[O-0212] 胃癌開腹手術患者の術後合併症予測における術前Frailty評価の有効性
キーワード:Frailty, Clinical Frailty Scale, 術後合併症
【はじめに,目的】
消化器科術後のADLとQOLを維持するためには,術後合併症の発生防止が重要である。術後合併症予測には,これまでE-PASSやPOSSUM,PNI等の予測式が考案され,その有効性が報告されてきた。これらの予測式は,生化学検査を始めとした検査結果に基づき予測するものである。当院でもこれらの予測式を利用し全予定入院患者へのスクリーニングの導入を試みたが,利便性の観点から臨床使用までには至らなかった。そこで本研究ではFrailtyに注目し,胃癌開腹手術患者における術前のFrailtyの有無と術後合併症の関連を解析して,術前からのFrailty評価の有効性を検討した。
【方法】
2013年4月から2014年3月までの胃癌開腹手術患者連続48名を対象に後方視的に入院前ADLや生活歴を抽出し,Clinical Frailty Scale(以下,CFS)を用いて分類した。CFSは7段階評価で,Score1:健康状態が非常によい(足腰が強く,定期的な運動習慣がある),Score2:健康状態がよい(活動制限はないが,Score1の人と比較すると健康状態が劣る),Score3:健康状態はよいが治療した併存疾患がある(併存疾患の症状はScore4と比較するとコントロールされている),Score4:やや脆弱(IADL・ADLに介助を要さないが,動作緩慢であったり,疾患の症状を呈したりする),Score5:軽度虚弱(IADLに限り介助を要する),Score6:中等度虚弱(IADL・ADLともに介助を要する),Score7:重度虚弱(ADL全介助)である。CFS Score3以下をFrailty無群,Score4以上をFrailty有群と定義し,Frailtyの有無と術後合併症の関連を解析し,さらにFrailty有群の特徴を解析した。検討項目は,年齢,性別,BMI,術式,手術時間,出血量,術後合併症の有無・重症度・内訳,リハビリ介入の有無,リハビリ開始までの日数,端坐位・歩行開始までの日数,入院前BI,リハビリ開始時BI,退院時BI,転帰,転院理由,在宅復帰率である。統計学的解析はSPSSにてt検定,χ2検定を行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
Frailty無群は39例,Frailty有群は9例であった。検討項目の結果(Frailty無群/Frailty有群)は,年齢(69.4±9.7歳/79.0±9.0歳),性別(男性31例・女性8例/男性5例・女性4例),BMI(23.2±3.8kg/m2/20.2±3.4 kg/m2),術式(全摘15例・部分切除20例・胃空腸吻合2例・試験開腹2例/全摘4例・部分切除3例・胃空腸吻合1例・試験開腹1例),手術時間(292.7±71.9分/235.2±95.5分),出血量(309.7±290.2g/273.9±273.6g),術後合併症の有無(有10例/有6例),重症度(軽度6例・中等度2例・重度2例/軽度5例・中等度1例・重度0例),内訳(感染性合併症8例・非感染性合併症2例/感染性合併症4例・非感染性合併症2例),リハビリ介入の有無(有27例/有9例),リハビリ開始までの日数(1.7±2.0日/2.0±1.3日),端坐位開始までの日数(1.4±0.6日/1.3±0.5日),歩行開始までの日数(1.9±0.9日/2.0±1.3日),入院前BI(99.6±1.9点/95.6±10.1点),リハビリ開始時BI(25.6±24.2点/27.2±29.2点),退院時BI(96.3±8.0点/81.7±21.9点),転帰(在宅26例・転院13例/在宅1例・転院8例),転院目的(療養10例・栄養管理2例・リハビリ1例/療養5例・栄養管理2例・リハビリ1例),在宅復帰率(67%/11%)であった。Frailty有群では,有意に高頻度に術後合併症を認めた。CFSが術後合併症を予測する感度は67%,特異度は74%であった。また,Frailty有群は有意に高齢で,BMIが低値であり,転院した患者が多く,在宅復帰率も低値であった。しかし,一方で手術時間は有意に短かった。そのため,手術時間が術後合併症に与える影響を追加検討したが,手術時間は術後合併症の予測因子にはならなかった。
【考察】
当院ではクリニカルパスに基づき術後1日目から歩行を開始し離床を促進している。また,病棟には理学療法士が常駐し常時術後患者の情報を多職種と共有し,離床が進んでいない患者の把握に努めている。Frailty評価は従来の術後合併症予測式と同様に合併症の予測が可能であり,少なくともIADLの介助の有無を問診するだけでFrailtyの有無が判断できる簡便な評価である。Frailty評価を周術期の患者管理の1つとして術前に導入し,Frailtyありと判断された症例には術後早期介入のみならず,術前からの体力向上(Pre-Rehabilitation)や食事管理などの全身状態改善に介入することで,Frailty改善から術後合併症の防止に寄与する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
術前よりFrailtyを評価することは術後合併症の予測に有効であり,周術期における理学療法介入基準の一指標になり得る。
消化器科術後のADLとQOLを維持するためには,術後合併症の発生防止が重要である。術後合併症予測には,これまでE-PASSやPOSSUM,PNI等の予測式が考案され,その有効性が報告されてきた。これらの予測式は,生化学検査を始めとした検査結果に基づき予測するものである。当院でもこれらの予測式を利用し全予定入院患者へのスクリーニングの導入を試みたが,利便性の観点から臨床使用までには至らなかった。そこで本研究ではFrailtyに注目し,胃癌開腹手術患者における術前のFrailtyの有無と術後合併症の関連を解析して,術前からのFrailty評価の有効性を検討した。
【方法】
2013年4月から2014年3月までの胃癌開腹手術患者連続48名を対象に後方視的に入院前ADLや生活歴を抽出し,Clinical Frailty Scale(以下,CFS)を用いて分類した。CFSは7段階評価で,Score1:健康状態が非常によい(足腰が強く,定期的な運動習慣がある),Score2:健康状態がよい(活動制限はないが,Score1の人と比較すると健康状態が劣る),Score3:健康状態はよいが治療した併存疾患がある(併存疾患の症状はScore4と比較するとコントロールされている),Score4:やや脆弱(IADL・ADLに介助を要さないが,動作緩慢であったり,疾患の症状を呈したりする),Score5:軽度虚弱(IADLに限り介助を要する),Score6:中等度虚弱(IADL・ADLともに介助を要する),Score7:重度虚弱(ADL全介助)である。CFS Score3以下をFrailty無群,Score4以上をFrailty有群と定義し,Frailtyの有無と術後合併症の関連を解析し,さらにFrailty有群の特徴を解析した。検討項目は,年齢,性別,BMI,術式,手術時間,出血量,術後合併症の有無・重症度・内訳,リハビリ介入の有無,リハビリ開始までの日数,端坐位・歩行開始までの日数,入院前BI,リハビリ開始時BI,退院時BI,転帰,転院理由,在宅復帰率である。統計学的解析はSPSSにてt検定,χ2検定を行い,有意水準を5%未満とした。
【結果】
Frailty無群は39例,Frailty有群は9例であった。検討項目の結果(Frailty無群/Frailty有群)は,年齢(69.4±9.7歳/79.0±9.0歳),性別(男性31例・女性8例/男性5例・女性4例),BMI(23.2±3.8kg/m2/20.2±3.4 kg/m2),術式(全摘15例・部分切除20例・胃空腸吻合2例・試験開腹2例/全摘4例・部分切除3例・胃空腸吻合1例・試験開腹1例),手術時間(292.7±71.9分/235.2±95.5分),出血量(309.7±290.2g/273.9±273.6g),術後合併症の有無(有10例/有6例),重症度(軽度6例・中等度2例・重度2例/軽度5例・中等度1例・重度0例),内訳(感染性合併症8例・非感染性合併症2例/感染性合併症4例・非感染性合併症2例),リハビリ介入の有無(有27例/有9例),リハビリ開始までの日数(1.7±2.0日/2.0±1.3日),端坐位開始までの日数(1.4±0.6日/1.3±0.5日),歩行開始までの日数(1.9±0.9日/2.0±1.3日),入院前BI(99.6±1.9点/95.6±10.1点),リハビリ開始時BI(25.6±24.2点/27.2±29.2点),退院時BI(96.3±8.0点/81.7±21.9点),転帰(在宅26例・転院13例/在宅1例・転院8例),転院目的(療養10例・栄養管理2例・リハビリ1例/療養5例・栄養管理2例・リハビリ1例),在宅復帰率(67%/11%)であった。Frailty有群では,有意に高頻度に術後合併症を認めた。CFSが術後合併症を予測する感度は67%,特異度は74%であった。また,Frailty有群は有意に高齢で,BMIが低値であり,転院した患者が多く,在宅復帰率も低値であった。しかし,一方で手術時間は有意に短かった。そのため,手術時間が術後合併症に与える影響を追加検討したが,手術時間は術後合併症の予測因子にはならなかった。
【考察】
当院ではクリニカルパスに基づき術後1日目から歩行を開始し離床を促進している。また,病棟には理学療法士が常駐し常時術後患者の情報を多職種と共有し,離床が進んでいない患者の把握に努めている。Frailty評価は従来の術後合併症予測式と同様に合併症の予測が可能であり,少なくともIADLの介助の有無を問診するだけでFrailtyの有無が判断できる簡便な評価である。Frailty評価を周術期の患者管理の1つとして術前に導入し,Frailtyありと判断された症例には術後早期介入のみならず,術前からの体力向上(Pre-Rehabilitation)や食事管理などの全身状態改善に介入することで,Frailty改善から術後合併症の防止に寄与する可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
術前よりFrailtyを評価することは術後合併症の予測に有効であり,周術期における理学療法介入基準の一指標になり得る。