[O-0074] ワインドアップ期における上半身重心位置の視覚的評価点の検討
キーワード:重心, 投球動作, 動作解析
【はじめに,目的】我々は第11回肩の運動機能研究会において,ワインドアップ期である,踏み出し脚の膝が最も高く挙がった状態(Knee Highest Position;以下KHP)で,低年齢の選手では身体重心位置,特に上半身重心位置(以下UG)が後方に偏位する傾向があり,身体重心位置はUGを中心に評価する事が有用と考えられる事を報告した。しかし,実際に臨床でUGを評価する場合に,どの点を評価すべきかは定かでない。そこで今回,臨床上有用となる視覚的骨特徴評価点を明らかにする目的で,UGと評価すべき骨特徴点との関係を検討した為報告する。
【方法】方法は,セットポジションからの投球を指示した際に,軸脚の上前腸骨棘より踏み出し脚の膝を挙上して投球した,様々なレベルの野球選手55名とした。なお,左投手は右投手に変換して分析を行った。UGは,体表上の骨特徴点に貼付したマーカー36個の位置より合成重心法により求めた。次に第11回肩の運動機能研究会にて報告した方法と同様に,UGの軸脚足部長軸方向における位置を爪先方向を正として求めた。さらに,視覚的骨特徴評価点を,頭頂部(以下Head),第7胸椎棘突起と剣状突起の中点(以下Th-Px),踏み出し脚側上前腸骨棘(以下ASIS),両側上後腸骨棘の中点(以下PSIS)とし,これらそれぞれに対してもUGと同様に,軸脚足部長軸方向における位置を求めた。この検討の統計は,UGを目的変数,上記骨特徴点を説明変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。
また,臨床上は本塁側から見た一三塁方向の視覚的位置で,軸脚足部長軸方向のUGの前後を判断出来る事が有用と考えられる為,重回帰分析により影響度の高かった骨特徴点において,一三塁方向の視覚的評価による前後(三塁方向を前方と判断)と,軸脚足部長軸方向のUGの前後(爪先方向を前方と判断)がどの程度一致するか検討を行った。前後の境界は両者ともに軸脚内果とし,視覚的評価位置が前方・後方の場合それぞれで一致率を求めた。
加えて,両者が一致しなかった原因を検討する為,視覚的評価位置が前方・後方それぞれで,軸脚足部長軸方向のUGと一致した群,一致しなかった群の比較を,差の検定により行った。なお,この差の原因として検討した要因は,骨盤・体幹それぞれの屈伸・側屈・回旋の各角度(骨盤角度は骨盤とマウンドに,体幹角度は骨盤と体幹に設定した座標系の回転をオイラー角で表現)と,軸脚足部長軸が一三塁方向となす鋭角(爪先が本塁向きの場合を正,以下足角)とした。有意水準は全ての検定5%とした。
【結果】重回帰分析の結果,Th-Px,Head,ASISが説明変数として選択され,UG=0.069+0.555×Th-Px+0.232×Head+0.092×ASIS(R2=0.952,p=0.000)の予測式が得られた。各説明変数の目的変数に対する標準偏回帰係数の値は,Th-Px,Head,ASISの順に,0.560(p=0.000),0.392(p=0.000),0.133(p=0.001)であった。次に,重回帰分析で最も影響度が高かったTh-Pxにおいて,視覚的評価位置と,軸脚足部長軸方向のUGとの一致率を求めると,視覚的評価位置が前方の場合で96.3%(26/27名一致),後方の場合で50.0%(14/28名一致)であり,全体では72.7%(40/55名一致)であった。両者が一致しなかった原因の検討は,視覚的評価位置が前方の場合はほぼ軸脚足部長軸方向のUGも前方であった為,視覚的評価位置が後方であった場合のみで行った。結果,足角にのみ有意差を認め(p=0.043),一致しなかった群の方が,軸脚足部が本塁方向を向いている傾向がみられた。
【考察】本検討より,軸脚足部長軸方向のUGは,Th-Pxを軸脚内果を基準に本塁側から評価し判断する事が有用と考えられた。ただし,視覚的評価位置は軸脚足部長軸方向のUGより後方に見える傾向にあり,視覚的評価位置が前方の場合はほぼ軸脚足部長軸方向のUGも前方であるが,視覚的評価位置が後方の場合は一致率が50%と低く,特に軸脚足部が本塁方向を向いている場合はその判断に注意が必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本検討により,UGを視覚的に判断する精度が向上し,これによりKHPの評価の一助になると考えられる。
【方法】方法は,セットポジションからの投球を指示した際に,軸脚の上前腸骨棘より踏み出し脚の膝を挙上して投球した,様々なレベルの野球選手55名とした。なお,左投手は右投手に変換して分析を行った。UGは,体表上の骨特徴点に貼付したマーカー36個の位置より合成重心法により求めた。次に第11回肩の運動機能研究会にて報告した方法と同様に,UGの軸脚足部長軸方向における位置を爪先方向を正として求めた。さらに,視覚的骨特徴評価点を,頭頂部(以下Head),第7胸椎棘突起と剣状突起の中点(以下Th-Px),踏み出し脚側上前腸骨棘(以下ASIS),両側上後腸骨棘の中点(以下PSIS)とし,これらそれぞれに対してもUGと同様に,軸脚足部長軸方向における位置を求めた。この検討の統計は,UGを目的変数,上記骨特徴点を説明変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。
また,臨床上は本塁側から見た一三塁方向の視覚的位置で,軸脚足部長軸方向のUGの前後を判断出来る事が有用と考えられる為,重回帰分析により影響度の高かった骨特徴点において,一三塁方向の視覚的評価による前後(三塁方向を前方と判断)と,軸脚足部長軸方向のUGの前後(爪先方向を前方と判断)がどの程度一致するか検討を行った。前後の境界は両者ともに軸脚内果とし,視覚的評価位置が前方・後方の場合それぞれで一致率を求めた。
加えて,両者が一致しなかった原因を検討する為,視覚的評価位置が前方・後方それぞれで,軸脚足部長軸方向のUGと一致した群,一致しなかった群の比較を,差の検定により行った。なお,この差の原因として検討した要因は,骨盤・体幹それぞれの屈伸・側屈・回旋の各角度(骨盤角度は骨盤とマウンドに,体幹角度は骨盤と体幹に設定した座標系の回転をオイラー角で表現)と,軸脚足部長軸が一三塁方向となす鋭角(爪先が本塁向きの場合を正,以下足角)とした。有意水準は全ての検定5%とした。
【結果】重回帰分析の結果,Th-Px,Head,ASISが説明変数として選択され,UG=0.069+0.555×Th-Px+0.232×Head+0.092×ASIS(R2=0.952,p=0.000)の予測式が得られた。各説明変数の目的変数に対する標準偏回帰係数の値は,Th-Px,Head,ASISの順に,0.560(p=0.000),0.392(p=0.000),0.133(p=0.001)であった。次に,重回帰分析で最も影響度が高かったTh-Pxにおいて,視覚的評価位置と,軸脚足部長軸方向のUGとの一致率を求めると,視覚的評価位置が前方の場合で96.3%(26/27名一致),後方の場合で50.0%(14/28名一致)であり,全体では72.7%(40/55名一致)であった。両者が一致しなかった原因の検討は,視覚的評価位置が前方の場合はほぼ軸脚足部長軸方向のUGも前方であった為,視覚的評価位置が後方であった場合のみで行った。結果,足角にのみ有意差を認め(p=0.043),一致しなかった群の方が,軸脚足部が本塁方向を向いている傾向がみられた。
【考察】本検討より,軸脚足部長軸方向のUGは,Th-Pxを軸脚内果を基準に本塁側から評価し判断する事が有用と考えられた。ただし,視覚的評価位置は軸脚足部長軸方向のUGより後方に見える傾向にあり,視覚的評価位置が前方の場合はほぼ軸脚足部長軸方向のUGも前方であるが,視覚的評価位置が後方の場合は一致率が50%と低く,特に軸脚足部が本塁方向を向いている場合はその判断に注意が必要と考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本検討により,UGを視覚的に判断する精度が向上し,これによりKHPの評価の一助になると考えられる。