[O-0115] 足部内在筋の疲労は歩行時の足部アライメントに影響を及ぼすか?
multi-segment foot modelを用いた三次元動作解析
Keywords:足部, 三次元動作解析, 筋疲労
【はじめに,目的】
荷重時の足部アーチの支持において,骨や靭帯とともに筋性の要素が重要視されている。Headleeら(2008)やPaulら(2003)は母趾外転筋の機能低下(疲労および神経ブロック)によって静止立位における足部内側縦アーチの低下が誘発されることを報告し,これらの研究から足部内在筋が足部アーチの支持に貢献していることが示唆されている。しかし,いずれの報告も静的場面における評価である点で限界があり,足部内在筋の歩行時における足部アーチ支持の役割については明らかにされていない。そこで本研究では,足部内在筋の疲労による歩行時の足部アライメントの変化を三次元的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性8名(20.5±1.9歳)とした。解析には三次元動作解析装置VICONを用い,マーカーはoxford foot modelに従い29点に貼付した。foot modelは全ての対象において右側に適用した。足部内在筋の疲労誘発には自主制作の等尺性足趾屈曲運動装置を用い,50%MVCでの等尺性MP関節屈曲運動を遂行困難となるまで持続する課題を疲労exとした。対象は疲労ex前後で各5回ずつ定常歩行を行った。解析には各試行において床反力計の波形が確認できた右立脚期を採用し,最小アーチ高,最大前足部背屈角度,最大後足部外反角度をそれぞれ算出した。なお,oxford foot modelではアーチ高を前足部セグメントの平面に対する第1中足骨底までの距離として表現している。統計学的分析では5回の試行の内,最大値,最小値を除いた3試行の平均を,疲労ex前後で対応のあるt検定によって比較した。また,アーチ高の変化と他の指標の変化との関係をピアソンの相関係数を用いて分析した。いずれの分析においても有意水準は5%未満とした。
【結果】
疲労ex前後で歩行時のアーチ高に有意な変化は確認されなかった。一方,最大前足部背屈角度は有意に増加したが,最大後足部外反角度は有意に低下した(p<0.05)。アーチ高の変化と他の指標の変化との関係においては,前足部背屈角度の変化と後足部外反角度の変化を加えた場合のみ,アーチ高の変化と有意な相関が確認された(p<0.05,r=0.78)。
【考察】
本研究では,足部内在筋が疲労した状態においても歩行時のアーチ高には変化が確認されなかった。しかし,前足部背屈角度や後足部外反角度には有意な変化が確認され,このことから歩行時には,足部内在筋のアーチ支持能力の低下を他の筋活動の増加によって代償していることが示唆された。Georgeら(2009)は無症候性の扁平足症例は歩行立脚期に後足部内反筋の筋活動が増加していることを報告しており,本研究においても同様の代償戦略が生じた可能性が考えられる。また対象数が少ないものの,アーチ高の変化が前足部背屈角度と後足部外反角度の変化の合計と相関関係にあったことからも,代償の影響が示唆される。冒頭で紹介した静的場面での報告と比較した際の本研究の限界として,先行研究ではnavicular dropを用いてアーチ高の変化を測定しているため,本研究とアーチ高の定義が異なる点が挙げられる。navicular dropを用いて動的場面でのアーチ高を測定することは困難であるため,oxford foot modelの定義で静止立位におけるアーチ高の変化を再確認する必要があるだろう。その他,今後は疲労ex前後での歩行時筋活動の評価や,より運動強度の高い動作場面での検証が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,足部内在筋の機能低下が足部アライメントの変化に及ぼす影響を,動的場面において三次元的に評価した点で新規性がある。動的場面における代償のメカニズムが示唆されたことは,足部アライメント異常や足部内在筋の機能不全に起因する障害の予防・治療を考察する上で,有益なデータになると思われる。
荷重時の足部アーチの支持において,骨や靭帯とともに筋性の要素が重要視されている。Headleeら(2008)やPaulら(2003)は母趾外転筋の機能低下(疲労および神経ブロック)によって静止立位における足部内側縦アーチの低下が誘発されることを報告し,これらの研究から足部内在筋が足部アーチの支持に貢献していることが示唆されている。しかし,いずれの報告も静的場面における評価である点で限界があり,足部内在筋の歩行時における足部アーチ支持の役割については明らかにされていない。そこで本研究では,足部内在筋の疲労による歩行時の足部アライメントの変化を三次元的に分析することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性8名(20.5±1.9歳)とした。解析には三次元動作解析装置VICONを用い,マーカーはoxford foot modelに従い29点に貼付した。foot modelは全ての対象において右側に適用した。足部内在筋の疲労誘発には自主制作の等尺性足趾屈曲運動装置を用い,50%MVCでの等尺性MP関節屈曲運動を遂行困難となるまで持続する課題を疲労exとした。対象は疲労ex前後で各5回ずつ定常歩行を行った。解析には各試行において床反力計の波形が確認できた右立脚期を採用し,最小アーチ高,最大前足部背屈角度,最大後足部外反角度をそれぞれ算出した。なお,oxford foot modelではアーチ高を前足部セグメントの平面に対する第1中足骨底までの距離として表現している。統計学的分析では5回の試行の内,最大値,最小値を除いた3試行の平均を,疲労ex前後で対応のあるt検定によって比較した。また,アーチ高の変化と他の指標の変化との関係をピアソンの相関係数を用いて分析した。いずれの分析においても有意水準は5%未満とした。
【結果】
疲労ex前後で歩行時のアーチ高に有意な変化は確認されなかった。一方,最大前足部背屈角度は有意に増加したが,最大後足部外反角度は有意に低下した(p<0.05)。アーチ高の変化と他の指標の変化との関係においては,前足部背屈角度の変化と後足部外反角度の変化を加えた場合のみ,アーチ高の変化と有意な相関が確認された(p<0.05,r=0.78)。
【考察】
本研究では,足部内在筋が疲労した状態においても歩行時のアーチ高には変化が確認されなかった。しかし,前足部背屈角度や後足部外反角度には有意な変化が確認され,このことから歩行時には,足部内在筋のアーチ支持能力の低下を他の筋活動の増加によって代償していることが示唆された。Georgeら(2009)は無症候性の扁平足症例は歩行立脚期に後足部内反筋の筋活動が増加していることを報告しており,本研究においても同様の代償戦略が生じた可能性が考えられる。また対象数が少ないものの,アーチ高の変化が前足部背屈角度と後足部外反角度の変化の合計と相関関係にあったことからも,代償の影響が示唆される。冒頭で紹介した静的場面での報告と比較した際の本研究の限界として,先行研究ではnavicular dropを用いてアーチ高の変化を測定しているため,本研究とアーチ高の定義が異なる点が挙げられる。navicular dropを用いて動的場面でのアーチ高を測定することは困難であるため,oxford foot modelの定義で静止立位におけるアーチ高の変化を再確認する必要があるだろう。その他,今後は疲労ex前後での歩行時筋活動の評価や,より運動強度の高い動作場面での検証が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,足部内在筋の機能低下が足部アライメントの変化に及ぼす影響を,動的場面において三次元的に評価した点で新規性がある。動的場面における代償のメカニズムが示唆されたことは,足部アライメント異常や足部内在筋の機能不全に起因する障害の予防・治療を考察する上で,有益なデータになると思われる。