[O-0137] 健常若年者における前方・後方歩行速度と前方・後方2ステップテストとの関係
Keywords:2ステップテスト, 最大歩行速度, 健常者
【はじめに,目的】転倒は骨折や寝たきりを引き起こす原因の一つとされており,高齢者の転倒を予防することは健康寿命の延伸を図る上でも重要である。転倒予防で用いられる評価項目はTimed up and go test(以下TUG)やFunctional reach test(以下FR),2ステップテストなどが用いられている。しかし,これらの評価項目はすべて前方への移動・バランス評価である。眞野らによる転倒方向の報告では107例の転倒高齢者の内のしりもちが28%との報告もあり,後方の移動・バランス評価は重要であると考える。また,近年,後方歩行は前方歩行よりも高齢者の転倒に対する感度が高いといった報告からも後方への移動・バランス評価が注目されている。しかし,後方歩行は不慣れな動作であることや評価の難易度が高いといった欠点がある。そこで,本研究では既存の前方2ステップテストを参考に後方歩行を簡便に評価する方法として後方2ステップテストを考案した。この後方2ステップテストの値と後方歩行速度の関連や前方2ステップテストとの関連性を検討することで新たな転倒予防評価方法としての可能性を検討した。
【方法】健常若年成人99名(男性56人,女性43人)を対象とした。対象者の年齢は18-23歳,身長,体重(平均値±標準偏差)は166.0±8.6cm,59.7±10.9kgであった。対象者に前方10m歩行,後方10m歩行,前方2ステップテスト,後方2ステップテストの4つの評価を実施した。10m歩行は歩行時間から最大歩行速度(km/h)を算出し,2ステップテストは最大努力で2歩前進もしくは後進させた際の最大2歩幅(cm)を計測し,それを身長(cm)で除した数値を2ステップ値として算出した。2ステップテストは3回連続で実施し,1回目は練習として除外し,2回目,3回目の結果の平均値を代表値として採用した。これらの結果から,後方歩行速度と後方2ステップ値,前方歩行速度と前方2ステップ値,後方2ステップ値と前方2ステップ値の間の3つについてShapiro-Wilk検定にて正規性を確認後,Pearsonの積率相関係数およびSpearmanの順位相関係数を算出した。統計処理はすべてR2.8.1を使用した。
【結果】後方歩行速度および前方歩行速度(平均値±標準偏差)は,6.17±1.32km/h,7.67±1.22km/hであった。また,前方2ステップ値と後方2ステップ値(平均値±標準偏差)は,1.33±0.16,1.58±0.14であった。後方歩行速度と後方2ステップ値の間の相関係数はr=0.54(p<0.01),前方歩行速度と2ステップ値の間の相関係数はr=0.48(p<0.01)となった。また,後方2ステップ値と前方2ステップ値との間の相関係数はr=0.71(p<0.01)となった。
【考察】後方2ステップテストは後方歩行速度との間に相関係数r=0.54の中等度の相関を認め,前方2ステップテストと前方歩行速度との間の相関係数よりも高値を示した。前方2ステップテストは先行研究では前方歩行速度と有意なかなり強い正の相関を示すとされていたが,本研究では,相関係数がr=0.48となった。このことから前方2ステップテストが10m歩行速度に及ぼす影響には閾値が存在し,身体能力の高い対象者の場合には両者には関連がみられず,10m歩行速度の予測には2ステップテストは適応しない可能性が示唆された。一方,後方2ステップテストは2ステップであっても後方への移動は難易度が高く,身体能力の高い健常若年成人において,前方よりも相関係数が高くなったと考えられる。また,前方2ステップテストと後方2ステップテストの間の相関係数はr=0.71と高値を示した。前方2ステップテストはTUGやFRとの関連も報告されていることからも,後方2ステップテストは新たな転倒予防の評価となる可能性が示唆された。本研究では健常若年成人を対象に評価を実施したため,測定値の範囲が狭く,評価方法の妥当性を検討するまでには至らず,転倒との関連も検討することはできなかった点が限界であった。今後は対象者の年齢層を広げて評価を実施し,後方2ステップテストの妥当性や転倒との関連について検討していく。
【理学療法学研究としての意義】転倒予防の新たな評価項目として後方2ステップテストが有用である可能性が示唆された。先行研究の後方歩行が前方歩行よりも転倒に対する感度が高いという報告からも後方2ステップテストは既存の評価よりも明確に転倒群を抽出できる可能性があり,既存の評価では抽出できなかった転倒予備群の方の発見にも応用できる可能性がある。
【方法】健常若年成人99名(男性56人,女性43人)を対象とした。対象者の年齢は18-23歳,身長,体重(平均値±標準偏差)は166.0±8.6cm,59.7±10.9kgであった。対象者に前方10m歩行,後方10m歩行,前方2ステップテスト,後方2ステップテストの4つの評価を実施した。10m歩行は歩行時間から最大歩行速度(km/h)を算出し,2ステップテストは最大努力で2歩前進もしくは後進させた際の最大2歩幅(cm)を計測し,それを身長(cm)で除した数値を2ステップ値として算出した。2ステップテストは3回連続で実施し,1回目は練習として除外し,2回目,3回目の結果の平均値を代表値として採用した。これらの結果から,後方歩行速度と後方2ステップ値,前方歩行速度と前方2ステップ値,後方2ステップ値と前方2ステップ値の間の3つについてShapiro-Wilk検定にて正規性を確認後,Pearsonの積率相関係数およびSpearmanの順位相関係数を算出した。統計処理はすべてR2.8.1を使用した。
【結果】後方歩行速度および前方歩行速度(平均値±標準偏差)は,6.17±1.32km/h,7.67±1.22km/hであった。また,前方2ステップ値と後方2ステップ値(平均値±標準偏差)は,1.33±0.16,1.58±0.14であった。後方歩行速度と後方2ステップ値の間の相関係数はr=0.54(p<0.01),前方歩行速度と2ステップ値の間の相関係数はr=0.48(p<0.01)となった。また,後方2ステップ値と前方2ステップ値との間の相関係数はr=0.71(p<0.01)となった。
【考察】後方2ステップテストは後方歩行速度との間に相関係数r=0.54の中等度の相関を認め,前方2ステップテストと前方歩行速度との間の相関係数よりも高値を示した。前方2ステップテストは先行研究では前方歩行速度と有意なかなり強い正の相関を示すとされていたが,本研究では,相関係数がr=0.48となった。このことから前方2ステップテストが10m歩行速度に及ぼす影響には閾値が存在し,身体能力の高い対象者の場合には両者には関連がみられず,10m歩行速度の予測には2ステップテストは適応しない可能性が示唆された。一方,後方2ステップテストは2ステップであっても後方への移動は難易度が高く,身体能力の高い健常若年成人において,前方よりも相関係数が高くなったと考えられる。また,前方2ステップテストと後方2ステップテストの間の相関係数はr=0.71と高値を示した。前方2ステップテストはTUGやFRとの関連も報告されていることからも,後方2ステップテストは新たな転倒予防の評価となる可能性が示唆された。本研究では健常若年成人を対象に評価を実施したため,測定値の範囲が狭く,評価方法の妥当性を検討するまでには至らず,転倒との関連も検討することはできなかった点が限界であった。今後は対象者の年齢層を広げて評価を実施し,後方2ステップテストの妥当性や転倒との関連について検討していく。
【理学療法学研究としての意義】転倒予防の新たな評価項目として後方2ステップテストが有用である可能性が示唆された。先行研究の後方歩行が前方歩行よりも転倒に対する感度が高いという報告からも後方2ステップテストは既存の評価よりも明確に転倒群を抽出できる可能性があり,既存の評価では抽出できなかった転倒予備群の方の発見にも応用できる可能性がある。