[O-0192] 内包後脚梗塞の患者が70病日目で独歩自立に至った1症例
6種類の予測法を使用した歩行の予後予測
キーワード:脳血管疾患, 予後予測, 歩行
【はじめに,目的】
臨床において患者の予後予測を行うことは,目標設定や今後の生活を考えていく上で必要不可欠なことであり,過去に多くの方法が報告されている。前田(2001)は小さな病巣でも運動予後の不良な部位として放線冠の梗塞,内包後脚,脳幹,視床(後外側の病巣で深部関節位置覚脱失のもの)と述べている。しかし今回,内包後脚梗塞の患者が発症から70病日目で独歩自立したため,いくつかの予後予測を行い,本症例が独歩自立に至った要因を検討した。予後不良の可能性があった患者が自立に至る症例を経験したため,症例報告を行う。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーションに脳梗塞で入院(入院時15病日目)となった60歳代男性である。病巣は左内包後脚で右半身麻痺Brunnstrom stage(以下BS)上肢II手指II下肢IV,Stroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)は49/76点,Manual Muscle Testing(以下MMT)体幹3左下肢5,感覚障害なし,バビンスキー反射陽性,右上下肢深部腱反射亢進,入院時のFIM(運動項目合計)33/91点で移動(歩行)は1点,Functional Balance Scale(以下FBS)は17/56点であった。リハビリテーションの介入は7単位/日(理学療法4単位,作業療法2単位,言語聴覚療法1単位)で,理学療法プログラムとして,体幹筋力トレーニング,麻痺肢への神経筋促通,麻痺側下肢を軸としたステップ練習,歩行練習を55日間実施した。予後予測は過去の報告から,CT画像(①),年齢(②),運動麻痺(③),Classification and Regression Trees(以下CART)(④),二木の予後予測法(⑤),対数曲線による予後予測とActivities of Daily Living(以下ADL)構造解析図(⑥)を用いて実施した。
【結果】
①では運動機能は予後不良,②では発症4ヶ月以降に屋内歩行が自立,③では96%歩行自立,④では歩行自立度80%,⑤では2ヶ月以内に歩行自立,⑥では75病日目でのFIM運動項目合計点は72.6点と予想され,その数値を使いADL構造解析図から歩行の予測(歩行は下半身更衣と浴槽移乗の中間程度の難易度)を行うと30%程度の確率で歩行自立が予測された。したがって集約すると,運動予後不良の予測もあるが,2ヶ月前後で30~96%の確率で歩行自立する可能性があると予測された。リハビリテーション介入を通して本症例は,BSは上肢II手指II下肢V,SIASは55/76点,MMT体幹5,FIM67/91点,FBSは48/56点となり70病日目に独歩自立となった。予後予測法のうち,③~⑤は高確率で期間も実際の結果と一致し,②は期間に相違があったものの自立という結果は一致,⑥に関しては確率が低かったものの自立の結果と一致し,①だけが実際と異なる結果になった。
【考察】
画像の予測が異なった要因として,麻痺が下肢より上肢優位だという臨床症状もあり,内包後脚における皮質脊髄路の局在で上肢から体幹にかけての病巣であったことが考えられる。対数曲線とADL構造解析図を用いた予測法は,小山ら(2005,2006)が行った研究によって作成された予測法であるが,解析に用いたデータベースは比較的重症例が多いため,歩行と階段については公式なデータ解析が行われていない。一方,小山らが別に行った軽症例を含めた解析では,歩行は下半身更衣と浴槽移乗の中間程度の難易度とある。本症例の下半身更衣の予測点数は3~7点で自立度は60%,浴槽移乗は2~5点で自立度は0%であるが,浴槽移乗は難易度が最も高くADL構造解析図には6点以上の領域が存在しない。そのため,5点の領域を5点以上と解釈すると自立度の確率は向上するが,この解釈に関しては検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
画像所見は臨床上重要性の高い評価であるが,臨床症状と比較しながら病巣の部位を詳細に考察していく必要がある。また,画像所見のみで予後予測を行うのではなく,多角的に予測を行い,適切な目標設定と患者との目標共有が重要だと考える。
臨床において患者の予後予測を行うことは,目標設定や今後の生活を考えていく上で必要不可欠なことであり,過去に多くの方法が報告されている。前田(2001)は小さな病巣でも運動予後の不良な部位として放線冠の梗塞,内包後脚,脳幹,視床(後外側の病巣で深部関節位置覚脱失のもの)と述べている。しかし今回,内包後脚梗塞の患者が発症から70病日目で独歩自立したため,いくつかの予後予測を行い,本症例が独歩自立に至った要因を検討した。予後不良の可能性があった患者が自立に至る症例を経験したため,症例報告を行う。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーションに脳梗塞で入院(入院時15病日目)となった60歳代男性である。病巣は左内包後脚で右半身麻痺Brunnstrom stage(以下BS)上肢II手指II下肢IV,Stroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)は49/76点,Manual Muscle Testing(以下MMT)体幹3左下肢5,感覚障害なし,バビンスキー反射陽性,右上下肢深部腱反射亢進,入院時のFIM(運動項目合計)33/91点で移動(歩行)は1点,Functional Balance Scale(以下FBS)は17/56点であった。リハビリテーションの介入は7単位/日(理学療法4単位,作業療法2単位,言語聴覚療法1単位)で,理学療法プログラムとして,体幹筋力トレーニング,麻痺肢への神経筋促通,麻痺側下肢を軸としたステップ練習,歩行練習を55日間実施した。予後予測は過去の報告から,CT画像(①),年齢(②),運動麻痺(③),Classification and Regression Trees(以下CART)(④),二木の予後予測法(⑤),対数曲線による予後予測とActivities of Daily Living(以下ADL)構造解析図(⑥)を用いて実施した。
【結果】
①では運動機能は予後不良,②では発症4ヶ月以降に屋内歩行が自立,③では96%歩行自立,④では歩行自立度80%,⑤では2ヶ月以内に歩行自立,⑥では75病日目でのFIM運動項目合計点は72.6点と予想され,その数値を使いADL構造解析図から歩行の予測(歩行は下半身更衣と浴槽移乗の中間程度の難易度)を行うと30%程度の確率で歩行自立が予測された。したがって集約すると,運動予後不良の予測もあるが,2ヶ月前後で30~96%の確率で歩行自立する可能性があると予測された。リハビリテーション介入を通して本症例は,BSは上肢II手指II下肢V,SIASは55/76点,MMT体幹5,FIM67/91点,FBSは48/56点となり70病日目に独歩自立となった。予後予測法のうち,③~⑤は高確率で期間も実際の結果と一致し,②は期間に相違があったものの自立という結果は一致,⑥に関しては確率が低かったものの自立の結果と一致し,①だけが実際と異なる結果になった。
【考察】
画像の予測が異なった要因として,麻痺が下肢より上肢優位だという臨床症状もあり,内包後脚における皮質脊髄路の局在で上肢から体幹にかけての病巣であったことが考えられる。対数曲線とADL構造解析図を用いた予測法は,小山ら(2005,2006)が行った研究によって作成された予測法であるが,解析に用いたデータベースは比較的重症例が多いため,歩行と階段については公式なデータ解析が行われていない。一方,小山らが別に行った軽症例を含めた解析では,歩行は下半身更衣と浴槽移乗の中間程度の難易度とある。本症例の下半身更衣の予測点数は3~7点で自立度は60%,浴槽移乗は2~5点で自立度は0%であるが,浴槽移乗は難易度が最も高くADL構造解析図には6点以上の領域が存在しない。そのため,5点の領域を5点以上と解釈すると自立度の確率は向上するが,この解釈に関しては検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
画像所見は臨床上重要性の高い評価であるが,臨床症状と比較しながら病巣の部位を詳細に考察していく必要がある。また,画像所見のみで予後予測を行うのではなく,多角的に予測を行い,適切な目標設定と患者との目標共有が重要だと考える。