第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述26

予防理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 3:00 PM - 4:00 PM 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:島田裕之(国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター生活機能賦活研究部)

[O-0200] 高齢者における骨粗鬆症および歩行能力と認知機能の関係

紙谷司1, 上村一貴2, 西口周1, 土井剛彦3, 浅井剛4, 山田実5 (1.京都大学大学院医学研究科, 2.名古屋大学未来社会創造機構, 3.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター生活機能賦活部, 4.神戸学院大学総合リハビリテーション学部, 5.筑波大学大学院人間総合科学研究科)

Keywords:骨粗鬆症, 歩行能力, 認知機能

【はじめに,目的】
骨粗鬆症,認知症はともに加齢に伴い有病割合が増加する疾患であり,高齢者にとって共通した問題の一つである。さらに骨粗鬆症と認知症は年齢以外にも性別,喫煙・飲酒・運動などを含めた生活習慣といった多くのリスク因子が重複していることや,うつ症状との関連など共通した疫学的特徴を有することが知られている。しかし,骨粗鬆症と認知機能の直接的な関連についてはこれまで一致した見解を得ていない。また,骨粗鬆症患者は歩行能力が低下しており,一方で歩行能力の低下は認知症の発症にも影響することが明らかとなっている。そのため骨粗鬆症と認知機能の関係には,歩行能力が相互的に作用する可能性が考えられるが,それに関する報告はほとんど見られない。
そこで,本研究の目的は,地域在住高齢者における骨粗鬆症と認知機能の関連について,歩行能力の相互的作用を含めて明らかにすることとした。
【方法】
対象は地域老人会への広報で測定会の参加を得られた地域在住高齢者184名である。研究デザインは横断研究である。アウトカムである認知機能評価にはMini-cog testを用いた。Mini-cog testは無関係な3つの単語の復唱と遅延再生,時計描写から構成される検査で,遅延再生が0の場合,もしくは遅延再生が2つ以下でかつ時計描写が不可だった場合に陽性と判定される。主たる要因である骨粗鬆症の評価として定量的超音波骨量測定法を用いた。測定にはA-1000 EXP II(GE Healthcare Japan Co., Ltd, Tokyo, Japan)を使用し,踵骨部の骨量を測定した。本邦における骨粗鬆症の診断基準に則り,若年成人平均値の70%未満を骨量減少ありと定義した。歩行能力として加速・減速区間を除いた10mの直線歩行時間を最大努力下で測定した。その他交絡因子として,年齢,性別,Body mass index(BMI),教育歴,喫煙歴,さらにうつ症状を15項目の短縮版Geriatric Depression Scale(カットオフ5点)で測定した。
解析方法はLog binomial modelを用いた一般化線形回帰分析を行った。従属変数をMini-cog testで判定した認知機能低下の有無,独立変数を骨量減少の有無(Normal,Low群),または10m歩行時間の連続量とした単変量モデル,さらに年齢,性別,BMI,うつ症状,教育歴,喫煙歴で調整した多変量モデルでのリスク比(RR)及び95%信頼区間(95%CI)を算出した。また10m歩行時間の中央値5.55秒で歩行Fast群,Slow群に群分けし,骨量Normal,Low群との組み合わせで分類した4群を独立変数(骨量Low,歩行Fast群をreference)とした解析を同様の統計モデルを用いて行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
184名のうちデータに欠測の無い143名が解析対象となった。Mini-cog testの結果認知機能低下と判定されたのは69名(38.5%)であった。骨量と歩行能力で分類した各4群の認知機能低下割合はそれぞれ(骨量Normal,歩行Fast)群24.4%,(Normal,Slow)群44.3%,(Low,Fast)群50.0%,(Low,Slow)群80.0%であった。交絡因子を調整したRR[95%CI]は骨量が1.69[1.11-2.57],10m歩行時間は1.24[1.01-1.51]といずれも有意な関係を認めた。また,(Normal,Fast)群をreferenceとした場合の各群の調整後RRは(Normal,Slow)群1.77[95%CI 1.03-3.05],(Low,Fast)群2.08[1.00-4.33],(Low,Slow)群2.63[1.44-4.79]であった。
【考察】
本研究の結果から骨量減少と歩行能力低下はそれぞれ他の交絡要因とは独立して認知機能低下と関連することが示された。また骨量,歩行能力の低下が相加的に作用することで認知機能低下を併存しているリスクが2.5倍以上となることが示された。骨粗鬆症と認知症は今回調整した因子以外にもビタミンDや性ホルモンの欠乏といった内分泌系因子もリスクであることが報告されており,共通の発生機序として関与している可能性が考えられる。また骨粗鬆症はフレイルとも関連することが報告されている。歩行能力や認知機能の低下はフレイルの構成要素の一つとして考えられており,フレイルという現象を介して骨量と歩行能力が認知機能と相互的に関連した可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
骨粗鬆症は我々理学療法士にとっても接する機会は多い疾患である。臨床現場において運動指導を行う際に認知機能低下の有無は指導内容の定着や患者自身の自己管理を促す上でも非常に影響の大きい要素である。本研究は骨粗鬆症患者に対して積極的に認知機能評価を行う必要性を提示できた点,さらに歩行能力という理学療法の専門性の高い要素でハイリスク集団を特定できた点で意義のある結果を提示したと考える。