[O-0067] 圧負荷による広汎性侵害抑制調節が電流知覚閾値に及ぼす影響
キーワード:広汎性侵害抑制調節, Neurometer, 電流知覚閾値
【はじめに,目的】
疼痛部位と異なる身体部位に侵害刺激を入力することで疼痛部位の閾値が上昇する現象は,広汎性侵害抑制調節(DNIC:Diffuse Noxious Inhibitory Control)と呼ばれ,疼痛抑制機構の一つである。ヒトでのDNICについての先行研究は,主観的評価を用いて報告しており,定量的に示した報告は少ない。本研究の目的は,疼痛閾値を電流知覚閾値(CPT:The current perception threshold)として出力できるNeurometerを使用し,侵害刺激として圧負荷を加えた場合,CPTに及ぼす影響を明らかにすることとした。
【方法】
CPTはNeurometer CPT/C(NEUROTRON社製,Baltimore,USA)を用い,CLINICAL CPT TESTモードに設定して計測した。Neurometerは2000,250,5Hzという異なる周波数電流を加えることで,Aβ線維,Aδ線維,C線維の知覚閾値をCPTとして数値化する。CPTの計測部位は右前腕橈側とし,橈骨茎状突起と上腕骨外側上顆を結ぶ線上の上腕骨外側上顆から2横指遠位とした。圧負荷を加える部位は左上腕部を選択し,圧負荷はマンシェットにて行った。CPTの計測は,2000Hz,250Hz,5Hzの順に計測することを1セットとし,2セット行った。2セット後の各周波数のCPT平均値を算出し,これを圧負荷前のCPTとした。その後,侵害刺激を加えるため左上腕部にマンシェットを巻き,200mmHgの圧負荷を行った。本研究では左上腕部の圧負荷に対しての痛みが数値評価スケール(NRS:Numeric Rating Scale)で5以上であることを侵害刺激として定義した。NRSを1分ごとに計測し,5以上となった時点の2000Hz,250Hz,5HzのCPTを計測した。左上腕部の虚血状態を回避するため,各CPTの計測終了後にマンシェットを外し,NRSが0に戻ってから再度,同様に圧負荷を加えてCPTを計測した。2回計測したCPTの平均を圧負荷中のCPTと定義した。この手順から圧負荷前と圧負荷中のCPTの変化について検討した。CPTについて,1CPTは0.01mAに相当する。Neurometerの信頼性は,同時研究で健常者6名の前腕部橈側を含む4か所を対象に,日内および日間変動の級内相関係数(ICC:interclass correlation coefficient)と変動係数を算出した。CPT正規性をShapiro-wilk検定を用いて確認後,対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位検定を用いて圧負荷前と圧負荷中の比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
各周波数のICCと変動係数は以下の通りである:2000Hz[0.86,0.14],250Hz[0.36,0.20]5Hz[0.80,0.16]。各周波数の圧負荷前及び圧負荷中のCPTは,2000Hzで113.83±32.11,105.31±29.30,250Hzで26.15±13.16,24.54±13.49,5Hzで12.81±13.33,15.33±13.89であった。2000Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意な低下が認められた(p=0.006)。250Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意差は認められなかったが低下傾向であった(p=0.311)。5Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意な上昇が認められた(p=0.039)。
【考察】
DNICは侵害刺激を利用した疼痛抑制機構であり,本研究では疼痛閾値を定量化して出力できるNeurometerを用いてDNICの効果を明らかにした。本研究により圧負荷を用いたDNICは,5HzのCPTを有意に上昇させた。先行研究よりDNICによる疼痛抑制が鋭い痛みに比較し,鈍い痛みで著しく改善したとの報告があり,本研究の結果はこれらの先行研究と一致する。DNICの機序として,広作動域ニューロンの活動抑制が疼痛抑制を引き起こすとされている。C線維からの求心性の情報は特異的侵害受容ニューロンと広作動域ニューロンを介するため,C線維の疼痛閾値がDNICにより上昇し,本研究では5Hzのみで効果があったと推測される。しかし,同時研究によるNeurometerの前腕部における信頼性の結果から,計測機器の信頼性の限界が考えられる。また,変形性股関節症患者を対象にした実験では,長期永続的疼痛は疼痛の中枢抑制の障害に依存しうることが報告されており,DNIC効果の機能不全が示された。本研究では健常成人を対象にしており,実際に疼痛を有する患者が,疼痛抑制機構のどの過程が障害されているかを検討することが必要である。それゆえ疼痛を有する患者へのDNIC効果の定量化と,疼痛抑制機構の障害課程を発見することが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
圧負荷を用いたDNICによりC線維由来の疼痛を減少させることが示唆されたが,計測機器の信頼性を考えると各部位でDNICを用いる際には結果のばらつきを考慮しなければならない。
疼痛部位と異なる身体部位に侵害刺激を入力することで疼痛部位の閾値が上昇する現象は,広汎性侵害抑制調節(DNIC:Diffuse Noxious Inhibitory Control)と呼ばれ,疼痛抑制機構の一つである。ヒトでのDNICについての先行研究は,主観的評価を用いて報告しており,定量的に示した報告は少ない。本研究の目的は,疼痛閾値を電流知覚閾値(CPT:The current perception threshold)として出力できるNeurometerを使用し,侵害刺激として圧負荷を加えた場合,CPTに及ぼす影響を明らかにすることとした。
【方法】
CPTはNeurometer CPT/C(NEUROTRON社製,Baltimore,USA)を用い,CLINICAL CPT TESTモードに設定して計測した。Neurometerは2000,250,5Hzという異なる周波数電流を加えることで,Aβ線維,Aδ線維,C線維の知覚閾値をCPTとして数値化する。CPTの計測部位は右前腕橈側とし,橈骨茎状突起と上腕骨外側上顆を結ぶ線上の上腕骨外側上顆から2横指遠位とした。圧負荷を加える部位は左上腕部を選択し,圧負荷はマンシェットにて行った。CPTの計測は,2000Hz,250Hz,5Hzの順に計測することを1セットとし,2セット行った。2セット後の各周波数のCPT平均値を算出し,これを圧負荷前のCPTとした。その後,侵害刺激を加えるため左上腕部にマンシェットを巻き,200mmHgの圧負荷を行った。本研究では左上腕部の圧負荷に対しての痛みが数値評価スケール(NRS:Numeric Rating Scale)で5以上であることを侵害刺激として定義した。NRSを1分ごとに計測し,5以上となった時点の2000Hz,250Hz,5HzのCPTを計測した。左上腕部の虚血状態を回避するため,各CPTの計測終了後にマンシェットを外し,NRSが0に戻ってから再度,同様に圧負荷を加えてCPTを計測した。2回計測したCPTの平均を圧負荷中のCPTと定義した。この手順から圧負荷前と圧負荷中のCPTの変化について検討した。CPTについて,1CPTは0.01mAに相当する。Neurometerの信頼性は,同時研究で健常者6名の前腕部橈側を含む4か所を対象に,日内および日間変動の級内相関係数(ICC:interclass correlation coefficient)と変動係数を算出した。CPT正規性をShapiro-wilk検定を用いて確認後,対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位検定を用いて圧負荷前と圧負荷中の比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
各周波数のICCと変動係数は以下の通りである:2000Hz[0.86,0.14],250Hz[0.36,0.20]5Hz[0.80,0.16]。各周波数の圧負荷前及び圧負荷中のCPTは,2000Hzで113.83±32.11,105.31±29.30,250Hzで26.15±13.16,24.54±13.49,5Hzで12.81±13.33,15.33±13.89であった。2000Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意な低下が認められた(p=0.006)。250Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意差は認められなかったが低下傾向であった(p=0.311)。5Hzにおける圧負荷前と圧負荷中のCPTの比較で,有意な上昇が認められた(p=0.039)。
【考察】
DNICは侵害刺激を利用した疼痛抑制機構であり,本研究では疼痛閾値を定量化して出力できるNeurometerを用いてDNICの効果を明らかにした。本研究により圧負荷を用いたDNICは,5HzのCPTを有意に上昇させた。先行研究よりDNICによる疼痛抑制が鋭い痛みに比較し,鈍い痛みで著しく改善したとの報告があり,本研究の結果はこれらの先行研究と一致する。DNICの機序として,広作動域ニューロンの活動抑制が疼痛抑制を引き起こすとされている。C線維からの求心性の情報は特異的侵害受容ニューロンと広作動域ニューロンを介するため,C線維の疼痛閾値がDNICにより上昇し,本研究では5Hzのみで効果があったと推測される。しかし,同時研究によるNeurometerの前腕部における信頼性の結果から,計測機器の信頼性の限界が考えられる。また,変形性股関節症患者を対象にした実験では,長期永続的疼痛は疼痛の中枢抑制の障害に依存しうることが報告されており,DNIC効果の機能不全が示された。本研究では健常成人を対象にしており,実際に疼痛を有する患者が,疼痛抑制機構のどの過程が障害されているかを検討することが必要である。それゆえ疼痛を有する患者へのDNIC効果の定量化と,疼痛抑制機構の障害課程を発見することが今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
圧負荷を用いたDNICによりC線維由来の疼痛を減少させることが示唆されたが,計測機器の信頼性を考えると各部位でDNICを用いる際には結果のばらつきを考慮しなければならない。