第49回日本理学療法学術大会

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専門領域研究部会 内部障害理学療法 » 内部障害理学療法 シンポジウム

呼吸理学療法の実践的役割―急性期から在宅まで―

Sun. Jun 1, 2014 11:40 AM - 1:10 PM 第5会場 (3F 303)

座長:玉木彰(兵庫医療大学大学院医療科学研究科リハビリテーション科学領域), 小川智也(公立陶生病院中央リハビリテーション部)

専門領域 内部障害

[2059] 慢性期

辻村康彦 (小牧市民病院リハビリテーション科)

慢性期における呼吸理学療法の対象は,「症状のある慢性呼吸器疾患患者で標準的治療により状態が安定しており呼吸器疾患による症状と機能的制限がある者」と考えられている。臨床において我々が最も多く治療する機会を得るのはCOPD患者であり,呼吸理学療法の効果に関する調査研究も数多く報告され,エビデンスも確立している。また,近年では間質性肺炎患者の呼吸理学療法も積極的に実施されるようになり,その効果も明らかにされつつある。こうした慢性期患者への呼吸理学療法の中心となるのは,もちろん運動療法であるが,近年では酸素療法や非侵襲的人工呼吸療法,薬物療法,在宅療養指導,各種評価の実施など,そのフィールドを広げている。なかでも特に重要な役割は,運動療法の実施,在宅酸素療法導入指導,日常活動における薬物療法(吸入気管支拡張薬),各種評価の実施であると思われる。
運動療法に関しては,その方法や効果について今更詳細に解説する必要はないと思うが,呼吸困難の軽減,運動耐容能の改善,健康関連QOLおよびADLの改善などが高いエビデンスレベルとして紹介されている。また,このような効果の大きさは,薬物療法や酸素療法の単独療法によって得られるものより大きい。さらに近年では,運動療法を単独で実施するのではなく,酸素やNPPV,気管支拡張薬などとの組み合わせで,さらに効果を高めることができるとの報告が散見されるようになり,運動療法の実施方法も時代につれて変遷している。このような時代の変遷に伴い,理学療法士の役割も増えており,「呼吸の仕方を教えるだけ」,「運動させる人」では役割を果たせなくなってきた。むやみに「がんばれ」と言って励まし,運動療法を実施する理学療法士と,主治医と相談し,酸素や吸入薬を効果的に使用し,息切れをできるだけ改善しつつ運動療法を実施する理学療法士,患者はどちらを選ぶだろうか。
在宅酸素療法に関しては,酸素療法導入の必要性評価に始まり,労作時の酸素投与量の設定,投与デバイスの選択など多岐にわたる。一般に労作時酸素投与量の設定には6分間歩行テストを用いることが紹介されているが,実際には患者個々の活動能力や在宅での生活範囲に合わせた運動負荷が必要である。さらに,酸素投与への反応は患者によってまちまちであり,息切れが改善する者,SpO2が改善する者,その両方改善する者やなかなか改善しない者,低酸素血症になっても平気で動き続けたり,息切れが軽い者など多種多様である。我々は単純に酸素を導入するための教育ではなく,長期的に患者の身体状況を管理するという立場で,患者個々の特徴を把握することが必須である。ただマニュアルに沿って教育指導する理学療法士に,慢性期患者の長期管理は不可能である。
薬物療法というと理学療法士とは一見関係ないようにも思われるが,実は運動療法やADL・QOLを効率よく改善するためにはなくてはならないものである。2005年に登場したチオトロピウムは,その後のCOPD患者治療に大きな影響を与えたことは周知の事実である。また,呼吸理学療法においてもその併用によって相乗効果が得られることが報告されている。理学療法士は薬物療法に際し,その効果の有無を確認することや,吸入薬の効果の発現時間や持続時間を考慮し,日常生活における使用のタイミングを指導する役割を果たす。しかし,実際には確立された役割はなく,これから皆で議論していくことが必要であり,きっと呼吸理学療法実施に際し,強力な武器となるに違いないだろう。
評価に関しては,息切れや運動耐容能,ADLや健康関連QOLの評価が従来実施されてきたが,近年では在宅における身体活動量評価の重要性が注目されている。特にCOPDにおいては,運動に対する持久力よりも身体活動性が急性増悪の予測や生命予後に強い関連性を示すエビデンスが報告されている。今後は院内から在宅へと評価のフィールドも広がり,患者の生活状況により密着した呼吸理学療法が展開できるようになるだろう。
時代の変遷に伴い,呼吸理学療法が担う役割も増えておりその責任は重い。慢性期患者における呼吸理学療法成功の鍵がきめ細かい指導である限り,我々理学療法士はこれまで以上に幅広い知識と技術を求められるようになるだろう。
そこで今回,慢性期患者への呼吸理学療法の実際につき,当院の調査データを交えながら臨床の現状を紹介したい。今回の話が臨床の一助となっていただければ幸いである。