第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述7

運動制御・運動学習1

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:鈴木俊明(関西医療大学保健医療学部)

[O-0065] 筋収縮が短潜時および長潜時求心性抑制に及ぼす影響

小島翔1,2, 大西秀明1, 小丹晋一1, 宮口翔太1, 菅原和広1, 桐本光1, 田巻弘之1, 大高洋平2,3 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.東京湾岸リハビリテーション病院, 3.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

Keywords:経頭蓋磁気刺激, 電気刺激, 求心性抑制

【はじめに,目的】
大脳皮質一次運動野に経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)を行うと末梢の標的筋から運動誘発電位(motor evoked potentials:MEP)が記録される。TMSに先行して,末梢神経に経皮電気刺激(Electrical stimulation;ES)を行うと,単発磁気刺激時に比べてMEP振幅値が減少する。このESとTMSの刺激間隔が,20 msと200 msの時にMEPの抑制現象が顕著に認められ,それぞれ短潜時求心性抑制(short afferent inhibition:SAI)(Tokimura et al. 2000),長潜時求心性抑制(long afferent inhibition:LAI)といわれている(Chen et al. 1999)。これらの抑制現象は,感覚刺激の入力に応答した皮質脊髄路の興奮性変化を反映しており,感覚入力量やES部位などにより変動することが報告されている(Fischer et al. 2011)。しかし,いずれも安静時に計測しているものが多く,筋収縮中のSAIおよびLAIに関する報告は少ない。理学療法場面において末梢からの感覚入力に注意を向けさせることがあるが,筋収縮中の感覚入力が皮質脊髄路に及ぼす影響については十分に解明されているとは言えない。そこで,本研究では,筋収縮がSAIおよびLAIに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人9名(23.6±1.7歳)であった。MEPの計測には磁気刺激装置Magstim 200(8の字コイル)を使用した。刺激部位は左大脳皮質一次運動野手指領域とし,MEPの導出筋は右第一背側骨間筋とした。ESの刺激部位は右尺骨神経とし,刺激強度は運動閾値の95%とした。ESとTMSの刺激間隔は,20 ms(SAI)および200 ms(LAI)とし,TMSの刺激条件は単発刺激を含めた3条件とした。さらに,計測条件として,安静時と筋収縮時(最大随意収縮の10%収縮)の2条件を設定した。運動課題は右示指外転等尺性運動とし,安静時および筋収縮時に各条件14回の刺激を0.2 Hzの頻度でランダムに与えた。磁気刺激強度は,安静時または筋収縮時に1 mVのMEPを50%以上の確率で誘発される強度とした。MEP振幅値は,各刺激条件で得られた波形の最大と最小のものを除いた12波形を加算平均し,peak to peakで算出した。また各計測条件による抑制度合を比較するため,MEP ratio(SAIまたはLAI時に誘発されるMEP/単発磁気刺激時に誘発されるMEP)を算出した。比較対象は,単発磁気刺激とSAIまたはLAIで得られたMEP振幅値,および安静時と筋収縮時のMEP ratioとし,統計処理には対応のあるt検定を用いて比較した。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
安静時に記録されたMEP振幅値(平均値±標準誤差)は,0.83±0.05 mV(単発),0.35±0.05 mV(SAI),0.57±0.09 mV(LAI)となり,単発時に比べSAIおよびLAI時では有意に減少した(p<0.01)。また,筋収縮時に記録されたMEP振幅値は,1.23±0.04 mV(単発),0.83±0.07 mV(SAI),1.13±0.05 mV(LAI)となり,安静時と同様にSAIおよびLAI時では有意に減少した(p<0.01)。安静時および筋収縮時のMEP ratioは,SAIで0.42±0.05(安静時),0.67±0.04(筋収縮時),LAIで0.67±0.09(安静時),0.91±0.02(筋収縮時)となり,両刺激条件において,安静時に比べ筋収縮時では有意に大きな値を示し(SAI,p<0.01;LAI,p<0.05),抑制作用の減弱が認められた。
【考察】
本研究結果より,ESとTMSの刺激間隔が20 ms,200 msの両条件において,MEP振幅値は,安静時と比較して筋収縮時で大きいことが明らかとなった。これらの結果は,筋の随意収縮により,SAIおよびLAI機能が減弱することを示唆すると考えられる。体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)を用いた研究では,随意運動により一次体性感覚野周囲から記録されるSEP振幅が減弱すると報告されている。この現象はGating(Papakostopoulos et al, 1975)と呼ばれ,随意運動の正確な遂行に必要な固有受容感覚の処理が優先され,不必要な感覚情報にフィルター処理が生じるのではないかと考えられている。本研究においても,SEP gatingと同様の機序により,筋収縮によりSAIおよびLAI機能が減弱したと推察した。
【理学療法学研究としての意義】
安静時と筋収縮のSAI及びLAI機能の変化を比較することにより,随意運動を正確に行うために重要な感覚運動連関機能を評価できる可能性が示唆された。