[O-0188] 白血病モデルラットに対する温熱刺激の影響
キーワード:白血病, 温熱療法, 血液
【はじめに,目的】
がん患者に対する温熱療法は,がん細胞の増殖を促進するリスクがあるため古くから禁忌とされてきた。しかし現在では,ホットパックや赤外線といった局所・表在性の温熱療法で,患部を直接加熱するものでなければ疾患自体には影響はないと考えられている。一方,血液がんの1つである白血病の患者は,化学療法や放射線療法による副作用,骨髄移植前後の免疫抑制,貧血といった理由により,臥床時間が長くなる傾向にある。そのような状況では廃用性筋萎縮に加えて腰痛といった痛みが発生することがしばしばあり,その治療にはホットパックといった表在性の温熱療法が実施される。ただ,白血病では,白血病細胞と呼ばれるがん細胞が全身の血液内に存在するため,表在性の温熱療法であっても加熱ががん細胞におよぶ可能性がある。そのため,白血病に対する温熱療法では,安全性を確認する必要があると思われるが,その点を検討した報告は見あたらない。また,上記した局所・表在性の温熱療法であれば疾患自体には影響は少ないという考えも,科学的根拠は乏しいのが現状である。そこで本研究では,白血病のモデルラットを作成し,下肢に対して赤外線による温熱刺激の負荷を行い,血液と筋組織におよぼす影響について検討した。
【方法】
実験動物には4週齢のWistar系雄性ラットを用い,これらを1)白血病を惹起させる白血病群,2)白血病を惹起させ温熱刺激を負荷する温熱群,3)対照群の3群に振り分けた。白血病群と温熱群のラットには,発がん物質である7,12-dimethylbenz-[a]anthracene(以下,DMBA)を含有する油性乳液(50mg/ml)を尾静脈から計4回投与(1回/10日)し,白血病を惹起させた。また,対照群には,白血病群,温熱群と同じ頻度で油性乳液のみを同量投与した。そして,温熱群のラットには,8週齢の時点から4週間,赤外線装置(OG技研,EL-30型)を用いて温熱刺激を負荷した。具体的には,麻酔下(ペントバルビタールナトリウム40mg/kg)で赤外線を20cm上方から下肢全体に照射し,刺激時間は1回40分間,頻度は3日に1回とした。なお,今回実施した赤外線による温熱刺激について予備実験を行った結果,40分の照射により下腿筋内温度は平均35.5℃から39.7℃まで,体温は平均36.7℃から38.3℃まで上昇した。実験期間中は,体重,血球沈降速度,白血球数,ヘマトクリット値を週1回の頻度で測定し,8週齢と12週齢の時点で1日活動量を測定した。実験期間終了後,ラットを麻酔して両側腓腹筋を摘出した。筋試料は筋湿重量測定後に横断凍結切片とし,Hematoxylin-Eosin染色を施して検鏡した。
【結果】
DMBA投与後,白血病群の白血球数,ヘマトクリット値は対照群に比べ有意に低値を示し,その後,緩やかに増加した。白血病群の血球沈降速度は個体間による変動が大きかったが,平均値は対照群に比べ高値を示す傾向にあった。次に,温熱群を見ると,白血球数,ヘマトクリット値,血球沈降速度の推移は白血病群のそれと同様であり,2群間に有意差は認められなかった。また,実験終了時の体重,活動量および腓腹筋の筋湿重量は,対照群に比べ白血病群が低値を示し,白血病群と温熱群の間に有意差は認められなかった。白血病群と温熱群の腓腹筋の組織像を確認したところ,浮腫や筋線維壊死といった病理所見は認められなかった。
【考察】
今回の結果,温熱群において温熱刺激の負荷による白血球数,ヘマトクリット値,血球沈降速度の変動は認められなかったことから,局所・表在性の温熱刺激は白血病の進行に影響をもたらさなかったと推測される。また,白血病群の腓腹筋では炎症のような病理所見は認められず,温熱刺激の負荷による変化も確認されなかった。これらのことから,局所・表在性の温熱療法は白血病患者に安全に適応でき,悪影響をおよぼす可能性は低いと考える。温熱療法には鎮痛効果やリラクゼーション効果だけでなく,筋萎縮の進行抑制効果があることが近年の研究で明らかにされており,臥床時間が長くなりがちな白血病患者にとって温熱療法の有用性は高いと思われる。今後は,白血病に対する温熱療法の安全性を追求するとともに,筋萎縮の進行抑制効果についても検討を加えていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
白血病ををはじめとする血液がんに対する温熱療法は,実際の臨床で実施されているものの,その安全性についてはこれまで検討されていなかった。本研究は,白血病に対する温熱療法の安全性の確認を目的とした基礎研究であり,理学療法学研究として十分意義があると考える。
がん患者に対する温熱療法は,がん細胞の増殖を促進するリスクがあるため古くから禁忌とされてきた。しかし現在では,ホットパックや赤外線といった局所・表在性の温熱療法で,患部を直接加熱するものでなければ疾患自体には影響はないと考えられている。一方,血液がんの1つである白血病の患者は,化学療法や放射線療法による副作用,骨髄移植前後の免疫抑制,貧血といった理由により,臥床時間が長くなる傾向にある。そのような状況では廃用性筋萎縮に加えて腰痛といった痛みが発生することがしばしばあり,その治療にはホットパックといった表在性の温熱療法が実施される。ただ,白血病では,白血病細胞と呼ばれるがん細胞が全身の血液内に存在するため,表在性の温熱療法であっても加熱ががん細胞におよぶ可能性がある。そのため,白血病に対する温熱療法では,安全性を確認する必要があると思われるが,その点を検討した報告は見あたらない。また,上記した局所・表在性の温熱療法であれば疾患自体には影響は少ないという考えも,科学的根拠は乏しいのが現状である。そこで本研究では,白血病のモデルラットを作成し,下肢に対して赤外線による温熱刺激の負荷を行い,血液と筋組織におよぼす影響について検討した。
【方法】
実験動物には4週齢のWistar系雄性ラットを用い,これらを1)白血病を惹起させる白血病群,2)白血病を惹起させ温熱刺激を負荷する温熱群,3)対照群の3群に振り分けた。白血病群と温熱群のラットには,発がん物質である7,12-dimethylbenz-[a]anthracene(以下,DMBA)を含有する油性乳液(50mg/ml)を尾静脈から計4回投与(1回/10日)し,白血病を惹起させた。また,対照群には,白血病群,温熱群と同じ頻度で油性乳液のみを同量投与した。そして,温熱群のラットには,8週齢の時点から4週間,赤外線装置(OG技研,EL-30型)を用いて温熱刺激を負荷した。具体的には,麻酔下(ペントバルビタールナトリウム40mg/kg)で赤外線を20cm上方から下肢全体に照射し,刺激時間は1回40分間,頻度は3日に1回とした。なお,今回実施した赤外線による温熱刺激について予備実験を行った結果,40分の照射により下腿筋内温度は平均35.5℃から39.7℃まで,体温は平均36.7℃から38.3℃まで上昇した。実験期間中は,体重,血球沈降速度,白血球数,ヘマトクリット値を週1回の頻度で測定し,8週齢と12週齢の時点で1日活動量を測定した。実験期間終了後,ラットを麻酔して両側腓腹筋を摘出した。筋試料は筋湿重量測定後に横断凍結切片とし,Hematoxylin-Eosin染色を施して検鏡した。
【結果】
DMBA投与後,白血病群の白血球数,ヘマトクリット値は対照群に比べ有意に低値を示し,その後,緩やかに増加した。白血病群の血球沈降速度は個体間による変動が大きかったが,平均値は対照群に比べ高値を示す傾向にあった。次に,温熱群を見ると,白血球数,ヘマトクリット値,血球沈降速度の推移は白血病群のそれと同様であり,2群間に有意差は認められなかった。また,実験終了時の体重,活動量および腓腹筋の筋湿重量は,対照群に比べ白血病群が低値を示し,白血病群と温熱群の間に有意差は認められなかった。白血病群と温熱群の腓腹筋の組織像を確認したところ,浮腫や筋線維壊死といった病理所見は認められなかった。
【考察】
今回の結果,温熱群において温熱刺激の負荷による白血球数,ヘマトクリット値,血球沈降速度の変動は認められなかったことから,局所・表在性の温熱刺激は白血病の進行に影響をもたらさなかったと推測される。また,白血病群の腓腹筋では炎症のような病理所見は認められず,温熱刺激の負荷による変化も確認されなかった。これらのことから,局所・表在性の温熱療法は白血病患者に安全に適応でき,悪影響をおよぼす可能性は低いと考える。温熱療法には鎮痛効果やリラクゼーション効果だけでなく,筋萎縮の進行抑制効果があることが近年の研究で明らかにされており,臥床時間が長くなりがちな白血病患者にとって温熱療法の有用性は高いと思われる。今後は,白血病に対する温熱療法の安全性を追求するとともに,筋萎縮の進行抑制効果についても検討を加えていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
白血病ををはじめとする血液がんに対する温熱療法は,実際の臨床で実施されているものの,その安全性についてはこれまで検討されていなかった。本研究は,白血病に対する温熱療法の安全性の確認を目的とした基礎研究であり,理学療法学研究として十分意義があると考える。