[O-0071] 人工膝関節全置換術後14日目における歩行自立可否に影響を与える術前因子の検討
キーワード:人工膝関節全置換術, 歩行自立, 術前因子
【はじめに,目的】
近年,医療の効率化および標準化と入院期間の短縮を図るため,変形性膝関節症(以下,膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下,TKA)後にクリニカルパス(以下,パス)が導入されている。TKA後早期の歩行獲得は術後の歩行機能の改善,術後の膝伸展筋力の早期回復と関連があると報告されており,TKA後により早期かつ安全に自立歩行を獲得することが求められている。そのため,術前より術後の運動機能を予測することは重要であり,多くの先行研究で報告されている。また,TKA後早期の歩行獲得は運動機能の改善という点で重要ではあるが,歩行自立可否の判断は担当理学療法士の主観や経験によるところが多いのが現状である。そこで,本研究では歩行自立の判断基準を多施設において統一した上で,TKA後14日目における歩行自立可否に影響を与える術前因子について検討することを目的とした。
【方法】
2013年9月~2014年9月までに研究協力が得られた施設のうち,パスにて術後14日以内に歩行自立を設定している施設を抽出し,その施設にてTKAの適応となった膝OA患者72例(男性14例,女性58例,平均年齢74.8±7.3歳)を対象とした。対象を術後14日目において歩行自立であった群(以下,自立群)38例と歩行自立が遅延した群(以下,非自立群)34例の2群に分類し,属性および術前の身体機能や運動機能を調査した。調査項目は,属性として,性別,年齢,BMI,身体機能として,FTA,膝関節伸展筋力(非術側・術側),膝関節伸展ROM(非術側・術側),膝関節屈曲ROM(非術側・術側),疼痛(NRS),FIM,術前の運動機能として,TUGの最大歩行速度(以下,最大TUG),5m最大歩行速度とした。歩行自立の判断基準は,①理学療法士2名の主観的判断により杖歩行自立(50m歩行可能)と判断された場合,②被検者自身が杖歩行に自信がある場合(口頭にて自信の有無について回答してもらう),③最大TUGにてカットオフ値(13.5秒)を達成した場合(測定回数は1回)の3条件を満たすこととした。統計学的処理は,術前の身体・運動機能を説明変数とし,事前に単変量解析にてスクリーニングを行い,関連(p<0.25)を認めた変数により二項ロジスティック回帰分析を行った。交絡因子は年齢・BMIを採用した。説明変数,交絡因子を階層的に投入し,予測因子を検討した。統計解析にはSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析によって抽出された説明変数は最大TUG(p=0.027)とFIM(p=0.229)であった。術後14日目での歩行自立可否を従属変数,最大TUGとFIMを独立変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果,最大TUG(オッズ比1.149,p=0.046)のみ有意な変数として抽出された。交絡因子投入後も最大TUGは独立して従属変数を説明した。モデルの判別的中率は61.4%であった。最大TUGとFIMの相関係数は-0.469であり,多重共線性の影響はないと判断した。
【考察】
本研究の結果,術前TUGが術後14日目の歩行自立可否に影響する因子であることが示された。TUGは歩行のみならず立ち上がりや方向転換,着座動作から構成されており高齢者の動的バランス能力の評価として開発された。加えて,下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストとされる。術前のバランス能力の低下は術後の歩行能力に影響する術前因子として多数報告されている。本研究においても術前TUGは術後の歩行能力に影響する結果となり,先行研究を支持する結果となった。また,TUGの遅延は移乗動作,歩行,階段昇降,屋外活動などの日常生活動作(以下,ADL)能力の低下を示すとされている。その他,転倒歴,外出頻度や運動習慣との関連も報告されている。膝OAは膝関節の疼痛を主訴とし,症状の進行に伴い,関節機能が低下し,身体機能ならびにADLを大きく低下させる。さらにADLの低下は生活範囲の制限を生じさせ,かつ日中活動における身体活動量の減少を招くことが予想される。したがって,動的バランスの指標であるTUGの遅延は,術前の身体活動量の低下や二次的な運動機能低下を引き起こしている可能性があり,術後14日目における歩行自立可否に影響を与える因子として抽出されたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,TKA適用患者の術後早期における歩行自立可否を予測する上での指標になると考える。また,術後の歩行自立をより早期に把握し,適切な術後理学療法を提供する上での一助となると考える。
近年,医療の効率化および標準化と入院期間の短縮を図るため,変形性膝関節症(以下,膝OA)に対する人工膝関節全置換術(以下,TKA)後にクリニカルパス(以下,パス)が導入されている。TKA後早期の歩行獲得は術後の歩行機能の改善,術後の膝伸展筋力の早期回復と関連があると報告されており,TKA後により早期かつ安全に自立歩行を獲得することが求められている。そのため,術前より術後の運動機能を予測することは重要であり,多くの先行研究で報告されている。また,TKA後早期の歩行獲得は運動機能の改善という点で重要ではあるが,歩行自立可否の判断は担当理学療法士の主観や経験によるところが多いのが現状である。そこで,本研究では歩行自立の判断基準を多施設において統一した上で,TKA後14日目における歩行自立可否に影響を与える術前因子について検討することを目的とした。
【方法】
2013年9月~2014年9月までに研究協力が得られた施設のうち,パスにて術後14日以内に歩行自立を設定している施設を抽出し,その施設にてTKAの適応となった膝OA患者72例(男性14例,女性58例,平均年齢74.8±7.3歳)を対象とした。対象を術後14日目において歩行自立であった群(以下,自立群)38例と歩行自立が遅延した群(以下,非自立群)34例の2群に分類し,属性および術前の身体機能や運動機能を調査した。調査項目は,属性として,性別,年齢,BMI,身体機能として,FTA,膝関節伸展筋力(非術側・術側),膝関節伸展ROM(非術側・術側),膝関節屈曲ROM(非術側・術側),疼痛(NRS),FIM,術前の運動機能として,TUGの最大歩行速度(以下,最大TUG),5m最大歩行速度とした。歩行自立の判断基準は,①理学療法士2名の主観的判断により杖歩行自立(50m歩行可能)と判断された場合,②被検者自身が杖歩行に自信がある場合(口頭にて自信の有無について回答してもらう),③最大TUGにてカットオフ値(13.5秒)を達成した場合(測定回数は1回)の3条件を満たすこととした。統計学的処理は,術前の身体・運動機能を説明変数とし,事前に単変量解析にてスクリーニングを行い,関連(p<0.25)を認めた変数により二項ロジスティック回帰分析を行った。交絡因子は年齢・BMIを採用した。説明変数,交絡因子を階層的に投入し,予測因子を検討した。統計解析にはSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
単変量解析によって抽出された説明変数は最大TUG(p=0.027)とFIM(p=0.229)であった。術後14日目での歩行自立可否を従属変数,最大TUGとFIMを独立変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果,最大TUG(オッズ比1.149,p=0.046)のみ有意な変数として抽出された。交絡因子投入後も最大TUGは独立して従属変数を説明した。モデルの判別的中率は61.4%であった。最大TUGとFIMの相関係数は-0.469であり,多重共線性の影響はないと判断した。
【考察】
本研究の結果,術前TUGが術後14日目の歩行自立可否に影響する因子であることが示された。TUGは歩行のみならず立ち上がりや方向転換,着座動作から構成されており高齢者の動的バランス能力の評価として開発された。加えて,下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストとされる。術前のバランス能力の低下は術後の歩行能力に影響する術前因子として多数報告されている。本研究においても術前TUGは術後の歩行能力に影響する結果となり,先行研究を支持する結果となった。また,TUGの遅延は移乗動作,歩行,階段昇降,屋外活動などの日常生活動作(以下,ADL)能力の低下を示すとされている。その他,転倒歴,外出頻度や運動習慣との関連も報告されている。膝OAは膝関節の疼痛を主訴とし,症状の進行に伴い,関節機能が低下し,身体機能ならびにADLを大きく低下させる。さらにADLの低下は生活範囲の制限を生じさせ,かつ日中活動における身体活動量の減少を招くことが予想される。したがって,動的バランスの指標であるTUGの遅延は,術前の身体活動量の低下や二次的な運動機能低下を引き起こしている可能性があり,術後14日目における歩行自立可否に影響を与える因子として抽出されたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,TKA適用患者の術後早期における歩行自立可否を予測する上での指標になると考える。また,術後の歩行自立をより早期に把握し,適切な術後理学療法を提供する上での一助となると考える。