第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述7

運動制御・運動学習1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:鈴木俊明(関西医療大学保健医療学部)

[O-0064] タイミングを予期できない外乱負荷に対する姿勢制御応答の適応と脳活動の変化(EEG study)

西田彩乃1, 岡田洋平3,4, 米元佑太2, 高原利和1, 湊哲至1, 木本真史1, 冷水誠3,4, 森岡周3,4 (1.医療法人社団生和会彩都リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.医療法人孟仁会東大阪山路病院リハビリテーション科, 3.畿央大学健康科学部理学療法学科, 4.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

Keywords:姿勢制御, 外乱, 脳活動

【はじめに,目的】日常生活場面において外乱は予測不可能な状況下で突発的に加わることが多く,タイミングが予期できない外乱に対する姿勢制御応答を改善することが理学療法において重要となる。健常若年者を対象に,外乱前に外乱の予告信号を与え試行を繰り返すと,外乱後の足圧中心(center of pressure:CoP)の偏位距離は減少し,脳波計測における随伴陰性変動(CNV)の最大振幅も大きくなる(Fujiwara,2012)。また,外乱が予期できない条件であっても,試行を繰り返すことで重心の偏位距離が減少する(Nanhoe-Mahabier,2012)ことが先行研究で示されているが,その際の脳活動の適応的変化については解明されていない。そこで本研究の目的は予告信号なしで外乱を加えた際の立位姿勢制御の適応と脳活動の変化を明らかにすることとした。
【方法】対象者は健常大学生7名(平均年齢21.1±0.4歳,平均身長165.5±6.8cm)である。可動プラットホーム(内田電子,日本)を使用し,プラットホーム前方移動させることにより後方外乱を加え,後方外乱負荷後のCoP最大後方偏位距離と外乱前2秒間の脳活動を測定し抽出した。対象者は耳栓を装着し,両踵中央間距離8cmの足幅で立位姿勢をとり,前方2mで被験者の目の高さに設けた視点を注視した。外乱の強度は先行研究(Jacobs,2008)と予備実験に基づき移動距離90mm,加速度210mm/s2とし,外乱を加えるタイミングは2~20秒の範囲で無作為とした。外乱を与える回数は1セットあたり20回を3セット計60回とした。CoP最大後方偏位距離は重心動揺計(Gravicorder,アニマ,日本)にて測定し,各セット20試行中最も後方に偏位した際の値を代表値とした。脳波計測には高機能デジタル脳波計(ActiveTwoシステム,BioSemi社,オランダ)を使用し,32chを国際10-20法に従い装着,Sampling周波数512Hzで記録した。外乱後CoP最大後方偏位距離のセット間の比較をフリードマン検定を用いて検討し,セット1とセット2,3におけるCoP最大後方偏位距離の比較をWilcoxon符号順位検定を用いて検討した。有意水準は5%とした。脳波データ解析にはEMSE Suiteプログラムを使用しセット毎に外乱前2秒の範囲で加算平均を行い,sLORETA(Standardized low resolution brain electromagnetic tomography)解析を用いて脳内神経活動の発生源同定を行った。セット1とセット2,3の脳活動の変化を2条件の比較を対応のあるt検定を用いてMRI画像にマッピングした。有意水準は5%とした。
【結果】重心動揺計によるCoP最大後方偏位距離は,セット1では17.3±10.6cm,セット2では12.3±3.9cm,セット3では11.7±3.6cmであり,セット1と比較しセット2,3では,後方外乱後のCoP最大後方偏移距離が有意に減少した(p<0.05)。一方,外乱前2秒~直前におけるsLORETA解析を実施したところ,セット1と比較し,セット2では補足運動野・前頭前野を,セット3では下頭頂小葉を発生源とする活動の増加が認められた。
【考察】外乱に対するCoP最大後方偏位距離は,セット2,3においてセット1と比較して有意に減少した。セット間においては外乱前のCoP位置に差を認めなかったことから,外乱前のCoP位置の影響はなく,予期できない外乱に対する姿勢反応の適応的変化が生じたと考えられる。セット間の外乱前の脳活動については,セット2はセット1と比較して外乱前の補足運動野,前頭前野の活動に上昇がみられた。補足運動野は運動の準備期に働き(Sahyoun, 2004),前頭前野は姿勢制御における注意過程や外乱刺激の予測や運動準備に関与する(Mihara, 2008)ことが報告されていることから,セット2における補足運動野,前頭前野の活動上昇は予期できない外乱に対して注意を向け姿勢制御プログラムを形成していることを示唆していると考える。さらに,セット3はセット1と比較して外乱前の下頭頂小葉の賦活が確認された。Miharaらは外乱を加えた際に右後頭頂葉が賦活すると報告しており,動的な場面での身体図式の生成に関与していると考察している。本研究では予告信号なしの予期できない外乱に対する姿勢制御の練習を繰り返すことにより,練習後半においては姿勢制御プログラムの誤差修正が行われた結果,外乱の前に自己の身体図式に基づき姿勢制御プログラムが生成され,姿勢反応に適応変化が生じた可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,タイミングを予期できない外乱負荷に対して平衡を保持する練習を反復することにより,外乱前の大脳皮質の活動に変化が生じ,姿勢制御応答に適応変化が生じることがはじめて示された。本研究結果はタイミングを予期できない外乱に対する姿勢制御の練習を行う上で重要な基礎的知見となる。