[O-0207] 通所介護サービスにおける理学療法士・作業療法士の配置が12ヵ月後の歩行機能に及ぼす効果
傾向スコアマッチングによる検討
キーワード:デイサービス, 要介護高齢者, 歩行速度
【はじめに,目的】
2012年の介護保険法改正により,通所介護サービスでは個別機能訓練加算IIが新設され,身体機能から生活機能まで総合的に介入することが求められている。そのため理学療法士,作業療法士等のリハビリ専門職を配置する事業所は増えてきている。
しかし,配置の有無による効果に違いについて報告されている先行研究は見当たらない。矢野らによると,介護予防特化型デイサービスセンターに2年間継続して利用した73名を対象に運動機能の推移を調査した結果,介護予防特化型デイサービスが運動機能維持・改善に有効であると述べている。しかし,これらの先行研究では,横断研究であり対象者が少数であること,対照群が設定されていないこと,PT・OTの配置が不明であることなどから,リハビリ専門職配置の有無が運動機能に与える影響について厳密に言及することは難しい。
そこで,本研究では通所介護サービスにおいてリハビリ専門職の有無が運動機能に及ぼす効果について明らかにし,より効率的なサービス形態を検討することを目的とした。
【方法】
対象は全国のデイサービスを利用していた要介護高齢者で,ベースライン時と1年後に通常歩行速度を測定できた830名(平均年齢83.7±6.8歳,男性252名,女性578名)とした。また,認知機能検査であるMental Status Questionnaire(MSQ)を実施し,重度認知機能低下とされる誤答数9以上の者と,他のデイサービス,デイケア,訪問看護,訪問リハビリテーションを利用していた者も除外した。調査項目は,ベースライン時の性別,年齢,要介護,通所介護利用回数と,1年後の要介護度とした。対象者をPT,OTが配置されている事業所を利用している者(以下,PTOT群)と,配置されていない事業所を利用している者(以下,対照群)の2群に分けた。PTOT群と対照群のマッチングには,ベースライン時の年齢,性別,MSQ,要介護度,月間の通所介護利用回数を共変量としたpropensity scoreを用いた。
統計学的解析は,専門職配置の有無(PTOT群,対照群)と時間(ベースライン,1年後)を要因とした反復測定分散分析を行い,歩行速度に関して配置の有無と時間の主効果および交互作用を確かめた。またその後の検定として,歩行速度についてベースライン時と1年後の差と各時点における群間差を確かめるために単変量解析を行った。
【結果】
PTOT群で453名(平均年齢83.6±7.0歳,男性127名,女性304名),対照群で427名(平均年齢83.8±6.6歳,男性125名,女性274名)であった。通常歩行速度はPTOT群ではベースライン,1年後の順に,0.69±0.28m/秒,0.71±0.29m/秒,対照群では0.68±0.28m/秒,0.64±0.30m/秒であった。反復測定分散分析により,歩行速度に関しては,時間の主効果はなく,PTOT配置の有無に関する主効果,時間と群の交互作用は認められた。また,群ごとにベースラインと1年後の歩行速度を対応のあるt検定で比較すると,PTOT群では有意差は認められず,対照群では有意に低下していた。さらに,対応のないt検定で群間差を比較すると,ベースラインでは有意差は認めらないが,1年後は有意差が認められた。
【考察】
通所介護サービスを利用している要介護高齢者において,歩行機能の1年間の経時的変化をリハビリ専門職配置の有無で調査したところ,PTOT群では1年間で有意な変化は認められなかったが,対照群では有意な低下を示した。これは,PTOT群は対照群に比べ歩行速度が維持されていたことを示しており,PT・OT配置による身体機能への効果が示唆された。我々は,要介護高齢者のADLに関して,運動機能の中でも特に歩行速度と強い関連があり,ADL低下予防を図る上で重要視すべき機能であることを明らかにした。また,Tootsらは,超高齢者においても通常歩行速度と死亡率が関連していることを報告している。先行研究からも要介護高齢者の歩行速度はADLや死亡率と関連してくることが考えられるため,通所介護サービスにけるPT,OT配置の必要性が示唆される。今後は,さらに長期間の追跡を行い,生活機能や要介護度へ及ぼす影響について検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
通所介護サービスにおいて,リハビリ専門職の配置が歩行機能と関連していたことは,今後のPTの職域拡大につながる可能性があり,ケアプラン作成支援や地域ケア会議等,他職種との連携促進にもつながると考える。
2012年の介護保険法改正により,通所介護サービスでは個別機能訓練加算IIが新設され,身体機能から生活機能まで総合的に介入することが求められている。そのため理学療法士,作業療法士等のリハビリ専門職を配置する事業所は増えてきている。
しかし,配置の有無による効果に違いについて報告されている先行研究は見当たらない。矢野らによると,介護予防特化型デイサービスセンターに2年間継続して利用した73名を対象に運動機能の推移を調査した結果,介護予防特化型デイサービスが運動機能維持・改善に有効であると述べている。しかし,これらの先行研究では,横断研究であり対象者が少数であること,対照群が設定されていないこと,PT・OTの配置が不明であることなどから,リハビリ専門職配置の有無が運動機能に与える影響について厳密に言及することは難しい。
そこで,本研究では通所介護サービスにおいてリハビリ専門職の有無が運動機能に及ぼす効果について明らかにし,より効率的なサービス形態を検討することを目的とした。
【方法】
対象は全国のデイサービスを利用していた要介護高齢者で,ベースライン時と1年後に通常歩行速度を測定できた830名(平均年齢83.7±6.8歳,男性252名,女性578名)とした。また,認知機能検査であるMental Status Questionnaire(MSQ)を実施し,重度認知機能低下とされる誤答数9以上の者と,他のデイサービス,デイケア,訪問看護,訪問リハビリテーションを利用していた者も除外した。調査項目は,ベースライン時の性別,年齢,要介護,通所介護利用回数と,1年後の要介護度とした。対象者をPT,OTが配置されている事業所を利用している者(以下,PTOT群)と,配置されていない事業所を利用している者(以下,対照群)の2群に分けた。PTOT群と対照群のマッチングには,ベースライン時の年齢,性別,MSQ,要介護度,月間の通所介護利用回数を共変量としたpropensity scoreを用いた。
統計学的解析は,専門職配置の有無(PTOT群,対照群)と時間(ベースライン,1年後)を要因とした反復測定分散分析を行い,歩行速度に関して配置の有無と時間の主効果および交互作用を確かめた。またその後の検定として,歩行速度についてベースライン時と1年後の差と各時点における群間差を確かめるために単変量解析を行った。
【結果】
PTOT群で453名(平均年齢83.6±7.0歳,男性127名,女性304名),対照群で427名(平均年齢83.8±6.6歳,男性125名,女性274名)であった。通常歩行速度はPTOT群ではベースライン,1年後の順に,0.69±0.28m/秒,0.71±0.29m/秒,対照群では0.68±0.28m/秒,0.64±0.30m/秒であった。反復測定分散分析により,歩行速度に関しては,時間の主効果はなく,PTOT配置の有無に関する主効果,時間と群の交互作用は認められた。また,群ごとにベースラインと1年後の歩行速度を対応のあるt検定で比較すると,PTOT群では有意差は認められず,対照群では有意に低下していた。さらに,対応のないt検定で群間差を比較すると,ベースラインでは有意差は認めらないが,1年後は有意差が認められた。
【考察】
通所介護サービスを利用している要介護高齢者において,歩行機能の1年間の経時的変化をリハビリ専門職配置の有無で調査したところ,PTOT群では1年間で有意な変化は認められなかったが,対照群では有意な低下を示した。これは,PTOT群は対照群に比べ歩行速度が維持されていたことを示しており,PT・OT配置による身体機能への効果が示唆された。我々は,要介護高齢者のADLに関して,運動機能の中でも特に歩行速度と強い関連があり,ADL低下予防を図る上で重要視すべき機能であることを明らかにした。また,Tootsらは,超高齢者においても通常歩行速度と死亡率が関連していることを報告している。先行研究からも要介護高齢者の歩行速度はADLや死亡率と関連してくることが考えられるため,通所介護サービスにけるPT,OT配置の必要性が示唆される。今後は,さらに長期間の追跡を行い,生活機能や要介護度へ及ぼす影響について検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
通所介護サービスにおいて,リハビリ専門職の配置が歩行機能と関連していたことは,今後のPTの職域拡大につながる可能性があり,ケアプラン作成支援や地域ケア会議等,他職種との連携促進にもつながると考える。