動作指導のみでは膝関節におけるACL損傷リスクを減少することは難しく,体幹や股関節周囲筋の強化と動作指導を並行して行うことが必要であると考えられる。