第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述4

予防理学療法1

2015年6月5日(金) 10:10 〜 11:10 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:吉田剛(高崎健康福祉大学 保健医療学部理学療法学科)

[O-0041] 中高年日本人女性において骨格筋量と骨密度は関連する―サルコペニアの構成要素別に見た骨密度への影響評価―

立木隆広1, 伊木雅之1, 玉置淳子2, 北川淳3, 高平尚伸3,4, 米島秀夫5, Group JPOS Study1 (1.近畿大学医学部公衆衛生学, 2.大阪医科大学医学部, 3.北里大学大学院医療系研究科, 4.北里大学医療衛生学部, 5.秀和綜合病院)

キーワード:骨格筋量, 筋機能, 骨密度

【はじめに,目的】
サルコペニアは,骨密度低下のリスク要因になることが示唆されているが,地域在住の中高年者において,サルコペニアの構成要素である骨格筋量と筋機能(筋力,身体能力)の何れがリスク要因となるかは明確な結論を得ていない。高齢者において,サルコペニアと骨密度の低下によって引き起こされる骨粗鬆症が併発した場合,サルコペニアによって易転倒性を引き起こし,骨粗鬆症による骨折リスクを増大させるため,サルコペニアの構成要素である骨格筋量および筋機能(筋力,身体能力)と骨密度の関連の解明は,超高齢社会である我が国において重要といえる。本研究の目的は,地域在住の50歳以上の女性を対象として,骨格筋量と筋機能(筋力,身体能力)が骨密度と関連するかを検討することである。
【方法】
対象は,Japanese Population-based Osteoporosis(JPOS)cohort Studyの15年次調査を受診した受診時50歳以上の女性680人(平均年齢65.0±9.9歳)とした。二重エネルギーX線吸収法(Hologic QDR4500A)を用いて大腿骨頸部(FN)および腰椎(L2-L4)(LS)の骨密度,並びに四肢骨格筋量および脂肪量を測定した。骨格筋量の指標として補正四肢筋量(ASMI,四肢骨格筋量/身長2)を算出し,筋機能の指標は,筋力の指標として握力,身体能力の指標として10m最大歩行速度(MWS)を測定した。結果指標をFNおよびLSの骨密度,説明指標をSMI,握力およびMWSとした。統計学的解析は,FNおよびLSの骨密度を従属変数,SMI,握力,MWS,年齢,身長,脂肪量および閉経の有無を独立変数として,はじめに説明指標をそれぞれ単独に重回帰分析で検討した。次に,説明指標のうち,FNおよびLSの骨密度と有意な関連を示したものを,同一のモデルに投入し,FNおよびLSの骨密度との関連を再検討した。有意水準はp<0.05とした。
【結果】
対象者の骨密度,ASMI,握力およびMWSの平均値±標準偏差は,FN骨密度0.65±0.11g/cm2,LS骨密度0.88±0.16g/cm2,ASMI 6.84±0.72kg/m2,握力21.8±4.7kg,MWS 1.9±0.4m/sであった。説明指標をそれぞれ単独に検討した結果,FNおよびLSの骨密度とASMIの間にそれぞれ有意な関連を示した(FN:β=0.22,p<0.01,LS:β=0.26,p<0.01)。また,FNおよびLSの骨密度と握力の間にそれぞれ有意な関連を示した(FN:β=0.14,p<0.01,LS:β=0.17,p<0.01)。しかし,FNおよびLSの骨密度とMWSの間には有意な関連は示さなかった。有意な関連を示したASMIと握力を同一のモデルに投入し,FNおよびLSの骨密度との関連を再検討した結果,FN骨密度とASMIの間に有意に関連を示したが(β=0.19,p<0.01),握力とは有意な関連は示さなかった。LS骨密度では,ASMI(β=0.23,p<0.01)および握力(β=0.09,p=0.03)の間に有意な関連を示した。
【考察】
骨格筋量の減少には筋線維の萎縮による筋断面積の減少と筋線維数の減少が関与しているが,筋線維の萎縮や筋線維数の減少は筋収縮の低下の原因ともなる。このことから,筋収縮の増減の要因として骨格筋量の増減が関連していると考えられる。一方,骨密度の増減に関連する要因の一つとして,骨が受けるメカニカルストレスの増減が挙げられるが,これは筋収縮の増減によるところが少なくない。以上のことから,骨密度の増減に与える要因の一つとして骨格筋量の増減が存在すると考えられる。本研究においてASMIと握力を同一モデルに投入し検討した結果,FN骨密度との間にはASMIのみが有意な関連を示し,LS骨密度との間にはASMIおよび握力が有意な関連を示したが,握力との関連は弱かった。この結果は,先に述べた骨密度の増減と骨格筋量の増減の関連を示唆する結果といえる。
【理学療法学研究としての意義】
我々理学療法士は,これまで中高年者の転倒予防や介護予防における筋に対する運動処方として,筋力の維持増加を主たる目的として行ってきた。しかし,本研究の結果は,筋力の維持増加のみならず骨格筋量の維持増加も重要であることを示唆している。サルコペニアと骨粗鬆症はともにロコモティブシンドロームの基礎疾患であり,超高齢社会における予防医学の中心課題となる。この喫緊の課題を解決するために,理学療法士は,両者に対する包括的な予防対策を立案することが求められるが,本研究の結果は,その際必要となるエビデンスとして寄与するものといえる。