第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述27

地域理学療法3

2015年6月5日(金) 15:00 〜 16:00 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:風間章好(株式会社 富士リハビリステーション 機能訓練プラザ)

[O-0205] リハビリテーション特化型デイケアを利用する脳卒中者における歩行速度と重複歩距離および歩行率の改善の関係―2年間の経時的変化の検討―

松永玄1, 山口智史2, 宮本沙季1, 鈴木研1, 近藤国嗣1, 大高洋平1,2 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

キーワード:通所リハビリテーション, 歩行機能, 後方視的研究

【はじめに,目的】
近年,リハビリテーション(リハビリ)に特化した通所リハビリ(デイケア)の需要が増加している。我々は第49回全国理学療法学術大会において,リハビリ特化型デイケアの利用者において,脳卒中者の歩行速度が長期的に改善することを報告した。一方で,歩行速度の改善とその改善の戦略として変化する重複歩距離および歩行率の関連について検討はされていない。維持期脳卒中者の歩行能力改善の戦略を理解することは,脳卒中者の移動能力向上のための理学療法を提供する上で,重要な示唆を与えると考えられる。そこで本研究では,当院併設のデイケアを利用した脳卒中者について,後方視的に歩行変数の経時的変化を調査し,歩行速度と重複歩距離および歩行率の改善の関係について検討した。
【方法】
2007年5月から2011年9月の間に当院併設のデイケアを利用した463名のうち以下の基準を満たす者を解析対象とした。選択基準は,当デイケアを2年以上継続して利用した者,開始前の歩行能力が監視以上の者,指示理解が良好な者,初回発作の脳梗塞および脳出血である者とした。除外基準は,著明な疼痛・拘縮があり歩行が困難,経時的に評価が困難であった者とした。
調査項目は,歩行速度,歩行率,重複歩距離の歩行変数とした。調査はデイケア利用開始前と利用後3か月,6か月,12か月および24か月において,結果を抽出した。歩行変数は,10 m歩行の快適歩行時間と歩数を2回測定し,平均値を算出した。得られたデータから歩行速度,歩行率,重複歩距離を求めた。
解析は,利用開始前の歩行能力に着目し,歩行能力の分類として,Perryら(1995)による脳卒中を対象とした歩行速度での活動範囲の3分類(<0.4m/s:Household,0.4~0.8 m/s:Limited Community,>0.8 m/s:Full Community)を用いた。その後,3つの群において,歩行変数の改善を検討するために,一元配置分散分析および利用開始前を基準としてDunnett法を用いた解析を行った。
【結果】
選択基準を満たす解析の対象者は,104名(男性54名,女性50名)であり,年齢は64.3±10.2歳(平均値±標準偏差),発症後年数は0.5年(中央値,最小0.3年-最大12.9年)であった。利用開始時において,Household群が31名,Limited群が50名,Full群が23名であった。
歩行速度は,Household群,Limited群ともに利用開始前と比較し,6か月以降すべての時期で有意な改善を認めた。一方,Full群では有意差は認めなかった。歩行率は,Household群では利用開始前と比較し,6か月以降すべての時期で有意な改善を認めた。Limited群では利用開始前と比較し,12か月および24か月で有意な改善を認めたが,Full群ではどの時点においても有意差を認めなかった。重複歩距離においては,すべての群において,利用開始前と比較し,有意差を認めなかった。
【考察】
リハビリ特化型デイケアを24か月利用継続した脳卒中者において,開始時の状態がHouseholdおよびLimitedの両群では,6か月以降に歩行速度が有意に改善した。この両群において,歩行率で有意な改善を認めたが,重複歩距離で改善を認めなかった。このことから,歩行速度を改善する戦略として,歩幅を増加させるのではなく,下肢の回転を増加させる戦略を選択していると推察される。一方,Full群で有意な改善を認めず,利用開始前から歩行能力が高く,天井効果の可能性があると考えられる。今後,歩行速度の経時的変化に影響を与える要因について,より詳細に検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
維持期脳卒中者の歩行速度の改善の戦略について,重複歩距離および歩行率の改善の関係に着目し,2年間という長期的な調査から明らかにした。これは歩行障害への理学療法介入に示唆を与える点で意義がある。