[O-0191] 急性期重症脳卒中患者における退院時自立歩行可否予測因子の検討
~初回離床時までのベッド上評価を用いた多施設共同研究~
キーワード:急性期脳卒中, 歩行, 予測因子
【はじめに,目的】
急性期脳卒中患者におけるリハビリテーション(リハ)において,可及的早期の基本動作自立,退院時の自立歩行獲得が大きな目標の一つである。近年,急性期病院における在院日数の短縮化が進んでおり,退院調整の観点から発症後早期に退院時自立歩行可否を予測することが重要である。特に,重症脳卒中患者ではその重要性は高いが,全身状態や医学的管理による安静制限等によりベッド上での評価からの早期予測が必要となる。そこで,本研究の目的は急性期重症脳卒中患者において,初回離床時までのベッド上評価から退院時自立歩行可否の予測因子を検討することとした。
【方法】
対象は2014年2月から7月に研究関連施設(急性期病院3施設)に入院し,リハ依頼があり共同研究データベースに登録された急性期脳卒中患者507名のうち,外科的治療施行,クモ膜下出血罹患,発症前modified Rankin Scale(mRS)3~5,初回離床時mRS0~3,死亡例を除外した204名(男性125名)とした。平均年齢は70.4±12.8歳,平均在院日数は32.2±21.5日であった。研究デザインは前向き観察研究とし,対象者を退院時自立歩行可能群50名(退院時mRS0~2)と,不可能群154名(退院時mRS3~5)の2群に割り付けた。調査項目は,副次的評価項目として年齢,リハ・離床開始までの期間,主要評価項目として一般的な理学療法評価で行う項目である初回リハ時におけるNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),上肢・手指・下肢Brunnstrome Recovery Stage(BRS),上肢・下肢modified Ashworth Scale(MAS),初回離床時のAbility for Basic Movement Scale II(ABMSII)とした。退院時の自立歩行可否に影響する要因を抽出するため,従属変数を退院時自立歩行可否(可能群0,不可能群1)とし,独立変数を主要評価項目であるBRS,MAS,ABMSII下位項目(寝返り,起き上がり,座位,立ち上がり,立位保持),NIHSS下位項目(意識水準,感覚,運動失調,言語,消去現象)としたステップワイズ多重ロジスティック回帰分析(AIC基準変数増減法)による解析を行った。また,副次的評価項目に関しては,2群間でのMann-Whitney検定による解析を行った。統計解析にはR2.8.1を使用した(有意水準5%)。
【結果】
退院時自立歩行可否に影響する要因として,言語(オッズ比1.57),寝返り(0.71),上肢BRS(0.65),立ち上がり(0.60)が判別的中率80.8%で選択された(Hosmer lemeshow検定;p=0.63,model χ2検定;p<0.01)。Wald検定では,言語と寝返りは有意でなく,上肢BRSと立ち上がりが有意であった(p<0.05)。また,副次的評価項目では年齢(可能群67.3±14.3歳vs不可能群71.4±12.1歳),リハ開始までの期間(3.1±2.3日vs 3.1±2.4日)には有意差を認めず,離床開始までの期間(3.4±1.7日vs 5.2±4.6日)で有意差を認めた。
【考察】
解析の結果,失語症,寝返り動作能力,上肢の運動麻痺,立ち上がり動作能力が退院時の自立歩行可否に影響していた。下肢の運動機能を反映すると考えられる立ち上がり動作能力が抽出されたことは,予想通りの結果であった。一方,失語症は直接的に歩行能力に関与しないと考えられるものの,背景に他の高次脳機能障害の存在が考えられ,間接的に歩行再学習の遅延が生じたことが示唆され,自立歩行獲得に負に作用したと考察される。また,上肢の運動麻痺も同様,自立歩行可否への直接的な関与は少ないと考えられるが,上肢の運動麻痺により体幹の安定性低下やバランス能力低下を呈し,歩行能力に影響したことが示唆される。さらに,寝返り動作能力が抽出されたことからも,自立歩行可否に及ぼす体幹機能の重要性が示唆された。そして,予後を予測する上では,各要因を単独に解釈せず,複数の要因からの総合的な検討が必要であると言われている。本研究における退院時自立歩行可否の予測には,言語,寝返り,上肢BRS,立ち上がりの4つの因子が抽出されたが,各要因だけではなく,複合的な要因と考えられる高次脳機能障害や体幹機能を考慮した検討が重要であることが示唆され,今後の更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期重症脳卒中患者において,初回離床時までのベッド上評価から退院時自立歩行可否を予測することは,退院先の検討や理学療法の方針決定において重要である。また,本研究で用いた評価項目は,急性期脳卒中患者に対する一般的な理学療法評価であり,さらに多施設による前向き観察研究であるため,汎用性が高く理学療法学研究としても意義深い。
急性期脳卒中患者におけるリハビリテーション(リハ)において,可及的早期の基本動作自立,退院時の自立歩行獲得が大きな目標の一つである。近年,急性期病院における在院日数の短縮化が進んでおり,退院調整の観点から発症後早期に退院時自立歩行可否を予測することが重要である。特に,重症脳卒中患者ではその重要性は高いが,全身状態や医学的管理による安静制限等によりベッド上での評価からの早期予測が必要となる。そこで,本研究の目的は急性期重症脳卒中患者において,初回離床時までのベッド上評価から退院時自立歩行可否の予測因子を検討することとした。
【方法】
対象は2014年2月から7月に研究関連施設(急性期病院3施設)に入院し,リハ依頼があり共同研究データベースに登録された急性期脳卒中患者507名のうち,外科的治療施行,クモ膜下出血罹患,発症前modified Rankin Scale(mRS)3~5,初回離床時mRS0~3,死亡例を除外した204名(男性125名)とした。平均年齢は70.4±12.8歳,平均在院日数は32.2±21.5日であった。研究デザインは前向き観察研究とし,対象者を退院時自立歩行可能群50名(退院時mRS0~2)と,不可能群154名(退院時mRS3~5)の2群に割り付けた。調査項目は,副次的評価項目として年齢,リハ・離床開始までの期間,主要評価項目として一般的な理学療法評価で行う項目である初回リハ時におけるNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),上肢・手指・下肢Brunnstrome Recovery Stage(BRS),上肢・下肢modified Ashworth Scale(MAS),初回離床時のAbility for Basic Movement Scale II(ABMSII)とした。退院時の自立歩行可否に影響する要因を抽出するため,従属変数を退院時自立歩行可否(可能群0,不可能群1)とし,独立変数を主要評価項目であるBRS,MAS,ABMSII下位項目(寝返り,起き上がり,座位,立ち上がり,立位保持),NIHSS下位項目(意識水準,感覚,運動失調,言語,消去現象)としたステップワイズ多重ロジスティック回帰分析(AIC基準変数増減法)による解析を行った。また,副次的評価項目に関しては,2群間でのMann-Whitney検定による解析を行った。統計解析にはR2.8.1を使用した(有意水準5%)。
【結果】
退院時自立歩行可否に影響する要因として,言語(オッズ比1.57),寝返り(0.71),上肢BRS(0.65),立ち上がり(0.60)が判別的中率80.8%で選択された(Hosmer lemeshow検定;p=0.63,model χ2検定;p<0.01)。Wald検定では,言語と寝返りは有意でなく,上肢BRSと立ち上がりが有意であった(p<0.05)。また,副次的評価項目では年齢(可能群67.3±14.3歳vs不可能群71.4±12.1歳),リハ開始までの期間(3.1±2.3日vs 3.1±2.4日)には有意差を認めず,離床開始までの期間(3.4±1.7日vs 5.2±4.6日)で有意差を認めた。
【考察】
解析の結果,失語症,寝返り動作能力,上肢の運動麻痺,立ち上がり動作能力が退院時の自立歩行可否に影響していた。下肢の運動機能を反映すると考えられる立ち上がり動作能力が抽出されたことは,予想通りの結果であった。一方,失語症は直接的に歩行能力に関与しないと考えられるものの,背景に他の高次脳機能障害の存在が考えられ,間接的に歩行再学習の遅延が生じたことが示唆され,自立歩行獲得に負に作用したと考察される。また,上肢の運動麻痺も同様,自立歩行可否への直接的な関与は少ないと考えられるが,上肢の運動麻痺により体幹の安定性低下やバランス能力低下を呈し,歩行能力に影響したことが示唆される。さらに,寝返り動作能力が抽出されたことからも,自立歩行可否に及ぼす体幹機能の重要性が示唆された。そして,予後を予測する上では,各要因を単独に解釈せず,複数の要因からの総合的な検討が必要であると言われている。本研究における退院時自立歩行可否の予測には,言語,寝返り,上肢BRS,立ち上がりの4つの因子が抽出されたが,各要因だけではなく,複合的な要因と考えられる高次脳機能障害や体幹機能を考慮した検討が重要であることが示唆され,今後の更なる検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
急性期重症脳卒中患者において,初回離床時までのベッド上評価から退院時自立歩行可否を予測することは,退院先の検討や理学療法の方針決定において重要である。また,本研究で用いた評価項目は,急性期脳卒中患者に対する一般的な理学療法評価であり,さらに多施設による前向き観察研究であるため,汎用性が高く理学療法学研究としても意義深い。