[O-0110] 歩行開始動作とステップ動作における先行随伴性姿勢調節の比較
Keywords:歩行開始動作, ステップ動作, 先行随伴性姿勢調節
【はじめに,目的】
歩行開始動作(Gait initiation:GI)は定常歩行と異なる姿勢制御を要求され,高度のバランス機能を必要とすることから動作が不安定な患者も多い。GI改善の介入として,部分的な練習である前方へのステップ動作(Step)を行うことがあるが,単一のStepと連続動作であるGIの先行随伴性姿勢調節(anticipatory postural adjustments:APA)は厳密に同様なものとは考えにくい。しかし,GIとStepのAPAの違いについて明らかにした報告はほとんどない。そのため,本研究ではAPAを足圧中心(Center of pressure:COP)移動距離により検討し,各動作や速度の特徴を明らかにすることを目的とした。また,その結果をGI改善の介入の一助とすることを目的した。
【方法】
健常男性13名(平均年齢22.8±1.4歳)を対象とした。GIは静的開脚立位から前方5m程度の歩行を行う課題,Stepは静的開脚立位から前方に一歩のみステップして停止する課題とした。各動作とも測定開始5秒間は静的立位を保持し,検者の合図で右足から動作を開始した。条件は快適速度と最大速度で3回ずつ測定を実施し,測定3回目を代表値とした。測定にはシート式下肢荷重計(ウォークWay MW-1000:ANIMA社製)を使用し,サンプリング周波数は100Hzとした。右側の踵部後端から一歩目の踵部後端までの距離を歩幅,右側の足部離地から接地までの時間をステップ時間として,シート式下肢荷重計の圧力情報から算出した。COP座標データはBIMUTAS®-Video(キッセイコムテック社製)を使用し,10HzでLow pass filter処理を行った。測定開始から3秒間のCOP座標データを平均して動作開始時のCOP座標とし,開始時から後方最大移動までの距離(後方変位)と右側最大移動までの距離(側方変位)を算出した。統計処理はSPSS Statistics Ver.22を用いて反復測定二元配置分散分析を行い,交互作用を認めた場合は要因別に対応のあるt-検定を行った。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
後方変位は快適速度でGI3.34±0.98cm,Step2.08±1.30cm,最大速度でGI6.06±1.30cm,Step5.71±1.94cmであり,動作と速度で主効果を認めた(動作:F=6.57,p<0.05,速度:F=85.16,p<0.001)。側方変位は快適速度でGI2.78±0.83cm,Step2.23±0.88cm,最大速度でGI3.47±1.51cm,Step3.59±1.43cmであり,速度のみ主効果を認めた(F15.36,p<0.01)。歩幅は快適速度でGI58.7±10.9cm,Step52.3±11.0cm,最大速度でGI62.4±8.3cm,Step58.1±11.4cmであり,動作と速度で主効果を認めた(動作:F=5.47,p<0.05,速度:F=9.22,p<0.05)。ステップ時間は快適速度でGI0.41±0.06sec,Step0.45±0.08sec,最大速度でGI0.34±0.03sec,Step0.29±0.05secであり,交互作用を認め(F=29.37,p<0.001),快適速度ではGIがStepに比べ有意に減少し(p<0.05),最大速度ではGIがStepに比べ有意に増加した(p<0.01)。また,各動作とも快適速度に比べ最大速度で有意に減少した(p<0.05)。
【考察】
GIとStepでは側方変位に有意差を認めず,後方変位に有意差を認めたことから,各動作の違いは前後方向のAPAであることが明らかとなった。これは,各動作とも前方へ移動する動作であり,Stepが一歩のみの前方移動量が少ない動作であることに比べ,GIが連続した動作であり前方移動量が多く,前方への推進力をより必要とする動作のため,前方への回転モーメントを生み出す後方変位が高値になったと考える。そのため,APAの観点ではGI改善のための介入として,GIの前段階でStepを行うことは有用であるが,Stepのみでは不十分であり,Stepに加えてGIも行う必要性が示唆された。また,速い速度で後方変位が増加することから,GI改善のためのStepは速い動作で行うことが有用であると考える。しかし,ステップ時間はGIがStepに比べ快適速度では低値,最大速度では高値と動作速度により傾向が異なり,厳密に同様な動作とはいえない。これは,健常者の順応性の高さが影響として考えられ,今後は速度のみでなく歩幅も規定するなどさらに条件を設定して検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,APAの観点からGIとStepの特徴や速度の特徴が明らかとなった。GI改善のための介入として,GIの前段階でStepを行うことは有用であるが,Stepのみでは不十分であり,Stepに加えてGIも行う必要性が示唆された。また,速度が増加すると後方変位も増加するため,速い速度でのStepはGIに近い後方変位となり,GI改善のためにより効果的な練習となることが示唆された。
歩行開始動作(Gait initiation:GI)は定常歩行と異なる姿勢制御を要求され,高度のバランス機能を必要とすることから動作が不安定な患者も多い。GI改善の介入として,部分的な練習である前方へのステップ動作(Step)を行うことがあるが,単一のStepと連続動作であるGIの先行随伴性姿勢調節(anticipatory postural adjustments:APA)は厳密に同様なものとは考えにくい。しかし,GIとStepのAPAの違いについて明らかにした報告はほとんどない。そのため,本研究ではAPAを足圧中心(Center of pressure:COP)移動距離により検討し,各動作や速度の特徴を明らかにすることを目的とした。また,その結果をGI改善の介入の一助とすることを目的した。
【方法】
健常男性13名(平均年齢22.8±1.4歳)を対象とした。GIは静的開脚立位から前方5m程度の歩行を行う課題,Stepは静的開脚立位から前方に一歩のみステップして停止する課題とした。各動作とも測定開始5秒間は静的立位を保持し,検者の合図で右足から動作を開始した。条件は快適速度と最大速度で3回ずつ測定を実施し,測定3回目を代表値とした。測定にはシート式下肢荷重計(ウォークWay MW-1000:ANIMA社製)を使用し,サンプリング周波数は100Hzとした。右側の踵部後端から一歩目の踵部後端までの距離を歩幅,右側の足部離地から接地までの時間をステップ時間として,シート式下肢荷重計の圧力情報から算出した。COP座標データはBIMUTAS®-Video(キッセイコムテック社製)を使用し,10HzでLow pass filter処理を行った。測定開始から3秒間のCOP座標データを平均して動作開始時のCOP座標とし,開始時から後方最大移動までの距離(後方変位)と右側最大移動までの距離(側方変位)を算出した。統計処理はSPSS Statistics Ver.22を用いて反復測定二元配置分散分析を行い,交互作用を認めた場合は要因別に対応のあるt-検定を行った。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
後方変位は快適速度でGI3.34±0.98cm,Step2.08±1.30cm,最大速度でGI6.06±1.30cm,Step5.71±1.94cmであり,動作と速度で主効果を認めた(動作:F=6.57,p<0.05,速度:F=85.16,p<0.001)。側方変位は快適速度でGI2.78±0.83cm,Step2.23±0.88cm,最大速度でGI3.47±1.51cm,Step3.59±1.43cmであり,速度のみ主効果を認めた(F15.36,p<0.01)。歩幅は快適速度でGI58.7±10.9cm,Step52.3±11.0cm,最大速度でGI62.4±8.3cm,Step58.1±11.4cmであり,動作と速度で主効果を認めた(動作:F=5.47,p<0.05,速度:F=9.22,p<0.05)。ステップ時間は快適速度でGI0.41±0.06sec,Step0.45±0.08sec,最大速度でGI0.34±0.03sec,Step0.29±0.05secであり,交互作用を認め(F=29.37,p<0.001),快適速度ではGIがStepに比べ有意に減少し(p<0.05),最大速度ではGIがStepに比べ有意に増加した(p<0.01)。また,各動作とも快適速度に比べ最大速度で有意に減少した(p<0.05)。
【考察】
GIとStepでは側方変位に有意差を認めず,後方変位に有意差を認めたことから,各動作の違いは前後方向のAPAであることが明らかとなった。これは,各動作とも前方へ移動する動作であり,Stepが一歩のみの前方移動量が少ない動作であることに比べ,GIが連続した動作であり前方移動量が多く,前方への推進力をより必要とする動作のため,前方への回転モーメントを生み出す後方変位が高値になったと考える。そのため,APAの観点ではGI改善のための介入として,GIの前段階でStepを行うことは有用であるが,Stepのみでは不十分であり,Stepに加えてGIも行う必要性が示唆された。また,速い速度で後方変位が増加することから,GI改善のためのStepは速い動作で行うことが有用であると考える。しかし,ステップ時間はGIがStepに比べ快適速度では低値,最大速度では高値と動作速度により傾向が異なり,厳密に同様な動作とはいえない。これは,健常者の順応性の高さが影響として考えられ,今後は速度のみでなく歩幅も規定するなどさらに条件を設定して検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,APAの観点からGIとStepの特徴や速度の特徴が明らかとなった。GI改善のための介入として,GIの前段階でStepを行うことは有用であるが,Stepのみでは不十分であり,Stepに加えてGIも行う必要性が示唆された。また,速度が増加すると後方変位も増加するため,速い速度でのStepはGIに近い後方変位となり,GI改善のためにより効果的な練習となることが示唆された。