第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述13

運動制御・運動学習2

Fri. Jun 5, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第7会場 (ホールD5)

座長:淺井仁(金沢大学 医薬保健研究域保健学系リハビリテーション科学領域)

[O-0111] 物品把持の動画観察時における運動主体感と脳活動の関係

機能的近赤外線分光装置(fNIRS)による検討

若田哲史1,2, 大住倫弘1, 信迫悟志1,3, 森岡周1 (1.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 2.上京診療所リハビリテーション課, 3.東大阪山路病院リハビリテーション科)

Keywords:fNIRS, 手操作, 運動主体感

【はじめに,目的】
手指運動中の映像を観察した場合,一次運動野の興奮が生じることが明らかにされている(Maeda, 2002)。また,身体の画像を自己身体に重ね合わせて観察した場合は一次運動野の興奮に加えて,自分自身が手を動かしているような運動主体感の錯覚が生起されることも明らかにされている(Kaneko, 2007)。このような映像による錯覚はリハビリテーションにも有効であることも報告されている(Moseley, 2007)。一方,手には把持運動という重要な機能があり,手のリハビリテーションを実施する上で非常に重要な要素である。しかしながら先行研究では,把持運動映像を自己身体に重ね合わせて観察した場合の神経機構については明らかではない。本研究は物品把持映像を自己身体に重ね合わせて観察した時の脳活動と運動主体感の関係を明らかにすることを目的とした。

【方法】
医学的な既往のない右利き健常成人11名(男性1名,女性10名,平均年齢±標準偏差:38.4±6.99)が実験に参加した。被験者は椅子に座り,右手をBOX中に入れ視覚遮断された。BOX上には映像提示用のiPad(Apple製)が設置されており,被験者は20秒間の安静閉眼の後,iPad画面上に提示された映像を見るよう求められた。課題時間は20秒とし,課題終了後,被験者は安静状態に戻った。8セットを連続して実施した。提示映像は母指とその他4指で木片を把持する動作とし,自己身体に物品把持映像を重ね合わせた映像一致条件,自己身体と物品把持動画をずらした映像不一致条件をランダムに4回提示した。提示映像の範囲は手関節より遠位と木片の提示に止めた。
脳血流量の測定には,機能的近赤外線分光装置(島津製作所製FOIRE3000)を用いた。光ファイバホルダは国際10-20法に従い前頭領域・頭頂領域を覆った。酸化ヘモグロビン(以下oxyHb)値を抽出した。抽出したoxyHb値は,課題提示前10秒をrest,課題開始から終了までをtaskとし,標準化処理(effect size:以下ES)を行い,関心領域(Region of interest:以下ROI)ごとに値を抽出した。また,各課題における運動主体感の鮮明度を7段階のNumeral Rating Scale(以下NRS)を用い3項目の合計点を算出した(Blakemore, 2002)。運動主体感についてはNRSをWilcoxonの符号付き検定を用いて比較した。脳血流量の変化については,各条件においてROIごとに一元配置分散分析を用いて被験者間の効果を比較し,事後検定としてBonferroni補正を用いて被験者内の効果を比較した。また有意に活動が認められたROIについては,各条件のESをpaired t-testを用いて比較した。さらに有意な差が認められたROIにおいてESとNRSの間のSpearmanの相関係数を算出した。統計学的な有意水準は5%とした。
【結果】
NRSの比較では,映像一致条件が映像不一致条件より有意に高値であった(p<0.05)。ESの比較において,映像一致条件では,右前頭前領域は左下前頭前領域と右頭頂領域よりも有意に増加が認められた(p<0.05)。映像不一致条件では,左下前頭前領域は右前頭前領域・左一次感覚運動領域・左右頭頂領域よりも有意な増加が認められた(p<0.05)。また条件間の比較では,右前頭前野において条件一致条件は条件不一致条件よりも有意なESの上昇が認められた(p<0.05)。ESとNRSの相関関係では,右前頭領域においてESと運動主体感の間に有意な正の相関がみられた(r=0.61,p=0.04)。

【考察】
NRSにおいて映像一致条件時に高値を示したことから,物品把持の映像観察で運動主体感が生じることが明らかになった。また物品把持の映像観察によって右前頭前領域の活性化が見られた。この領域を含んだ右前-頭頂ネットワークは,右手・左手操作を問わず,自己身体の運動錯覚が生じている時に活動する(Naito, 2005)。道具操作に関与するのは,左半球の前―頭頂ネットワークであるが(Jeannerod, 1995, Murata, 2000),物品把持の錯覚には,自己身体を表象する右半球の前―頭頂ネットワークに含まれる右前頭前野が関与することが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,失行症などの高次脳機能障害に対する治療開発に関する基礎的データとして位置づけられる。